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NIRA政策提言ハイライト

テレワークを感染症対策だけで終わらせないために

NIRA政策提言ハイライト 2021/03発行

 新型コロナが蔓延するなか、テレワークの利用が急速に広まっている。テレワークはコロナ危機前から、ワークライフバランスの改善や、生産性向上を図る手段として期待されてきたが、その利用は限定的であった。テレワークを感染症対策だけで終わらせず、ポストコロナ社会でも有効利用していくために、私たちは何を考える必要があるのだろうか。

■テレワークと生産性の関係
 「テレワークは生産性にプラスなのか?」―これは、ポストコロナ社会でのテレワークの利用を考えたとき、多くの人に突きつけられる問いだろう。これに関して、多くの先行研究が蓄積されているが、一貫した結果は得られていない。例えば、Bloom et al (2015) は、コールセンター業務において、在宅勤務が生産性を向上させることを確認している。そのメカニズムとして、休憩、病欠の減少による勤務時間の増加、静かで便利な就業環境による仕事の効率化があることを明らかにしている。一方、Battistion et al (2017) は、警察への通報を処理し警察官を派遣する業務において、同僚が同じ部屋にいる場合や、部屋の中でもデスクが近い場合に生産性が高くなることを発見し、特に、緊急で複雑なタスクでその効果が強いと報告している。これらの研究からもわかるように、テレワークが生産性に与える影響がはっきりしないのは、テレワークには向き不向きの業務があることや、生産性は職場や自宅の就業環境にも依存することが一因だろう。
 ここで留意したいのは、必ずしもテレワークが不向きな業種ほど、テレワークの障害が多いとは限らない点だ。図1はテレワークの向き不向きと、テレワークの障害を業種別に確認したものであるが、例えば、飲食・宿泊、教育、医療・福祉などで働く人は、自分の業種はテレワークに不向きと認識する割合が高い。しかしながら、個別のテレワークの障害を認識している人の割合は全般的に低い。NIRAオピニオンペーパーNo.47「テレワークを感染症対策では終わらせない―就業者実態調査から見える困難と矛盾―」で大久保敏弘教授は、一見、テレワークが困難に思われる業種であっても、管理業務や事務業務などではテレワークの利用が進む可能性があると指摘する。サービスのオンライン化、自動化が進展すれば、さらにテレワークが進む余地があるという。程度の差はあれ、どの業種にもテレワークにより生産性を向上させるポテンシャルはある。

図1 業種別のテレワークの障害

(出所)NIRAオピニオンペーパーNo.47 (2020) 「テレワークを感染症対策では終わらせない―就業者実態調査から見える困難と矛盾―
「以下のことは、テレワークの利用にあたって、どの程度障害となりましたか。」という設問で、「非常に大きな障害となった」または「ある程度障害となった」と回答した割合。


■テレワークか職場か、ベストミックスを模索しよう
 では、いかにして、そのポテンシャルを引き出せるだろうか。NIRAわたしの構想No.50「組織と個人をリ・アジャストする」で、楠木建教授は、「効率」か「効果」のどちらが目的なのかを見極める「センス」が重要と説く。例えば、会議1つをとっても、事務的な会議は効率を追求し「オンライン」、アイデア出しやチームの士気向上の場面では効果を追求し「オフライン」といった具合だ。新しい動きに応じてオンラインスキルの獲得ばかりに走り、本来の目的を見失っては本末転倒と指摘する。
 センスの獲得には経験も重要だ。慶應義塾大学とNIRA総研がコロナ下で日本の就業者に対して実施した「テレワークに関する就業者実態調査」のデータを分析したOkubo et al (2021)では、テレワークの利用期間や労働時間が長い人は、主観的な仕事の効率性が高いことを確認している。テレワークの経験を積むなかで、テレワークと職場で行う業務を特化させていき、テレワークと職場のベストミックスを模索することが、生産性を高めるカギなのだろう。

■職場の環境整備を考える
 ベストミックスを模索するための環境整備も欠かせない。上のBloom et al (2015)では、テレワークを自分の意思で選択した労働者は、強制的にテレワークをさせられた労働者と比べて、生産性が高いことを報告している。また、Okubo et al (2021)では、柔軟な働き方ができる職場に勤めるテレワーク利用者ほど、主観的な仕事の効率性が高いことを確認している。自発的にテレワークを選択できる環境が労働者のモチベーションを高め、テレワークの生産性に寄与しているのかもしれない。
 とはいえ、労働者の自由なテレワークの選択自体がベストミックスを保証するものではないだろう。同わたしの構想でトーマス・リー准教授は、「離れて働いていると、インフォーマルで非言語的な指導が得られない」と、テレワークによる企業文化や信頼関係の劣化に警鐘を鳴らす。こうしたテレワークによる長期的なマイナスの影響を打ち消すためには、対面での交流機会を意図的に作る工夫が求められよう。その意味で、テレワークの利用を考えることは、職場の利用を考えることであり、テレワークが進展すればするほど、職場は交流の場としての重要性をより一層強くしていくだろう。


<参考文献>
大久保敏弘・NIRA 総合研究開発機構(2021)「第3回テレワークに関する就業者実態調査報告書
NIRAオピニオンペーパーNo.47 (2020) 「テレワークを感染症対策では終わらせない―就業者実態調査から見える困難と矛盾―
NIRAわたしの構想No.50 (2020)「組織と個人をリ・アジャストする
Battiston, D., Blanes i Vidal, J., & Kirchmaier, T. (2017) “Is Distance Dead? Face-to-Face Communication and Productivity in Teams,” CEPR Discussion Paper No. DP11924.
Bloom, N., Liang, J., Roberts, J., & Ying, Z. J. (2015). “Does working from home work?
Evidence from a Chinese experiment,
The Quarterly Journal of Economics, 130(1), 165-218.
Okubo, T., Inoue, A., & Sekijima, K. (2021). “Teleworker performance in the COVID-19 era in Japan,” Asian Economic Papers, 20:2, 150-167.

井上敦(NIRA研究コーディネーター・研究員)

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