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NIRA政策レビュー

法人税減税は次の一手となるのか?

NIRA政策レビューNo.62 2013/12発行
國枝繁樹(一橋大学国際・公共政策大学院准教授)、伊藤元重(NIRA理事長)

 企業活動を活発にするためには速やかに法人税率を引き下げる必要があり、そうすれば結果として税収も増えるといわれている。これは正しいのだろうか。法人税減税の必要性は論者で一致したものの、まずは投資減税を行って法人税率の引下げはデフレ脱却後に実施すべきとの見解、グローバル競争の視点から直ちに引下げを実施すべきとの見解が示された。
全文(PDF版)

理事長インタビュー 國枝 繁樹(一橋大学国際・公共政策大学院准教授)
 「
『法人税率の引下げは税収を増やす』というのは本当か」 
  ●EUでは法人税減税とともに課税ベースを拡大して税収を確保。
  ●貯蓄超過状態にある日本企業に積極的な投資を促す政策が必要。

                              インタビュー実施 :2013年11月15日

インタビューを終えて 伊藤 元重(NIRA理事長) 
  「税制にもグローバル競争の視点を

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理事長インタビュー 國枝 繁樹(一橋大学国際・公共政策大学院准教授)
 「『法人税率の引下げは税収を増やす』というのは本当か」 

                              インタビュー実施 :2013年11月15日

法人税減税で税収増に、との期待は誤りだ
伊藤 法人税率を引き下げれば、企業の動きが活発になり、税収が増えるといわれています。これについて、どのようにお考えですか。
國枝 そう単純な話ではありません。税率を下げても税収が安定している状態を「法人税パラドックス」といいますが、これが日本でも成立するのかが問題です。
伊藤 詳しく教えて下さい。
國枝 各国の法人税収のGDP比をみると、表面上の法人税率を引き下げても税収が安定しているようにみえますが、実際には、税率の引下げにあわせて課税ベースの拡大を行っています。その結果、差引きで法人税収が少し増加、あるいは一定になりました。課税ベースを拡大するためには、例えば、投資減税を圧縮する、あるいは減価償却を厳しくすることが考えられます。これを行わないと税収がなくなりかねません。
伊藤 その他にも原因は考えられますか。
國枝 EUでは法人税率を引き下げたことで、個人事業主が法人に移行する「法人成り」がかなりあったと思います。その場合、法人税収は増えたが、所得税収はそれに応じて下がっている。法人税収だけをみるのではなく、所得税収との合計をみないといけません。さらに、イギリスやアメリカでは、リーマンショックの前まで金融セクターが非常に大きな利益を上げて法人税収を引き上げたことも原因の一つです。
伊藤 日本ではどうですか。
國枝 日本では法人税率を引き下げたことで、税収が減っている。「法人税パラドックス」が成立していません。これは、課税ベースを十分拡げなかったことや、法人税率が下がったからといって個人事業主が「法人成り」をしなかったためです。EUと日本では背景が異なっているわけです。

日本の法人税率はなぜ高いのか
伊藤 そもそも、日本の法人税率は、アメリカと並んで高く、欧州やアジアの方が低いといわれています。これはなぜでしょうか。
國枝 1980年代前半まで、日本は必ずしも国際的にみて法人税率が高いとはいえませんでした。しかし、その後、資本移動の自由化が進んで、各国が法人税率の引下げを競う、「税の競争」を行うようになった。法人税率を下げれば国外から資本が入る。アイルランドのような経済規模の小さな国では、そのメリットが大きい。アジアでは香港やシンガポールがそうです。
伊藤 結果的に日本とアメリカは乗り遅れたということですか。
國枝 日本やアメリカのように経済規模の大きな国では、GDPの規模で考えれば、税率を下げることで資本が入り、税収が増えるということには、なかなかつながりません。ですから、「税の競争」についていくにしても比較的ゆっくりしたものになることは理論的に予想される対応です。
伊藤 その他にも理由はありますか。
國枝 法人税には国税分と地方税分がありますが、実は、国税の方は海外と比較してもそれほど高いわけではありません。むしろ、地方法人2税といわれる、法人住民税と法人事業税が高い。法人税率の引下げの問題は、本来は地方法人税をどうするかが議論されなければなりません。

日本企業は貯蓄超過になっている
伊藤 法人税率の引下げを考えるにあたり、日本経済の何が問題になっているとお考えですか。
國枝 本来、投資超過主体であるべき企業が貯蓄超過主体になっていることです。理由はいくつか考えられますが、例えば、アメリカで企業に過剰な内部留保があれば、株主が利益還元を求めて騒ぎになってしまう。日本では、投資をしないで内部留保を増やすか、借入れの返済をするばかりで投資家への還元を行わない。これはコーポレートガバナンスの問題ですが、このままでは、いくら金融緩和をして銀行が貸出しを増やそうとしても、資金が銀行に戻る一方になってしまいます。投資を促進することが極めて重要な状況です。
伊藤 そのためには、どのような方法がありますか。
國枝 経済界からは平均税率引下げによる法人税減税を求める声がありますが、私は投資減税の方が有効だと思っています。アメリカの経済学者であるサマーズは、法人税率の引下げは、新規の投資を行っていない企業にも、たなぼた的にメリットをもたらすのに対して、投資減税は投資をした企業だけにメリットがあるので投資促進の効果が大きいと言っています。法人税率を引き下げても、内部に資金が潤沢で流動性制約のない現在の日本企業が投資を促進することはあまり期待できません。こう考えると、デフレによる実質金利の高止まりで投資が抑制されている間は、投資減税を行うことが最も望ましいと思っています。

「アベノミクス」は政策の手順が重要
伊藤 アベノミクスとの関係では、法人税減税の問題をどうすべきとお考えですか。
國枝 マクロ経済と財政の両方を考えると、短期と中長期に分けて考える必要があります。短期的には、投資減税が3年間は続きますので、その間はデフレ脱却に専念し、法人税率の引下げは行わなくてもいいと思います。特に即時償却などの投資減税を実施している間は、同時に法人税率の引下げを行っても投資促進効果が限られます。また、法人税率の引下げに向けた財源確保のための課税ベースの拡大は限界税率を引き上げ、投資を抑制するので、デフレ脱却にとって逆効果になってしまいます。ただし、投資減税があまりに過剰だと産業間の資本配分を歪めてしまう弊害があります。デフレから脱却したら大幅に圧縮して、それを財源に法人税率の引下げを図るというのが自然な流れでしょう。
伊藤 当面の政策効果をみれば、投資減税は重要だが、中長期的にはそれを維持していくこと自身にも問題があるし、グローバル化を考えると平均税率の引下げは不可避だということでしょうか。
國枝 中長期的には、企業が流動性制約に入る可能性があり、そのときには平均税率の引下げが必要となるでしょう。同時に財政再建のためには課税ベースの拡大を議論することも必要になります。また、各国との競争を考えると、海外企業向け優遇税制特区で対応することにも限界があります。国と比較して地方財政はかなり余裕があることや法人財源の地方間での偏在という根本的問題の存在に鑑みれば、地方法人2税の軽減や廃止を真剣に検討するべきだと考えています。

(インタビュー実施日:2013年11月15日)

國枝 繁樹(くにえだ・しげき)
東京大学経済学部卒。米国ハーバード大学Ph. D.。専攻は財政学、マクロ経済学。大蔵省主税局、銀行局課長補佐を歴任した後、1998年大阪大学大学院経済学研究科助教授、2000年一橋大学国際・公共政策大学院助教授、2007年より現職。2008年に『生活保護の経済分析』(共著)で第51回日経・経済図書文化賞受賞。

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インタビューを終えて 伊藤 元重(NIRA理事長) 
  「税制にもグローバル競争の視点を」


なぜ法人税率の引下げ論議なのか
  法人税率の引下げを求める声は以前から根強くあった。欧州やアジア諸国が積極的に法人税率を引き下げている中で、日本は米国と並んで世界で最も法人税の高い国になってしまったからだ。その米国でも法人税を引き下げるという議論が行われている。米国が法人税率の引下げに動くようだと、日本だけが高い法人税の国として残されることになる。
 しかし、日本で法人税率(法定税率)を引き下げるということが、これまで、政策の現場で現実味をもって語られてきたわけではない。財政赤字が続くなかで、税収減につながりかねない法人税率の引下げには反対の人も多かった。また、消費税率を引き上げて法人税率を下げるというのでは、消費者に負担を強いて、大企業の負担を軽減する。そうした見方が根強くある中で、法人税率の引下げを政治的に決断することは容易ではない。
 もとより、消費税は消費者の負担、法人税は企業の負担、という見方は正しくない。消費税は付加価値税であり、消費だけでなく、生産や流通など、付加価値のあらゆる段階で税が賦課される制度だ。消費者も生産者も等しく税負担を分かち合うという意味では、薄く広く税を徴収する仕組みである。
 企業は雇用の場であり、所得を生み出す場であり、そしてイノベーションの担い手である。法人税率の引下げで企業活動が活性化すれば、その恩恵は国民全体に広がる。法人税率の引下げの恩恵は企業だけ、あるいは利益をあげている一部の大企業だけに及ぶものという見方は正しくない。
 消費税でも法人税でも、そして個人所得税などの他の税でも、税の全体の体系がどれだけの税収をもたらすのか、そして経済全体にどのような影響を及ぼすのかという広い視点で見る必要がある。
 一般論で言えば、税はできるだけ薄く広くというのが好ましい。それによって安定的な税収を確保しながら、経済活動に致命的な歪みをもたらすことを避けることができるからだ。消費税率の引上げには、そうした狙いがある。限界税率の高い個人所得税よりは消費税の方が経済活動にもたらす歪みが小さい。安定的な税収も確保できる。
 同じような視点でいえば、法人税についても、法定税率を下げることで、できるだけ薄い税にすると同時に、広く税を課すという意味で課税ベースを広げることを検討すべきだ。消費税率の引上げが決まったこの時期に法人税率の引下げの論議が高まってきたことは、決して無関係なことではない。

法人税のパラドックス?
 法人税率の引下げについて議論するとき、必ず出てくるのが「法人税のパラドックス」という現象だ。欧州諸国は法人税の法定税率を下げてきたが、税収は減るどころか増える傾向さえ見せている。なぜ法人税率を下げても税収が増えるのか。
 國枝氏は法人税のパラドックスについて丁寧な説明をしてくれた。私なりに整理すると次のようになる。法人税とはたとえて言えば直方体のようなものだ。その底面が課税ベースであり、高さが法定税率である。課税ベースが広いほど、そして法定税率が高いほど、直方体の体積が大きくなる。つまり、法人税収は大きくなる。
 法人税率を下げていっても、課税ベースを拡大すれば、法人税収が減ることはない。場合によっては、増えることだってある。そのためには、法人税率を下げると同時に、課税ベースを広げることを検討すべきだ。減価償却を厳しくすること、投資減税を弱める(圧縮する)ことなどが必要となる。底面(課税ベース)を広げて高さ(税率)を下げるというのは、税を薄く広く徴収するという方向性での改革となる。
 法人税率を下げれば企業活動が活性化し、企業利益が増えるので、法人税収はかえって増加するという議論がある。減税すればかえって税収は増えるというのは、かつて米国でラッファーカーブとして議論されたような現象だ。そういう可能性がないわけではないが、短期的には難しいだろう。ただ、法人税減税が経済活力を高めるなら、中長期的には税収が増えることは十分に考えられる。

小手先の手法から大胆な改革か
 法人税減税とセットで議論されるのが投資減税である。國枝氏が指摘するように、投資へのインセンティブという意味では、法人税減税よりは投資減税の方が、効果がある。投資減税の場合には、投資をすることによって減税効果が出るが、法人税率を下げることは投資の減税効果を高めることにはならないからだ。
 法人税率を下げていっても、税収を確保するために課税ベースを広げれば、それだけ投資減税を弱めなくてはいけない。これではかえって企業の投資へのインセンティブを弱くしてしまうという指摘もある。國枝氏が紹介した米国のサマーズ教授などの研究成果はそうした点を指摘したものだ。
 ただ、法人税減税は企業の手元資金をより潤沢にするので、それが企業の投資資金に回るという面もある。ファイナンスの分野に投資のペッキング・オーダー理論というものがある。内部資金を持っている企業は外部から資金を調達するよりもまず内部留保の資金を投資に回す傾向が強いという。ペッキング・オーダーとは、鳥がえさをつつく順番というような意味であるが、投資を考えている企業はまず自己資金を使い、次に外からの資金を使うという順番があるというものだ。この理論が正しければ、法人税減税は投資の減税効果はなくても、投資を誘発する効果を持つことになる。
 ただ、投資減税か法人税減税かという議論は、もっと本質的な問題を提起しているように思える。投資減税はたしかに、企業の投資を誘発するインセンティブ効果を伴う。しかし、それは政策で投資を誘導しようとする、ある意味では小手先の政策のようにも思えるのだ。
 過度の投資減税で投資を引きだそうとするのは、國枝氏も指摘しているように、投資に伴う資源配分を歪める可能性もある。投資減税を頻繁に利用して無理やりに投資を喚起しようというのは、カンフル剤で無理やり元気になろうとする状況にも似て見える。
 小手先の投資減税よりは、経済活力を根本から引き出すために、法人税減税を議論してもよい時期に来ている。安倍内閣の成長戦略の基本的な考え方は、民間経済の活力をできるだけ引き出すような政策環境を整備するというものである。そのために岩盤のような規制を崩すことを目指し、TPPのような経済連携に取り組んできた。
 そうした経済活力を最大限に引き出すという姿勢が民間企業にも伝わっていくことが、結果とした投資を刺激にもつながるはずだ。アベノミクスの第三の矢が、「民間投資を喚起する」というただし書きがついた成長戦略であるということを思い出してほしい。法人税率の引下げに取り組むという姿勢を明確にすることは、成長戦略への強いコミットメントを市場や企業に伝えるという意味で大きな影響が期待できる。

税の制度競争
 各国が法人税率を下げてきた大きな要因の一つが、税制の国際競争である。欧州を例に挙げれば、アイルランドなどの国が、極端に低い法人税率となっているが、アイルランドはそれによって海外から企業活動を誘致することを狙っている。世界中でビジネスを展開しているグローバル企業にとっては、こうした低い税率の国の存在を活用することになる。
 リーマンショック以降、アイルランド経済は財政問題などに苦しめられているが、それ以前は海外から多くの投資を誘致し、驚異的な経済成長を続けてきた。一連の投資優遇策の中で、同国の低い法人税率が重要な役割を演じてきたことは明らかだ。
 こうした減税政策は、しかし、税率の引下げ競争を刺激することになる。欧州諸国が次々に法人税率を下げていった背景には、自分の所に投資を誘致したいという低税率積極派の国や、そちらに投資が奪われることを警戒して税率を下げていった国の、税率引下げ競争という面がある。
 アイルランドなどの極端に低い法人税率については、主要国から批判的な意見も出されている。グローバル企業がそうした低税率国を利用して節税をすることで、主要国の税収が大きく落ち込むことが懸念されるからだ。
 他の国よりも法人税率を低くして自分の方に投資を持ってこようとして、多くの国が次々に法人税率を下げていくという姿は、ゲーム理論における囚人のディレンマを想定させる。各国が際限ない法人税率の引下げ競争に走ることがないよう、国際的な場で秩序ある法人税のあり方を論議するという動きがあってもおかしくない。
 ただ、法人税率を引き下げる競争がすべて悪いと決めつけてはいけない。欧州だけでなく、アジアの多くの国も積極的に法人税率を引き下げている。海外からより多くの投資を引きつけたいという狙いもあるだろうが、それだけが法人税率の引下げの理由とも思われない。法人税率をできるだけ低くすることが、経済活動を活性化する上では有効であり、それが経済成長にも大きくプラスで働くはずだ、という見方が根底
にある。

日本は法人税率の引下げを
 さて、こうした中で、日本の法人税率はどうすべきだろうか。私は、今こそ、法人税率の引下げに真剣に取り組むべき時期に来ていると考える。
 冒頭でも述べたように日本の法人税率は世界的にも突出して高くなっている。今後もそうした高い法人税率を維持することの意義は、税収を確保するという以外に見いだすことは難しい。
 その税収でも、法人税率を下げることで経済活動が活性化し、そして海外からの投資も拡大すれば、税率を下げても中長期的にはかえって増えるということも考えられる。もちろん、課税ベースを広げるという措置を同時に行えば、それで税収はさらに増えることにもなる。
 薄く広く税を徴収していくという方向に税制を変えていくとしたら、法人税率をもっと下げて、同時に消費税率をさらに引き上げていくということになる。今回の消費税率の引上げは社会保障費の増加に対応するためという理由付けがなされていた。
 消費税を社会保障の目的税的に考えるのは、政治的な説得手法としては分からないではないが、経済的な合理性は弱い。消費税、法人税、個人所得税など、多様な税体系のバランスの中で、消費税をどうするのかという視点が必要だ。そうなると、消費税率を上げて法人税率を下げるという議論が必要になってくる。また、法人税率を下げていけば、所得税の税率との関係で法人成りを誘発することにもなるので、今度は法人税と所得税の関係も問題になってくる。
 グローバル化の下で過度な法人税引下げ競争が起きることは好ましくないが、それでも日本はそうした競争の存在を強く意識し、法人税引下げを真剣に検討すべき時期に来ている。
 日本が海外から受け入れる投資額の対GDP比の水準は、世界の主要国の中でも圧倒的に低い水準である。海外からの投資を促進することが、重要な政策課題となっている。法人税率の引下げによって税負担を軽減することが、有効な手段となることは明らかだ。
 海外からの投資を促進するということだけではない。もっと重要なことは、高い法人税率が、日本企業の経済活動を過度に海外に移すという結果にもなりかねないということだ。海外の主要国と同じレベルにまで法人税率を下げて、グローバル競争でのレベル・プレイイングフィールド(均一の競争条件)を確保することが求められる。

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<NIRA関連頁>
経済再生を促す法人税制改革を(NIRA政策レビューNo.63/2014年3月)



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