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NIRA政策提言ハイライト

ドイツの進める産業競争力強化政策の強さ

NIRA政策提言ハイライト 2015/06発行

日本の成長戦略の周辺
 「日本再興戦略」を中心に様々な成長戦略を打ち出してきたアベノミクス・第3の矢が正念場を迎えている。残念ながら、経済成長に繋がっていないとの政策批判は多い。しかし、日本が産業競争力を取り戻すような大きな社会・経済の変革をいかに成し遂げるかについて、国を挙げての議論が深まっているわけでもないのが現状である。NIRAでは、この議論を促進させるため、NIRAわたしの構想『脱・停滞へのイノベーション』(2015年1月)において日本経済がイノベーションを中心とした産業活力をどのようにして取り戻すかに焦点を当てた。

ドイツのArbeiten 4.0とIndustrie 4.0
 グローバル経済のなかで競争力の行き詰まりを感じ、イノベーションを促進するために大きな社会変革を模索しているのは、日本だけではない。近年、注目されているのが、日本と同様に、製造業に産業の強みを持つドイツである。
 2011年、ドイツ政府は、モノのインターネットIoT(Internet of Things)を駆使した「スマート工場」の実現を中心とする、国を挙げての産業強化策「Industrie 4.0(第4次産業革命)」を開始した。当初は、この政策によって生産現場からの労働者の排除が進むと言われ、警戒感を呼んだが、その後、その目指すところはドイツの誇る高度人材と既存・新規双方の設備の最適利用に尽きるという理念が提示され、議論が大きく進展した。また、Industrie 4.0が推進されることにより、単に一つの工場内が「スマート化」するだけではなく、生産工程に関わる全ての企業がネットワークとしてつながる。部品注文・発送などの企業間の取引もシステムによって自動的に最適調整される。将来的には業種を超え、地域を超えた企業が全てネットワークでつながっていくことになるため、IoTなど無関係と思い込んでいた多くの中小企業もIndustrie 4.0に積極的に参加するようになった。
 こうしてIndustrie 4.0の世界が実現していくと、労働者は従来の雇用・被雇用関係では想定されていない労働管理環境におかれることになる。例えば、労働者は最適生産の実現のためにシステムが決定した労働に従事するようになる。さらに異なる企業に属する労働者が、企業間の事前の個別契約なしでワークシェアをすることも可能になると想定されている。そこで必要となったのが、ドイツ連邦労働社会省がこの4月末に開始した「Arbeiten 4.0(労働4.0)」だ。
 Arbeiten 4.0は、現段階では具体的な政策ではなく、国民から議論を吸い上げる段階であり、インターネットを駆使して広く「デジタル時代の労働」についての議論を募っている。1年後にはそれもとに政策の行動計画である白書を作成し、労働制度・法制の整備へとつなげる予定だ。現在進行している議論プラットフォームにおいては、「労働の将来像」についての抽象的、概念的な議論も多く含まれているが、インターネットでつながった「システム」による労働指示と労働管理が身近に迫るなか、望ましい労働モデルをどのように作り上げたらよいのかについての非常にリアルな議論が展開されつつある。

20年後、30年後を見すえた国民的議論の必要性
 Arbeiten 4.0プラットフォームでの議論は、まだ開始されたばかりである。しかし、ドイツではIndustrie 4.0が導入されて以来、産業メッセなど多様な場においてデジタル時代の労働のあり方の議論が重ねられてきた。今回のArbeiten 4.0はこうした議論の集大成を意図したものであり、政治家、経営者、労働者、官僚など多様な立場の関係者が、労働社会の将来に向けて意識の共有を図る格好の場となっている。そして、議論の焦点を短期的な問題解決に絞らず、20年後、30年後といった長期的な将来の労働のあり方まで含めている。それによって、議論の深化を図るとともに、幅広い参加者の獲得に成功している。日本でも制度の大きな変革を行うにあたり、まず、このような長期的視野に立った国民的議論が必要ではないだろうか。









森 直子 NIRA研究コーディネーター


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