利用方法

日本を動かす知をつなぎ、政策課題を論じ、ビジョンを提示するシンクタンク

トップ > 研究の成果と課題の発信 > NIRA政策提言ハイライト > Ed-techでアフリカの教育の質の向上を

NIRA政策提言ハイライト

Ed-techでアフリカの教育の質の向上を

NIRA政策提言ハイライト 2019/8発行


 2019年8月末の今、横浜市で第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が開催されている。テーマは「アフリカに躍進を!ひと,技術,イノベーションで。」だ。人材育成、科学技術を得意とする日本はどのような支援を行い、支援を通じて何を学ぶべきだろうか。

■アフリカにおける教育の重要性
 天然資源に恵まれ、2050年には20億人を突破すると予測されているアフリカは、世界中が注目する「最後のフロンティア」である。近年は、ICTが急速に進展し、社会経済が段階を踏まずに一足飛びに進歩するリープフロッグ現象が起きている。潜在力あふれるアフリカだが、生産性の低い仕事から脱却できていないのも事実である。図1は人口1人当たりの製造業の付加価値額だが、アフリカの低さは顕著である。

図1 世界地域別に見た人口1人当たりの製造業の付加価値額(名目、2017年)


注1)各地域の製造業付加価値額の総計を、各地域の人口計で割った数値。国によっては 2017 年以外の直近データも含む。
注2)中国(アジア太平洋に含まれる)の 1 人当たりの製造業付加価値額は 2,567 ドル。米国(北アメリカに含まれる)は 6,684 ドル。
出所)NIRAわたしの構想No.43(2019)「アフリカ経済の今


 NIRAわたしの構想No.43「アフリカ経済の今」で、Institute for Global Dialogue シニアリサーチアソシエイトのアシュラフ・パテル氏は、アフリカの製造業が先進国の生産プロセスに組み込まれていない現状に警鐘を鳴らし、付加価値の高い財の生産にシフトできるかがアフリカ経済発展のカギになると指摘している。レックスバート・コミュニケーションズ株式会社代表取締役の田中秀和氏は、アフリカ自身の手でICTを活用したイノベーションを生み出すには、技術者の層を厚くし、実務経験を通して「感覚知」を修得していくほかないと説く。急増する若者がアフリカ経済をけん引する立役者になるためには、個々の生産能力を高める必要があり、教育投資を通じた人材育成が欠かせないのである。

■教育と経済成長
 教育投資は単に学校などの教育インフラを整え、教育機会を保障すればよい、というものではない。投資である限り、将来の収益を生み出すことに結実しなければならない。

図2-1 平均学力と1人当たりGDP成長率 図2-2 平均教育年数と1人当たりGDP成長率
(平均学力を制御)


注1)各点は国を表している。
注2)図2-1は推計モデルに1960年時の1人当たりGDP、及び、1960年時の平均教育年数を含む。
注3)図2-2は推計モデルに1960年時の1人当たりGDP、及び、平均学力を含む。
出所)Hanushek, E. A., and Woessmann, L. (2015) The knowledge capital of nations: Education and the economics of growth.Cambridge, MA: MIT press.
引用)図はHanushek, E. A. (2017) “For long-term economic development, only skills matter.” IZA World of Labor. から引用。

 Hanushek and Woessmann (2015)では教育と経済成長の関係を分析し、一国の平均学力と1人当たりGDP成長率の間には強い正の関係があることを明らかにしている(図2-1)。分析結果によると、平均学力が1標準偏差大きいと、1人当たりGDP成長率が2%高い1 。これは2018年におけるOECD諸国(1.6%)とサブサハラ・アフリカ諸国(-0.3%)の差に相当し、かなり大きいといえる。他方、(一国の平均学力を一定としたときの)一国の平均教育年数と1人当たりGDP成長率の間には関係性がみられない(図2-2)。これらの結果は、教育投資を経済成長に結実させるためには、教育年数を積み増すだけでは難しく、教育の成果としての学力を高めなければならないことを示唆している。要は質の高い学びが必要なのである。

■Ed-tech による質の高い学び
 いかにしてアフリカで質の高い教育を実現できるだろうか。アフリカ開発銀行アジア代表事務所所長(当時)の横山正氏が指摘するように、広大で人口密度の高くないアフリカ大陸での課題克服には、ICT、デジタル技術が大きな役割を果たす。先進国とは制度が異なり、レガシーが必ずしもないことも、革新的方法を実装するうえで追い風となる。
 その環境をいかして、Ed-tech(エドテック)による創造的な教育を広めることはできないだろうか。Ed-techはICTを用いた教育ソリューションであり、個に応じたアプローチで教育の質を改善しうる。例えば、AIが搭載された教育ソフトを用いて、個々の生徒の学習達成度を測定。それに応じたオーダーメイド型の指導を、スクリーンを通じて“AI先生”が実施。カメラやマイクから収集されるリアルタイムのビッグデータを解析し、生徒の状況に応じて最適な指導を柔軟に選択してゆく。生徒への指導のみならず、教員の指導方法の改善案や、学校経営の最適化を提案するといった具合である。

■創造的な教育とリバース・イノベーション
 最先端技術が矢継ぎ早に導入されているアフリカで、こうしたEd-techを用いた教育は、そう遠くない未来に、世界に先駆けて実現しているかもしれない。その意味で、アフリカは世界で最もイノベーティブな地域であり、そこでの取組はリバース・イノベーションとして、日本の教育改革にも大きく貢献するだろう。アフリカと日本にwin-winの関係をもたらしうる創造的な教育の実践が、次のTICAD8までに日本発で広まっていることを期待したい。

―――――――――――――
1標準偏差が1大きくなることは、日本のテストなどで馴染み深い偏差値(平均50、標準偏差10のスコア)に置き換えると、偏差値が10大きくなることを意味する。

<参考文献>
NIRAわたしの構想No.43(2019)「アフリカ経済の今
Hanushek, E. A. (2017) “For long-term economic development, only skills matter.” IZA World of Labor. 
Hanushek, E. A., and Woessmann, L. (2015) The knowledge capital of nations: Education and the economics of growth. Cambridge, MA: MIT press.

井上敦(NIRA研究コーディネーター・研究員)

このページのトップへ