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グローバル化の中でローカリズムを再生する
■地方自治への関心が大きく低下
4年に一度の統一地方選挙が、平成最後の月となる2019年4月に実施された。「地方自治は民主主義の学校である」とも言われるが、市民の関心が大きく低下している。
投票率は低下の一途をたどっている。1950年代は80%を超えることもあったが、2000年代には50%代まで落ち込み、前回2015年には過去最低となった(図1)。今回の選挙では、大阪ダブル選挙などが注目を浴びているものの、50%を割り込む水準にとどまると見込まれる。国政選挙の投票率と比較してみても、その低下は顕著であることがわかる。
また投票率の低下とともに深刻化しているのが、地方議員のなり手不足だ。議員選挙の立候補者が減少し、無投票での当選者が増加している。道府県議会議員、町村議会議員選挙では、無投票当選者がそれぞれ総定数の26.9%、23.3%を占め、ともに過去最高となった。後半戦の市長選挙でも、約3割にあたる27市長が無投票で当選が決まっている。
最も身近な民主主義であるはずの地方自治が、もはや民主主義とは言いがたい状況に陥っている。
この背景に潜む問題として、牛尾治朗会長と宇野重規理事は、グローバル化がローカリズムを壊すという側面を指摘している(NIRAオピニオンペーパーNo.37「
中核層が活躍できる社会の構築―個人の尊重と信頼の醸成が鍵―」)。優秀な人々が、国を超えてグローバルに活躍できるようになった一方で、日本の地域とは結びつきを持たなくなったため、彼らの中で、国や地域を自分が支えるという意識が弱まってきているのだ。
このまま何もせずに放置すると、地域における住民の当事者意識は失われていき、地域の人口流出はますます加速していくだろう。とはいえ、グローバル化の進展は止めることはできないし、進めていくことに異論はない。グローバル化の中で、人々の地域に対する意識を立て直すにはどうしたらよいのだろうか。
図1 国政選挙と地方選挙の投票率の推移

(出所)総務省「目で見る投票率」(2017年1月)より作成
■リワイヤリングで地域と外部をつなげる
宇野理事は、ネットワーク形成の中核となる人材をサポートすることで、具体的な土地や場所と結びついた地域の信頼を、地域を超えグローバルに展開する情報や物流のサービスと結びつけることができると指摘する(NIRAオピニオンペーパーNo.36「
ローカル・コモンズの可能性」)。地域内部の知識や情報が外部に開放され、人や情報のネットワークが加速度的に発展する。それにより、その地域は存在感を飛躍的に高め、「リワイヤリング」によって新たなつながりを結ぶことができるのである。地域はグローバル化をチャンスととらえ、有能な人材を日本の各地や世界から集めるよう、積極的に打って出るべきなのだ。
そして、各地から集まってくる多様な人々を育て応援しようというホスピタリティを維持し、彼らが活躍してくれるような場所を提供していかなくてはならない。行き過ぎた利己主義を改め、他人であってもお互いを心配し支え合う信頼関係のネットワークを構築することが必要だ。
牛尾会長が述べるように、1人ひとりが「公」の問題も自分のこととして捉え直し、日本の将来について人任せにせず、個々人が積極的に関わり議論できる社会を目指していかねばならない。
<参考文献>
NIRAオピニオンペーパーNo.36(2018)「
ローカル・コモンズの可能性」
NIRAオピニオンペーパーNo.37(2018)「
中核層が活躍できる社会の構築―個人の尊重と信頼の醸成が鍵―」
川本茉莉(NIRA研究コーディネーター・研究員)
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