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NIRA政策提言ハイライト

裁量労働制と「大部屋主義」

NIRA政策提言ハイライト 2015/05発行

裁量労働体系の拡大
 日本人の働き方を変えようと、近年、多くの議論がなされ様々な取組が行われている。それは、ワークライフバランス(WLB)推進の観点からでもあるし、国際的に見て低水準に留まる労働生産性を改善しようという事情からでもあろう(図参照)。
 そうした中、政府は今通常国会に労働基準法の改正法案を提出した。それには、フレックスタイム制の柔軟化や一定日数の有給休暇の取得義務化などが盛り込まれているが、最も注目を浴びているのは、裁量労働制の対象業務の拡大と高度プロフェッショナル制度の創設であろう。両者は、制度上の相違点はあるものの、働いた時間ではなく仕事の成果に対して賃金を払うという理念を共有している点で、広義の裁量労働制と捉えることができよう。
 日本にこの裁量労働制がいかに馴染むのか、日本人の働き方の特徴として指摘されてきた「大部屋主義」という概念に引き付けて考えてみたい。

「大部屋主義」と「個室主義」
 日本では、オフィスの物理的制約もあって、人々は仕切りのない一面の空間に机を並べて執務することが多い。こうした働き方を、政府活動や官僚制を研究対象とする行政学では、「大部屋主義」と呼んできた(大森2006)。重要なのは、この概念が、単に職場の空間配置を指すだけでなく、職員の仕事の仕方も意味している点だ。すなわち、「大部屋主義」では、職員個々人の職務範囲は明確でなく、仕事は課や係といった組織に割り振られる。各職員には何となく担当範囲があるものの、皆で協力して仕事をする。意思決定も集団的に行われる。こうした働き方は、日本の民間企業にも広く見られるものと言えよう。
 これと対置されるのが、「個室主義」である。この概念にも、職員が個室で仕事をするという以上の意味がある。「個室主義」の職場では、あらかじめ職務記述書(job description)に明示された職務と責任(いわゆるポスト)に対して人材を配置する。職員は自分に割り当てられたその仕事に専念する。期待されている成果や責任はその人に属する。先に職務ありき、というこの考え方は、ポストの組織内外への公募や、キャリアの専門化、開かれた転職市場と結びつきやすい。

裁量労働制と「大部屋主義」の親和性
 WLBを向上させるには、働く人々が、自律的に自分の仕事の仕方を決められることが大切だ。このことを取り上げたのが、NIRA研究報告書『働く人の自律を考える-会社人間という殻を打ち破れるか-』である。同報告書では、日本の職場における職務区分の曖昧さが、労働者の自律性を向上させるはずの裁量労働制や在宅勤務をうまく機能させる上でのネックになっていると指摘されている(同志社大学・太田肇教授)。皆で一緒に仕事をするという一見友好的で優れたように見える「大部屋主義」が、逆説的にも、勤労者の自律性や主体性を削ぎ、ひいてはWLBを低下させているということである。「個室主義」と異なり皆で仕事を何となく共有しているため、集団への時間的・空間的拘束度が強く、離れた場所で仕事をしたり、休職などで一定期間職場を離れたりすることも難しい。働く人の自律やWLBの促進の観点から、「大部屋主義」は見直しの時期に来ていると言える。
 そもそも裁量労働制は、所定の成果を上げる限り、働き方は労働者個人の自律性に任されるというのが根幹理念である。個々の成果を事後的に測るためには、各人に求められる成果の事前の明確化が不可欠だ。すなわち、裁量労働制は、個々の役割と責任が明らかである「個室主義」を前提にしてこそ、うまく機能するものと言えよう。逆に、裁量労働制との親和性に欠ける「大部屋主義」的な体系や価値観が残る中で、一部に裁量労働制を適用・拡大すると、どうしても両者の齟齬が生じるおそれがある。本来、「個室主義」があってこその裁量労働制なのである。



<参考文献>
大森彌(2006)『官のシステム』東京大学出版会.

飯塚 俊太郎 NIRA研究員

<関連記事>
働く人の自律を考える-会社人間という殻を打ち破れるか-」(NIRA研究報告書/2012年5月)

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