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NIRA政策レビュー

経済再生を促す法人税制改革を

NIRA政策レビューNo.63 2014/03発行
大山健太郎(アイリスオーヤマ株式会社 代表取締役社長)、ロバート・フェルドマン(モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社 マネージングディレクター チーフエコノミスト兼債券調査部長)、伊藤元重(NIRA理事長)

 法人税減税は日本経済の再生に有効か。投資減税の方が有効であるとの指摘がある一方、法人税減税は起業を促進するとの指摘があった。また、日本の高い税率が外国企業の呼び込みを妨げているかについても見解の相違がみられた。高齢社会に適した税体系のあり方の中で法人税を議論すべきという点では概ね意見が一致した。
全文(PDF版)


理事長インタビュー 1
 大山 健太郎 アイリスオーヤマ株式会社 代表取締役社長
 「法人税率の引下げは製造業を再生するのか

 (インタビュー実施 :2014年1月29日)

理事長インタビュー 2
 ロバート・フェルドマン モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社

                マネージングディレクター チーフエコノミスト兼 債券調査部長
 高齢社会への対応としての『法人税率引下げ』

 (インタビュー実施 :2014年2月24日)

インタビューを終えて
 伊藤 元重 総合研究開発機構(NIRA)理事長
 「今こそ税制のあるべき姿を議論するときだ

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理事長インタビュー 1
 大山 健太郎 アイリスオーヤマ株式会社 代表取締役社長
 「法人税率の引下げは製造業を再生するのか」
 

全体の税収を考えて税率を議論せよ
伊藤 大山さんはアイリスオーヤマのトップとして、プラスチック収納製品やLED製品などを、日本国内の他、中国、米国、欧州などの現地工場で生産して現地で販売するというメーカーベンダーとしてのビジネスをグローバルに展開されています。輸出生産拠点を集約する家電メーカーなどとは違った展開だと思います。そうした企業人の立場からみて、日本の法人税率引下げの問題をどうご覧になりますか。
大山 経営者として法人税率が低いにこしたことはありません。25%にまで引き下げてもらえることには賛成します。ですが、巨額の財政赤字を抱えた日本で法人税率を大きく引き下げたら、財政支出を相当切り詰めて、消費税率を大きく上げない限り、国の根幹が揺らぎかねません。
伊藤 法人税と消費税のあり方を日本の税体系全体から考える必要があるということでしょうか。
大山 全体的な税収を考えると、法人税率を25%に引き下げるなら、消費税率は15%くらいに上げなければいけないでしょう。法人税率が低い国では消費税率が約20%に設定され、それで税収のバランスをとっています。ただ、消費税率のアップは、消費者心理に非常に大きな影響がでることを考慮する必要があります。例えば、本体価格が93円として、消費税5%の場合、総額で98円となる。これは買い手に値ごろ感をもたせる「マジックの数字」といわれている数字です。それが消費税率3%アップの8%になって価格が101円になった途端、過去の消費トレンドをみると、一気に2割も落ちてしまうのです。生活者の目線でみて、消費税率は電卓を使わなくても計算ができてわかりやすい10%が一番よいと思いますが、いずれにしても個人消費を圧迫せずに消費税率を上げることができるかがポイントです。

設備投資減税を優先させよ
伊藤 法人税率を引き下げれば、儲かっている企業が積極的に投資に動くので経済全体に好循環が生まれるといわれていますが、この考え方をどう思われますか。
大山 日本経済の成長にとっては、法人税率を下げるよりも、設備投資減税が有効だと思います。日本の企業は「失われた20年」の中で20年近く前の更新時期を過ぎた機械を今も使い続けていて、次々と最新の機械へと更新する中国などの海外勢に太刀打ちできるはずがありません。
伊藤 投資減税は企業にアメを与え投資を促進する税制だともいわれます。
大山 確かに、投資減税には一長一短がありますので慎重な議論が必要です。投資減税は赤字企業には意味がなくて、すでに利益を出している強い企業にアメを与えるような「強者の戦略」ともいえる。逆にいうと体力の弱い企業が淘汰されることにつながり、それが日本の産業を支えていくことになります。
伊藤 それはなぜでしょうか。
大山 製造業の力は現場の一般の労働者の能力と機械設備で決まります。特に新しい機械を入れたところが勝ちます。当社は積極的に海外に進出していますが、国内工場も新しい機械を増やして設備投資を行っている。ただ、それは当社が国内でも10%の経常利益を絶対に確保する経営をしているから可能なのです。しかし、日本企業の7割以上が赤字企業で、税を払わずに存続している。さらに、日本の産業構造が過当競争で薄利多売に陥っているので、残り3割の黒字企業も利益率が約5%しかない。こうした企業が設備を更新することは難しく、ある意味で日本経済の足を引っ張る存在になっています。戦略的な分野の産業で大幅な設備投資減税をすることが、日本の産業基盤を強くし、競争力を確保することへとつながります。
伊藤 投資減税は、まさに今の日本に必要だということですね。

法人税率を引き下げても、外資は呼び込めない
伊藤 欧州などでは各国が法人税率を下げたため、日本の法人税率が高いと指摘されていますが、これについてはどう思われますか。
大山 欧州は国同士が陸続きですし、ユーロ通貨圏で経済が一体化しているので、法人税率が高ければ企業は隣国に簡単に移ります。だから、法人税率を互いに下げざるを得なかった。しかし、日本の法人税率が高いために海外から投資が来ないというのは誤りです。極東の島国に進出してくる企業は、マーケットの将来性やビジネスチャンスの有無で投資判断をしている。欧州の常識は日本には通じないと思います。
伊藤 アジア諸国でも法人税率を引き下げていますね。
大山 アジア諸国は輸出産業が主で、三角貿易で成り立っています。税率が安い国へと投資が動くので各国の減税合戦になる。しかし、日本にアジア向けの工場をつくって輸出しようとするような海外の企業は、よほど先端的な産業以外はありません。ですから、アジア諸国のように法人税率を下げたからといって、日本に投資が動くわけではありません。
伊藤 日本のメーカーが、国内に比べると海外の法人税率の方が安いので日本から離れるケースがあると聞きます。
大山 メーカーの海外進出先は、製造原価はどこが安いかで決まります。賃金が安い国は、輸送のための段ボール代、運賃や電気代などインフラコストが安い。こうした国に進出すると、現地調達比率が増えれば増えるほど、コスト削減のメリットがあります。法人税率の水準というのは、例えば製造原価の安い東南アジアのなかでタイとマレーシアとミャンマーのどの国に進出するかという選択をするときの、判断材料の一つにすぎないと思います。

年収の低い人々の賃金引上げが有効
伊藤 アベノミクス効果で消費は回復傾向にあるといわれています。
大山 百貨店の売上げはそれほど伸びていないのですが、代表的な商品が売れているのでニュースになっているのです。ス―パーマーケット、コンビニやホームセンターの既存店の売上げは下がっている。そうしたなかで、消費税を上げなければいけないことを認識すべきです。
伊藤 どのような対応策が考えられますか。
大山 給与所得者のうちで4割もいる年収300万円以下の人の賃金を上げなければなりません。特に、年収200万円前後の人、その7割は女性ですが、彼女達の年収が例えば40万円上がると、その大半が消費に回る。年収800万円以上の人達で40万円上がっても貯蓄に回るだけで、消費促進効果はありません。パート労働者でも非正規労働者でも、賃金を上げる。こうしたジェンダーの問題、格差をなくしていくべきです。そのためには、製造業が元気になって、付加価値を生みだすことが重要です。

(インタビュー実施 :2014年1月29日)

大山健太郎(おおやま・けんたろう)
1964年大阪でプラスチック成型加工を営む大山ブロー工業所の代表者を継ぐ。1971年株式会社化、同社の代表取締役社長就任。1989年本社を仙台市に移転。1991年アイリスオーヤマ㈱に社名変更、現在に至る。藍綬褒章受章。仙台市特別市政功労者。大連市栄誉公民(大連市名誉市民)。また、仙台経済同友会代表幹事、復興推進委員会委員などを務める。


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理事長インタビュー 2
 ロバート・フェルドマン モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社

                マネージングディレクター チーフエコノミスト兼 債券調査部長
  「高齢社会への対応としての『法人税率引下げ』」


法人税率引下げで高齢社会に対応できる税制に
伊藤 日本の経済や投資環境を分析して内外の投資家に説明するお仕事をされていますが、そうした方からみて日本は法人税の実効税率を現在の約35%から引き下げるべきだとお考えですか。
フェルドマン 私自身も、そして投資家の大半もそう思っています。その一つの理由は、日本では高齢社会に合った税制に早く再設計しないと間に合わないのです。高齢社会にふさわしい税制とは、生産を増やし、経済の持続性を生み出すものです。つまり、生産要素である労働及び資本、あるいはアントレプレナーシップ(起業家精神)などに関する税はできる限り少なくして、生産を増やす。そして、高齢者が受け取る年金や社会保障を実際に支えているのは現役の労働者です。彼らが十分なスキルを獲得し機能できるような税制にしないと経済の成長と持続性が生まれず、高齢者を支えることができません。「年金を誰が払うのか」を考える必要があります。もう一つの理由は、経済の成長にはイノベーションが基本だからです。法人税率を引き下げて企業活動を活発化させ、イノベーションを促していくわけです。
伊藤 高齢社会では「金の卵を産むガチョウ」をしっかり育てていかなければいけないということですね。しかし、法人税を減税すると税収が減ってしまうのではないかという人もいます。
フェルドマン 実際には税収は減らないだろうと思います。一時的に減ったとしても、それは投資だと思えばいい。法人税率が低くなり、新しく企業をつくろう、新しい技術を開発しようというインセンティブが働けば、GDP成長率は上がります。そうすると、結果的に消費税や所得税の税収も増えます。社会保険料収入も増えます。
伊藤 海外直接投資(FDI)にも影響しますね。
フェルドマン 海外からみると、日本の法人税率は高すぎて、起業しようとは思いません。FDIを増やそうとするのであれば、法人税率を22~23%程度にまで引き下げる必要があります。ただ、それだけでは不十分で、社会保険負担や規制の強さも障害になっている。これらも一緒に国際的な標準並みに合わせる必要があります。

歪みを与える税制を見直せ
伊藤 投資減税、あるいはイノベーション減税などの方が、法人税率を下げるよりも有効ではないかという議論もあります。
フェルドマン 投資減税は、資本集約的な産業には効果的です。しかし、これからの産業はそれほど資本集約的ではない。むしろ、人=知識を雇うというニーズも高いので“知識集約的”産業も減税の対象にし、レベル・プレイングフィールド(対等な競争環境)が確保されるようなフェア(公正)な制度を考えなければいけません。日本では特別税制措置で既に資源配分が歪んでいるのではないかと思います。
伊藤 法人税引下げと同時に、歪みを与える制度を見直すことですね。
フェルドマン 日本企業は自己資本利益率(ROE)が低いことが問題になっているので、ROEの低い企業にそれを上げてもらうインセンティブとして税制を使うことも経済効率を刺激するのではないかと思います。例えば、ROEの目標値を10%と設定し、それを超えたら法人税率をだんだん下げていくような「ROE逆スライド制」法人税が考えられます。

高齢者の労働力参加率を高めよ
伊藤 高齢社会では、法人税を減税するだけではなく、高齢者自身が認識や行動を変えることも重要ですね。
フェルドマン 日本の財政状況をみれば、高齢者の医療費の自己負担を増やし、歳出を抑制するなどして社会保障費を減らすしかない。そのためには、日本の高齢者(65~74歳)の労働力参加率を現在の31%から41%程度に上げる必要があります。そうすれば、彼らは収入から自己負担分を払うことができるし、国としても所得税収が上がるので財政の健全化にも貢献する。その上、働くことでより元気になれば、国の医療費負担も軽減されることになります。
伊藤 ただ、日本の高齢者の労働力参加率は、現在でも国際的にみて高いと思いますが。
フェルドマン 確かに欧州よりは日本の高齢者、特に男性高齢者の労働力参加率が高い。しかし、米国と同じぐらいでしかない。高齢化がより進む日本では、高齢者の労働力参加率を増やさなければ、2%の経済成長は厳しいのではないでしょうか。日本人は長生きですから、長働きが当然でしょう。

「第三の矢」を支える政策を
伊藤 法人税減税の議論はアベノミクスの成長戦略にどのような重要性を持っていると思われますか。
フェルドマン 2013年末に法人税の議論が途絶えたときには、私も、投資家たちもアベノミクスの「第三の矢」が危ないのではないかと心配しました。2014年に入って安倍政権が法人税を議論に取り上げたことで、アベノミクス全体の成長戦略にはずみがつき始めているといえます。さらに議論が「法人税を減税するか、しないか」から、「どのように減税するか」に変わった。これは評価できます。あとは減税が実行されることが重要です。
伊藤 アベノミクスの「第三の矢」は「民間投資を喚起する成長戦略」です。サプライサイドの対策も重要ですが、実際に成果が出るまでに数年はかかる。今はむしろ経済成長への即効性という意味で電力システム改革などデマンドサイドの喚起策、いかに投資を生み出すかが非常に重要だと思うのですが、どうお考えになりますか。
フェルドマン 全く同感です。海外の投資家がデマンドサイドの喚起策をあまり評価していないのは残念です。「第三の矢」では投資拡大に対して即効性のある規制改革が望まれます。例えば、1994年の携帯電話の規制改革で、それまでNTTから借りることしかできなかった携帯電話端末を個人が購入できるようにしたら、携帯電話の生産だけではなく基地局を増設する必要も生まれて設備投資が非常に大きく増えました。アベノミクスの政策の中では、国家戦略特区での容積率の緩和、介護や保育園といった施設の規制緩和、そして移民政策の議論が注目されます。
伊藤 さまざまな政策で民間投資を促す必要があるということですね。
フェルドマン 技術立国を確立することがアベノミクスで肝心なことだと思います。例えば、法人税減税の一つのアイデアとして、法人税率引下げの3年先にはエネルギー税、あるいは環境税を大きく引き上げると決める。そうすれば、エネルギーを節約するような設備投資が誘発され、イノベーションが起きるのではないでしょうか。

(インタビュー実施 :2014年2月24日)

ロバート・アラン・フェルドマン(Robert Alan Feldman)
MIT経済学博士。国際通貨基金勤務、ソロモンブラザーズアジア証券主席エコノミストを経て、1998年モルガン・スタンレー証券会社(現:モルガン・スタンレーMUFG証券)にマネージングディレクター チーフエコノミストとして入社。株式調査部長、経済調査部長などを経て、2013年より現職。2008 ~09年経済財政諮問会議経済財政展望WG委員などを歴任。


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インタビューを終えて
 伊藤 元重 総合研究開発機構(NIRA)理事長 
 「今こそ法人税制のあるべき姿を議論するときだ」


法人税改正議論が高まる中で
 安倍総理が2014年1月のダボス会議などの場で法人税減税の可能性について打ち出して以来、法人税改正の論議がいろいろな形で盛り上がりを見せている。法人税改正の問題は狭い範囲の税の問題であるだけではなく、日本企業のあるべき姿、そしてグローバル経済における日本の立ち位置など、より大きな問題を惹起している。改正に対する賛成反対を問わず、いろいろな立場から論議が起きている。今後の政治の流れの中で法人税減税がどうなるのか不透明なところが多く、この先の動きを予想することは難しい。だからこそ、こうした機会にできるだけ率直に日本の法人税のあるべき姿について論じておく必要がある。
 政策レビューでは、前回は税の専門家である一橋大学の國枝氏のお話を伺った。今回は、経営者の立場からはアイリスオーヤマ社長の大山氏に、そして海外投資家の見方に精通しているエコノミストのロバート・フェルドマン氏にお話を伺っている。

法人税減税は目先の税収に縛られずに
 フェルドマン氏は法人税減税の論議を高く評価している。これはフェルドマン氏個人の意見というだけでなく、海外の投資家の基本的な見方であると理解してよいだろう。日本の制度は、国際標準から大きくかけ離れていると見られることがある。米国と並んで突出して高い法人税率もその一つだ。
 フェルドマン氏が、「アベノミクスの第三の矢への期待が萎みかけた矢先の法人税減税の論議は第三の矢に再度期待を持たせるものだった」という趣旨の発言をしているのが興味深かった。海外の論調に右往左往する必要はない。しかし、国際標準から大きく乖離しているとき、何かがおかしいと疑問を持つという姿勢も重要である。
 政府税制調査会などの論議から分かるが、経済学者のような専門家には法人税率の減税を進めていくべきである、と考える人が多いようだ。「日本の財政状況が厳しい今、なぜあえて法人税減税の議論をしなくてはいけないのか」というような意見を表明する人もいるが、法人税改正の論議が目先の財政問題に縛られることの方が問題だろう。
 冷静に考えてみれば、財政健全化の問題は法人税のあるべき姿とは別のところにより重大な課題があることは明らかだ。社会保障の歳出の伸びをいかに抑えるのか、消費税などで安定的な財源をどう確保するのかなどの問題だ。財源確保のためには法人税をいじるわけにはいかない、という議論には、既存の制度をできるだけいじらないでその場をしのごうという姿勢が見えるような気がする。そうした姿勢では、法人税の現行制度を維持しても財政健全化は実現しない。法人税改革という困難な改革課題に正面から取り組む姿勢があればこそ、より困難な財政再建という課題にも取り組めるというものだ。
 フェルドマン氏の発言で興味深かったのは、「高齢社会で膨らむ社会保障財源を確保するためにも、法人税改革が必要である」というくだりだ。こうした論点は一般の人には分かりにくい面もあるかもしれない。ただ高齢化が進む北欧諸国などで積極的に消費税率(付加価値税率)を引き上げてきた背景には、膨らむ社会保障費を維持しながら経済活力を維持するには、法人税は引き下げ、付加価値税などで薄く広く徴税するのがもっとも望ましいという見方があるからだ。持続的な社会保障制度を確保するためには、それをファイナンスする仕組みが必要となる。少子化高齢化が進むほど、現役世代がかかわる企業活動の持つ重要性が重要になるのだ。
 私はこれを「金の卵を産むガチョウ」に例えた。高齢化社会にとって企業活動は金の卵を産むガチョウのような存在だ。拙速に金の卵をとるためにガチョウを殺しては元も子もない。ガチョウを大切にして、金の卵を生み続けてもらうことが肝心だ。企業活動は高齢社会にとって社会の付加価値を生み出す源泉であり、イノベーションの原動力であり、そして雇用の場でもあるのだ。多くの国がそうしたことを理解しているからこそ、消費税率は上げても、法人税率を下げる動きを見せている。世界でもっとも激しい高齢化に直面する日本こそ、そうした思考が必要であると思われる。

日本企業に活力を取り戻すための議論を
 現役の経営者である大山氏の見方は、フェルドマン氏とは大分違っているという印象をもった。法人税率引き下げに反対ではないが、それで海外から投資が増えるとか、あるいは企業経営の中身が変わるというような過度な期待をしてはいけない。大山氏はそう戒めているという印象を持った。
 自らの実力で業績を高め、新天地を切り開いてきた経営者としての見識であると思う。小手先の手法としての法人税改正を考えるというのであれば、それに大きな期待をかけることはできない。重要なことは現場の企業経営者がどう動くのかということであり、産業内の再編がどのように進むのかということだ。法人税が高かろうと低かろうと、経営者が積極的に動かない限り日本経済に活力は生まれない。
 今回の法人税改革の論議に期待しているのは、法人税率が下げられるかどうかという結果もさることながら、その過程で日本の企業の行動や構造についての論議が高まることである。なぜこれだけ赤字法人が多いのだろうか。黒字であっても、日本の企業の利益率はなぜ諸外国に比べて低いのだろうか。こうした現象は税だけの問題でない。ただ、企業構造やコーポレートガバナンスのあるべき姿をきちっと見直すことは日本経済に活力を取り戻す上で必須であり、法人税改革の論議はその議論の入り口となるのだ。

「改革のツボ」となる法人税改革を目指せ
  安倍内閣はアベノミクスの第三の矢として、「民間投資を喚起する成長戦略」を掲げている。成長戦略にはいろいろなものが含まれるが、その中心にあるのが岩盤のような規制に穴をあけ、日本経済の体質を大きく変えるということだ。少子高齢化が進み、デフレ時代の低迷の中で、日本の生産性は大きく落ち込んでいる。潜在成長率も大きく落ち込んでいる。こうした構造的な状況を放置していたのでは、明るい将来像は描けない。労働力人口が減少する中では、全要素生産性(TFP)を引き上げていくしか、潜在成長率を高めていく方法はない。そのためにも経済構造を変えていく必要がある。
 残念ながら岩盤のような規制に穴をあけることは簡単なことではない。改革が難しいから「岩盤」なのである。それでも断固改革を進めていく姿勢を見せることは必要だろう。ただ、その一方で岩盤の弱いところを探して、そこに有効にドリルを打ち込むことも必要だ。要するに改革のツボを探すということだ。いつの時代にも改革のツボはある。うまく制度を変えていけば、社会や経済が大きく変わる可能性が出てくる部分だ。
 例えば、労働市場全体の改革は重要であっても、そう簡単にいろいろなことがすぐに動くわけではない。しかし、女性や高齢者の活用、あるいは外国人人材の活用という、より焦点をしぼった改革であれば、前進するという期待が持てる。電力システム改革のように、現実が動き始めて待ったなしの状態になっているような分野も、改革のツボとなるはずだ。交渉は難航しているが環太平洋経済連携(TPP)なども、もし交渉がまとまれば日本経済を大きく前進させる原動力となる。

日本への投資の障害を減らせ

 今回の法人税率引き下げの論議は、海外からの投資をもっと増やすという課題から出てきた面もある。日本に対する海外からの直接投資は、諸外国とくらべて著しく低調である。この日本への直接投資を拡大することができれば、需要サイドからも供給サイドからも日本の経済活力を大きく高めることが期待できる。日本の高い法人税率だけが日本への対内投資の低調さの原因ではないが、高い税率が投資の大きな障害になっていることは明らかだ。
 海外からの投資を増やすため日本政府は様々な政策に取り組んできたが、結局のところ法人税率に手をつけない限り投資を大幅に拡大することは難しい、という見方を示す人もいる。そもそも諸外国が法人税率を下げてきた大きな理由は、海外からの投資に対する魅力を高めるためであった。それが諸外国の税率引き下げ競争を招いてきたという面がある。日本はそうした制度間競争に乗り遅れている。その結果として、日本への投資が低調であるという見方ができるのだ。
 大山氏は、税金の魅力だけで企業が投資を決めるわけではない、ということを強調される。確かに企業が海外投資をするときには、市場の大きさ、人材、政治的な安定性、技術水準など、様々な要因を勘案して判断がなされるだろう。法人税率だけを見て、立地や投資額を決めるわけではない。現場を熟知している経営者の見方である。
 ただ、一方でマクロ経済的に見れば、法人税率の高さが直接投資の動きにそれなりの影響を及ぼすものであるということも多くの専門家によって確認されていることなのだ。法人税率が1%ポイント下がれば、どれだけの日本への直接投資が増えるのか。国よって、調査期間によって、そして分析手法によって結果にばらつきあるが、おおむね2%から4%程度の投資の拡大が見込まれるというような結果になるようだ。それなりの投資誘発効果が見込まれるということだ。
 こうした経済分析では、人件費や市場規模など諸々の変数をコントロールした上で、法人税率が及ぼす影響だけを抽出することを意図している。分析がどこまで正確であるかは人によって評価は違うかもしれないが、法人税率は直接投資の大きさにそれなりの影響を及ぼすだろうというのが経済学者によるいろいろな分析の評価である。

高齢社会をみすえた幅広い税制議論を
 さて、4月から消費税率が8%に引き上げられる。来年、2015年にはさらに10%にまで引き上げるかどうか、今年の後半に議論が行われる。消費税率を引き上げるとき、なぜ法人税率引き下げの議論をしなくてはいけなのか。そうした議論が出ている。
 しかし、消費税と法人税の問題はまったく別のものであり、消費税か法人税かという二項対立的な議論をするのはあまり建設的なことではない。ましてや「消費税を引き上げることは消費者により多くの負担を求めることであり、法人税率を下げることは企業の税負担を軽減するものである」というような単純な議論をすべきではないだろう。
 税の影響はその経済全体への影響や転嫁を考慮に入れなくてはいけないし、その税を利用してどのような歳出を行うのかという歳出面も考慮に入れなくてはいけないからだ。欧州で消費税率を引き上げる一方で法人税率を下げてきているのは、そうした税体系が全体として高齢社会に対応する上で好ましいという判断があったからだろう。
 消費税率上げのタイミングにある今だからこそ、日本でも高齢社会に対応する税体系は全体としてどのような姿であることが好ましいのか議論を深める必要がある。そうした中で消費税や法人税だけでなく、地方所得税、配当課税、固定資産税など、様々な税項目の全体像を視野においた議論が必要となる。法人税改正の論議が、法人税だけに限定されず、より幅広い税制のあるべき姿の議論に広がっていくことを期待したい。
 
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<関連頁>
法人税減税は次の一手となるのか?(NIRA政策レビューNo.63/2013年12月)



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