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NIRA政策提言ハイライト

捏造ニュースへの防衛策が示す新たな民主政治

NIRA政策提言ハイライト 2019/11発行

■関心が集まる捏造ニュース
 国民が最も懸念する社会的な課題は、国によって大きく異なる。日本では、老後の生活や社会保障問題などがトップにくると思われるが、米国では薬物依存や医療が最大の関心事である。図1は、Pew Research Centerによる2019年の米国でのアンケート調査結果だ。主要な関心事項が日本とは大きく異なることがわかる。中でも目を引くのが、ニュース・情報の捏造、いわゆるフェイクニュースを懸念する人の多さである。全体の50%もあり、その割合は暴力犯罪やテロよりも高い。また、同調査で、68%の人々が、捏造された情報が統治への信頼性にマイナスの影響をもたらすと考えていることも明らかとなった。もし、人々の懸念が実態を表しているとすれば、これは民主政治にとって極めて憂慮すべき状況といえる。


(注)Pew Research Centerのホームページより作成。調査は、2019年2月~3月のうち2日間実施され、6,127人が回答。数値は、現在の米国にとって非常に重要だと回答した人の割合。
(出所)Pew Research Center https://www.journalism.org/2019/06/05/many-americans-say-made-up-news-is-a-critical-problem-that-needs-to-be-fixed/ (2019年11月25日アクセス) 

■悪事千里を走る
 政治家が、嘘をついてでも人々の関心を買おうとする行為は、今に始まったものではない。しかし、今日、新しく加わった課題は、インターネットを通じて、政治家が国民や支持者に直接訴えかけられることにある。そうなれば、事実と異なる情報でも一瞬にして多くの人々の間で拡散し、混乱を招く。
 問題を深刻にしているのは、その情報発散の経路である。NIRAわたしの構想No.31「ポスト・トルゥースの時代とは」で谷口将紀教授は、ネット社会で情報が発散する状況を「反響室(エコーチェンバー)」という言葉で紹介している。ケーブルテレビやネットの広がりによって、たとえば、アメリカでは保守派の人なら保守系の新聞を読み、ネットでも保守の人々と情報交換をしている。つまり、自らの政治的傾向に沿う言説ばかりをえり好みしていることになる。この結果、その人の中では、まるで反響室のなかにいるように同じ声ばかりが延々にこだまする。こんな状況で捏造されたニュースが行き交えば、真面目な政策論などは簡単に吹き飛んでしまうだろう。

■反響を抑える二つのアプローチ
 では、こうした現象にどう対処すればよいのか。まずは、フェイクニュースそのものが拡散しないようにすることが必要だ。これに関しては、同じ号で朝日新聞政治部記者の園田耕二氏やバズフィードジャパンの古田大輔氏が挙げている対応策が有効だ。具体的には、政治家の言説が事実かどうかをメディアが監視し、その結果を公表する。また、捏造されたニュースがいたずらに拡散されないようにするため、フェイスブックなどのプラットフォーム企業が対応のルールを示すことである。バズフィードはトランプ大統領の嘘をはじめ怪しい情報を検証しネットで公表している。
 もう一つは、反響室効果の方を抑制することだろう。そのためには、市民が、なるべく自身と異なる意見を持つ人と対話をする機会を増やすことだ。対面して話をすることで、お互いが接している情報源がかなり違っていることがわかり、自分の情報にも偏りがあることを自覚することができる。この方法は、迂遠に感じられるかもしれないが、自分自身の気づきを通じて情報社会の歪みから自衛することができる。
 今日、私たちはデジタル化による恩恵を多く受けている。しかし、ニュースの捏造を放置しておけば、米国民が懸念しているように、民主政治が大きなダメージを受けることになろう。ここでは、ネットが生んだ不都合をメディアが互いに監視し、また、人々が対話することよって解消することを提案する。こうした取り組みが、デジタル時代にふさわしい新たな民主政治のあり方を模索していくことになる。

<参考文献>
NIRAわたしの構想No.31(2017)「ポスト・トルゥースの時代とは

神田玲子(NIRA理事・研究調査部長)

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