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NIRA政策提言ハイライト

スマート農業の実装にむけ、プラットフォームづくりを急げ

NIRA政策提言ハイライト 2019/12発行

■農業人口の減少がとまらない
 日本の就農者数の減少がとまらない。1976年に750万人だった農業就業人口は、2019年には170万人を切る見込みだ。減少の勢いはとまる気配がなく、前年割れを更新し続けている(図表1)。平均年齢は66.8歳(2018年)。高齢化も深刻だ。農林水産省は、農家人口に占める高齢者割合(43.5%)を、総人口に占める高齢者割合(27.9%)と対比させた「農村の現状に関する統計」というWebページを作って、農家の高齢化の深刻さを訴えている。
 農業は生産活動の一つであるだけでなく、国民の健康的な生活を支える基盤である。農村は農業を営む場であると同時に、日本の国土の保全や景観の維持においても重要な役割を担っている。日本全体が人口減少と高齢化の危機に瀕している中で、日本の農業はどうなってしまうのか。NIRAでは二人の専門家にインタビューした(NIRAわたしの構想No.44(2019)「ITに託す日本の未来」)。

図表1 農業就業人口


注) 2019年は概算値
出所) 農林水産省「農業構造動態調査」

■テクノロジーによる解決という光明
 農業情報学が専門の二宮正士東大特任教授によると、「人手不足を補い、生産を効率化するための、農作業の自動化やロボット化の技術が日々発展し、コストも低下している」という。確かに、農林水産省の資料をみると、大規模水稲については、土地の耕起から、田植え、生育把握や栽培管理、施肥、除草、収穫まで、農作業の工程をほぼカバーする形で、自動化の技術の実用化や研究開発が進んでいることが分かる(図表2)。頼もしい状況だ。
 しかし、問題は、総農家数の4割強を占める中山間地域の農業だ。山地の多い日本では、もともと総土地面積の7割を中山間地域が占めている。こうした狭い、山あいの農地で生産効率を高めていくことは大変難しい。ロボット等のさらなる技術進化に期待がかかる一方で、二宮教授が提唱するのが、農家のネットワーク化構想だ。AIやIoTを活用し、各地域、各農家の生産工程をネットワーク化して仮想共同的に経営を行えば、生産管理の効率化や資材の共同購入などにより、日本のような小規模農地でも大規模農地並みの効率を期待できるという。
 農業の現場でAIやIoTを活用する試み自体は、すでに始まっている。IoT等のプラットフォームサービスを提供している株式会社オプティムも、スマート農業のソリューションを提供する企業の一つだ。例えば、同社では、AIによる画像解析とドローンを組み合わせて、害虫にピンポイントで少量の農薬を散布する技術を開発。農薬散布の自動化だけでなく、99.9%の農薬削減を実現し、その「減農薬野菜」は市場で3倍の高値をつけているというから興味深い。

図表2 大規模水稲におけるスマート農業技術の実用化・研究開発の状況

出所) 農林水産省(2019)「スマート農業の社会実装に向けた具体的な取組について(平成 31 年 2 月)」をもとに、NIRA作成。

■「仕組みづくり」をいかにスムーズに進めるか
 テクノロジーの発展は心強い。日本全体で生産年齢人口が減少する中、テクノロジーの活用なくして、農業の維持、まして農業の成長産業化は不可能とすら言える。
 現在、各地の開発企業・研究機関でさまざまな技術開発や実証実験が進められているが、農業のあり方や構造、人びとの働き方までもが大きく変わるためには、個々に行われている技術開発の次の段階、すなわち、いかにスムーズに実装を進めていくかが重要なカギになる。技術やシステムが標準化され、社会での実装が一定規模に進まなければならない。導入コストをどうするか、またビッグデータの時代のデータの共有・活用方法も検討が必要だ。そうした仕組みづくりが、今、もっとも重要な課題だろう。
 その意味でも、二宮教授のネットワーク構想は重要な提案だ。中山間地域の農業の生産性向上という、長年の課題に焦点を当て、その解決を目指す中で、農業×ITプラットフォームの形成が促されていくと考えられるからだ。また、前述のオプティムも、「スマート農業アライアンス」という取り組みを進めており、参考になる。農家のほかに、企業や金融機関、自治体、大学など、主体を問わず、スマート農業のプロジェクトに参加できる。農林水産省も、スマート農業の実装を加速するプロジェクトを広く進行中だ。
 農業の担い手不足は待ったなしの状況にきている。官民を問わず、こうした取り組みが速やかに実を結び、新しい農業の仕組み形成につながっていくことを期待したい。

<参考文献>
NIRAわたしの構想No.44(2019)「ITに託す日本の未来
農林水産省:
「農村の現状に関する統計」https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/12.html
「農業就業人口及び基幹的農業従事者数」https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html#1
「中山間地域等について」https://www.maff.go.jp/j/nousin/tyusan/siharai_seido/s_about/cyusan/

榊 麻衣子(NIRA研究コーディネーター・研究員)

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