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NIRA政策レビュー

デフレ脱却のための政策を問う

NIRA政策レビューNo.60 2013/04発行
伊藤元重(NIRA理事長)、翁 邦雄(京都大学公共政策大学院教授)、星 岳雄(スタンフォード大学教授)、御立尚資(ボストンコンサルティンググループ日本代表/経済同友会副代表幹事(4月25日就任予定)、加藤 出(東短リサーチ代表取締役社長・チーフエコノミスト)、高田 創(みずほ総合研究所常務執行役員調査本部長・チーフエコノミスト)

日本経済の最優先課題であるデフレ脱却に向けて政策が動き出した。しかし、デフレ下での量的緩和の有効性への懐疑論や、財政赤字の拡大による潜在的なリスクの増幅への懸念も強い。本号では、インフレ目標導入と大胆な金融政策の実施によりデフレマインドが払拭されることが重要であると指摘される一方、本格的なデフレ脱却に向けては、財政規律の維持と実効性のある成長戦略が不可欠なことが指摘された。

デフレ脱出へ向けたロケットスタートを
 伊藤元重(NIRA理事長)

識者に問う
 「デフレ脱却の処方箋は十分か」
 日本銀行によるインフレ目標が導入され、新たな成長戦略の策定が開始されるなど、デフレ脱却に向け順調なスタートを切ったように見える。しかし現在の政策は十分なものか。そうでないとすれば、今後の政策運営に何が望まれるのか。経済学者、民間エコノミスト、ビジネス界の第一線で活躍している識者に聞いた。
                          

*以下、記事中の敬称は略

1 「デフレ脱却後の経済の着地点を示せ
   翁 邦雄 京都大学公共政策大学院 教授

2 「これまで以上に積極的な金融緩和を
   星 岳雄 スタンフォード大学 教授

3 「『1億人×1人7万ドル』ビジョンを示せ
   御立尚資 ボストンコンサルティンググループ 日本代表、
        経済同友会 副代表幹事(4月25日就任予定)

4 「日本企業のブランド力向上を
   加藤 出 東短リサーチ 代表取締役社長・チーフエコノミスト

5 「今や絶好のタイミング、デフレマインド『3点セット』を断ち切れ
   高田 創 みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長・チーフエコノミスト

インタビュー実施 :2013年2~3月
聞き手:伊藤元重(NIRA理事長)

印刷版    ■English 

*印刷版「識者に問う」では、各識者の意見のエッセンスを抽出し、見開きの記事にまとめています。

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「デフレ脱出へ向けたロケットスタートを」
 伊藤元重(NIRA理事長)

デフレマインドは払拭できるのか

 日本全体がデフレマインドにどっぷり漬かってしまっている。私が大学で教えている学生たちは、生まれてからデフレ経済しか経験したことがない。我々の世代はバブルも1970年代の狂乱物価も知っているが、それは記憶のずっとかなたの話になってしまった。
 「金融政策によってデフレからの脱出を図ろうとしても、どうせ一時的なものである。景気はよくならないし、物価は上がらない」。そうした声があちこちから聞こえてくる。長いデフレで日本経済に負け犬根性が蔓延してしまったようでもある。
 こうした状況を打破するためには、ある程度大胆な金融緩和策が必要である。この点については今回のヒアリングをした識者の間に大きな意見の違いはないように思える。
 星氏が指摘するように、リーマンショック後に、主要国の中央銀行のなかで日本銀行だけが金融緩和において十分でなかったと考える人は多い。安倍政権になって大胆な金融緩和への期待が高まることで、極端な円高の修正、株価の上昇、デフレ期待の修正の兆しなどが出てきたことは、リーマンショック後の失われた4 年半を取り戻す過程とも言える。
 そして高田氏の指摘のとおり、大胆な金融政策によって株価や不動産価格が上昇していくことも、デフレマインドの払拭には重要な意味を持っている。資産価格が少し上昇したらすぐに過熱だとかバブルだとか言わないで、こうした動きが経済に蔓延したデフレマインドの払拭に及ぼす影響を見極めなければいけない。

日本経済の構造的変化
 デフレ脱却は、日本にとって好ましい要素があるが、簡単ではないことも事実だ。そもそもアベノミクスと呼ばれる政策が順調なスタートを切れた一つの理由も、昨年の後半から世界経済がリスクオン(注)の状況に変化していたことがある。新興国に資金が流れ込み始め、主要国の株式市場や不動産市場に回復の芽が出始めたのだ。当面、米国経済も回復基調にある。こうした時期だからこそ、三本の矢を同時に放って、デフレ脱出のロケットスタートをかけることに意味がある。
 デフレ脱却が簡単でないのは、実際にはデフレ脱却の準備はできているのだが消費や投資が動かないことに表れている。それは、高田氏が指摘しているように、この20年続いたバランスシート調整の結果、民間部門には潤沢な貯蓄が蓄積されているにもかかわらず、リスクを取ってまで投資しようとしないということだ。これを、高田氏は「草食系」が根付いてしまったと表現する。だからこそ、強いメッセージを出してデフレマインドを潰すことが重要となる。
 ただ、今回複数の識者が指摘したように、最終的には技術革新などによる持続的な成長を実現することが重要になる。期待だけに働きかけ続けることは難しい。結果を出して、持続的成長を実現する必要がある。
 加藤氏は、「中長期的にもしっかり対策を打っているという印象を与え続けなければ、アベノミクスで織り込んだものが、すぐ剥がれてしまう」と述べている。また、御立氏は、「現状はマーケットの期待は高まっているが、大多数の企業の行動は変わっていない。日本に長期的な成長機会があると信じられるようにしないとデフレ脱却は進まないのではないか」と言っている。
 また、星氏は財政問題の観点からも「できるだけ財政支出に頼らず、民間のイノベーションを阻害しないような、規制緩和や国際化に中心を置いた成長戦略を実施していく必要がある」と指摘する。財政リスクという点からも、持続的な成長の中でデフレを脱却していくためには、民間部門へ需要をシフトしていくことが必要であるし、そのためには潜在成長率を引き上げていくことが求められる。

金融政策の手段として何があるのか
 インフレ目標の達成をより確実なものにするために必要な金融政策のメニューについては、その善し悪しの評価は別として、専門家の間に共通認識があるようだ。国債の購入量を増やしていくこと、より期間の長い国債を購入していくこと、株式や不動産関連証券などよりリスクの高い資産を購入していくこと、そして外貨建て証券を購入すること、などである。
 この中で、外貨建て資産を購入すべきであるという議論は、最近は低調なようだ。日本の金融緩和策が為替レート操作とみられることに、政府や日銀も敏感である。国際金融の世界での経歴が豊富な黒田東彦新日銀総裁も、外貨建て資産の購入は好ましくないと明言している。
 リスクアセットを購入していくのか、より長期の国債を購入していくのかということについては、識者の間でも意見が分かれる。黒田新総裁はより長期の国債を積極的に購入することの検討に入ったという報道もある。こうした動きを予想して、市場の金利もこの動きを織り込み、長期の金利の低下傾向が目立つ。
 しかし、翁氏は、将来どこかの時点で膨張した日銀のバランスシートを縮小することを考えたら、長期の国債よりは株や不動産証券のようなリスクアセットの方が好ましい面があると指摘する。日銀がいったん巨額の長期国債を抱え込んでしまうと、それを市場で大量に売却することは国債管理政策の観点からも容易ではない。出口戦略として長期の国債を売ることは現実には難しいと加藤氏も指摘する。これに対して、リスクアセットであれば、市場が好調である限り、日銀がそれを売却することは相対的に容易である。
 ただ翁氏は、その場合には日銀が「リスクを過剰に取ることになるので、政府は日銀のバランスシートが毀損することを認め、場合によっては支援することが必要」であると述べている。また、加藤氏は、リスクアセットを購入し日銀のバランスシートに損失が出たときに、財政的に国庫に依存することになると、日銀の独立性が低下してしまい、財政資金のファイナンスから日銀は抜け出せなくなるという問題点を指摘している。
 しかしながら大胆な金融緩和には、星氏が指摘するように、すぐには全部吸収することが難しいほどに大量に貨幣を発行することで、期待に影響を与えるという面があることも事実だ。

金融政策だけでは限界がある
 デフレ脱却のために大胆な金融政策が必要であるとは言っても、金融政策だけで十分でないことは明らかだ。物価が上昇基調となるためには、需要が持続的に拡大していくことが必要である。また、大胆な金融政策を行うほど、金融政策と財政政策を切り離して考えることが難しくなっている。
 翁氏が主張しているように、財政健全化を進め、「日銀からのファイナンスがなくてもやっていけるという着地点を示す」ことが重要となる。星氏も政府債務残高が高くなっていることのリスクを指摘している。金融を大胆に緩和する一方で、財政支出についてはできるだけ抑えることが必要となる、と警鐘を鳴らす。
 御立氏や加藤氏は成長戦略の重要性を強調する。大胆な金融緩和策と赤字財政は、デフレ脱却という当面の目標のためには有効であっても、将来にわたってその状態を続けることはできない。金融や財政による過度な刺激なしでも経済が持続的に成長を続けることができるという道筋をつけなければならない。技術革新を促し、潜在成長力を高めていくことなしには、日本経済の回復の将来展望を描くことができない。
 成長戦略の効果が現実に経済に出てくるには、若干の時間がかかるだろう。しかし、こうした将来の経済成長に対する期待効果がもたらされることも認識する必要がある。政府が有効な成長戦略を素早く実行に移していけば、その実体経済への影響が及ぶまでには時間がかかるとしても、デフレマインドを払拭するという意味では、成長戦略に大きな役割を期待できる。

注:投資家がリスクを取って、積極的にリターン(利益)を求めようとするマーケットの状況。

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識者に問う1 「デフレ脱却後の経済の着地点を示せ」
 翁 邦雄 京都大学公共政策大学院 教授

デフレ脱却後の経済の着地点を示せ
――― 現在、政府がとっている、あるいは、とろうとしている政策は、デフレ脱却に十分なものだと考えますか。もしそうでないとすれば、何が必要でしょうか。
 日銀は、安倍政権になる前から、いずれデフレから脱却するという絵を描いていた。したがって、「デフレ脱却に十分な」とは、それを有意に加速するかという問題になる。加速することだけが目的であれば、例えば、日銀の国債購入でファイナンスした資金を財政拡張に使って、総供給を超えるまで総需要をつければ、物価は上がっていくなど、そのための手段はいくらでもある。ただ、そうしたときの問題は、非日常的な大胆な金融緩和によりデフレから脱却した後で、例えば日銀が国債を大量には買わないことが予見されたときに、国債の金利が上がってしまうのかどうか、など、そのときまでに、使った手段から脱却することで副作用が出ないか、うまく巻き戻して日常の世界に着地できるのかということだ。

 これまでの日銀は、金融政策を一歩踏み出すときには常に、「巻き戻せるかどうか」ということを考えて、慎重に政策運営をしていたと思う。より長期の国債を買い入れれば、すぐには売れないものを貯め込んでいくことにもなり、どうやって巻き戻すのかという問題が出てくる。日銀が年限を延ばしてこなかったのは、バランスシートの収縮が必要になった時点では、保有国債の期落ち(満期がきて償還されること)を通じてバランスシートが無理なく縮小できるという姿を描いているからだと思う。

 今、金融政策における最も大きな問題は、財政政策と切り離せなくなっていて、独立で議論することが難しいことだ。中央銀行は物価の安定と最後の貸し手、と言われてきたが、欧州でも日本でも、中央銀行は政府に対する最後の貸し手としてどう行動するかが非常に重要になってきている。どんなに独立性の高い中央銀行でも、政府がデフォルトしそうになれば、金融システムが不安定化してしまうから、最後の貸し手としてそれを見過ごすことはできない。中央銀行が政府に対して手を差し伸べる姿が定着すると、多分、物価安定も壊れる。安倍総理が急げ急げと言い、新総裁・副総裁がデフレ脱却に力点を置くとして、その後、経済成長や財政に関する着地点をきちんと示さないと、インフレだが経済・財政状況は良くないという世界になりかねない。政府は、日本銀行が努力して時間を作っている間に、中央銀行からのファイナンスがなくてもやっていけるよう、社会保障や消費増税の問題が骨抜きにならないようなグランドデザインを描くべきだ。

日銀にリスクを過剰にとらせるなら、政府は支援せよ
――― デフレ脱却に向けた今後の金融政策として、どのようなものが考えられますか。
 金融政策ができることの一つに、期待に働きかけるというのがある。これは、新体制は明確なリフレ派なので、有利に働く可能性はある。しかし、具体的に、どういうコミットメントをすれば期待に働きかけるかという意味では、大量に国債を買うこと自体でインフレマインドを高めることは、非常に疑わしいと思っており、コスト対効果を考える必要がある。

 だから、別の政策も用意したほうがよい。これまでの政策についても、長期金利は下げ余地がほとんどないので、直接下げられるところをいわばモグラ叩き的に叩いてみるという世界で、それでETFなどを買ってきている。直接に株を買うこともあり得なくはない。リスク資産は上がったら売ればいいので、効果のない国債大量購入に比べ、「巻き戻し」が多分簡単で、かつ、着地点に向けた道が開けるかもしれない。バブルの心配もあるかもしれないが、そもそもファンダメンタルズに無関係に日銀が買うこと自体がバブル的なわけだから、やりながら考え、過熱してきたと思ったら打ち切るという方法もあるだろう。ただし、その裏側として、金融機関にリスクを過剰にとらせて大丈夫かという、いわば金融システム面の懸念などが表面化してくることはチェックしていく必要があるだろう。

 安倍総理は、インフレ目標は2%、手段は日本銀行に任せると言っているが、それでは背中を押していない。デフレ脱却を更に加速させるためにリスクを過剰にとらせるなら、バランスシートの毀損を容認するとともに、場合によっては支援しなければならない。その前提が壊れると、損が出ることはできない結果として、巻き戻しができない片道の政策になりかねない。

金融政策の柔軟性を縛らないインフレ目標の枠組みが重要
――― インフレーション・ターゲティングを運営する上で、留意すべきことは何でしょうか。
 政府が2%と目標を決めて、それが国民との約束だ、日銀にも厳格に守らせるのだ、というピンポイント性が高まっているが、こうした議論は、金融政策の柔軟性も縛ってしまうおそれがある。日銀は、目標値に到達してからも、できるだけ頑張って緩和期間を長くしておきたい、場合によってはオーバーシュートを容認し、信認を失わない形で次第に金融政策を日常に戻したいと考えていたと思う。したがって、長期的なインフレ目標を2%にセットするにしても、もう少しオーバーシュート、アンダーシュートの世界を許容する枠組みにしておく必要がある。

 政権が当初、大胆な金融緩和の目的として、為替レートの円安誘導を明言し、手段として外債購入に言及したり、為替レートの誘導目標水準まで言い続けたのは大失敗だ。企業などは、デフレ脱却よりも円高是正への関心が強いのだろうが、狙いがそういうことだと困るということで、海外から強い反発があり、金融緩和そのものにブレーキがかかった。あくまでもいろいろな要素の全体的な結果として、為替レートが動いてしまった、という方向への軌道修正を徹底していく必要がある。

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識者に問う2 「これまで以上に積極的な金融緩和を」
 星 岳雄 スタンフォード大学 教授

デフレは金融的な現象
――― 一般的に、デフレ脱却のために最も有効な政策とは、どのようなものでしょうか。
 デフレは金融的な現象であり、金融政策で解決できる問題だ。金利を下げられれば最も良いが、金利を下げられない場合は、量的に金融を拡大すれば、どこかでデフレは解消する。「流動性の罠」に陥ってしまう場合は、金融緩和のほか、財政政策も使うなど、拡張的なマクロ経済政策が重要だが、日本は、国債残高の高さゆえ拡張的な財政政策が難しく、また、金利もゼロとなっている。そうすると、将来の期待金利を下げ、将来の期待インフレ率を高めることが重要となる。
 しかし、日本銀行は、世界金融危機後、他の先進国の中央銀行のように、思い切った量的金融緩和を行ってこなかった。量的緩和を行った時にも、「デフレは金融政策で解決できる問題ではない」と言い続けた。これでは、将来の期待に影響を与えることができず、金融政策の効果を自ら減退させてしまった。2000年と2006年に、早すぎるゼロ金利解除を行ったのも問題だった。

――― リーマンショック後に裁定が働かず、リスク資産も買う必要があった米国と、金融機関がびくともしなかった日本は、金融政策を取り巻く状況が違っていたのでしょうか。
 日本では、金融機関は傷つかなかったとしても、経済は大きく打撃を受けてデフレが悪化した。そこから脱却するためには、日銀も同様に、拡張的な金融政策を行うべきだった。

インフレ目標を達成するために、大量の貨幣供給をすべき
――― 政策の手法として、インフレーション・ターゲットについてはどのように考えますか。
星 
金融政策の目標を明らかにし、それを市場に伝える手法として優れていると思う。これはデフレから脱却する場合でも同じことが言える。ただ、インフレ目標が達成されなかった時には、物価水準が適正水準からさらに離れてしまい、その次のインフレ目標はより高くするのが望ましくなることを考えると、インフレーション・ターゲットより、物価水準ターゲットのほうが望ましいのかもしれない。物価水準ターゲットなら、為替レートとの関係も説明しやすくなる。
 新しい総裁は、2%のインフレを達成するために様々なことをやるということを表明し、その達成の見込みと、そのために考えている政策を市場に伝えていくことが重要だと思う。国債を積極的に買うほか、例えば、資産買入れを、2014年の開始予定を前倒して実施するのもよいだろう。米国連銀は、量的緩和によってデフレを避けることに成功した。日銀もやれるはずだ。
 高いインフレが解消するときには貨幣需要が増加することがよく知られている。貨幣の減価を嫌って低くなっていた貨幣需要が元に戻るからだ。中央銀行はそれに答えるために、インフレ低下のための金融引き締め策を反転しなければならなくなる。デフレが解消する時にもたぶん同じことが起こるのだろう。デフレ期待によって高まっていた貨幣需要が元に戻るので、デフレ解消のために大量に発行していた貨幣を今度は吸収しなければならなくなる。

財政出動に頼らず、政府が邪魔をしない経済を実現する必要
――― 物価が2%となった後は、どのようなことに気をつければ良いでしょうか。
星 インフレ期待が上がれば金利は当然上がってくるだろうが、今の日本で問題なのは大量にある国債である。1%金利が上がっただけで、かなりの金利支払い増になる。
 また、日本経済は需要不足の問題のみならず、供給側もかなりダメージを受けている。したがって、潜在的な成長力を高めるための成長戦略がなければ、デフレが解消したとしても高い成長は取り戻せない。しかも財政の問題があるので、できるだけ財政出動に頼らず、民間のイノベーションが政府によって邪魔されない経済に変えていくような成長戦略を画策・実施していく必要がある。

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識者に問う3 「『1億人×1人7万ドル』ビジョンを示せ」
 御立尚資 ボストンコンサルティンググループ 日本代表、
      経済同友会 副代表幹事(4月25日就任予定)

成長戦略の中身が問われている
――― 現在の政権がおこなっているデフレ脱却への政策をどのようにご覧になりますか。
御立 アベノミクスには、2つの特徴があると思う。1つは市場の心理的側面に働きかけ、経済主体の行動変化を起こすことを重視していることだ。金融政策が変わることで収益機会があるヘッジファンドなどの人たち、つまりマーケットの期待感は上がっており、彼らには働きかけがきちんと届いていると思う。もう1つは、副作用のリスクをあえてとって、高リスク・高リターンの政策をしていることだ。財政投入で景気を刺激すれば、一定の需要は発生するが、無駄遣いと財政再建に対する不安というリスクも高まる。そうしたリスクを承知でここまで政策を打ち出したからには、成長戦略を可能な限り早く実行するしかない。
 ただ現状では、大多数の企業の行動は本質的には変わっていない。持続的な需要が生まれる手前で心理的なボトルネックがあり、そこに配慮することが必要だ。成長戦略が本当に実行されるか、そして日本に長期的な成長機会があるのか。ここを信じられるようにしないと、デフレ脱却は継続的に進まないのではないか。政府がまとめる成長戦略の中身が問われることになる。

人口問題に明確なビジョンを提示せよ
――― デフレ脱却を継続的に進めるにあたって問題はどこにあるのでしょうか。
御立 まず、製造業は日本に投資することに決定的に悲観的な考えを持っており、対外投資に目が向いている。一方で、サービス産業も国内型の企業は生産性向上への投資が滞っている。この根本原因のひとつは、長期的な人口減少、それに伴う経済規模の縮小が不可避だという認識にある。
 こうした人口減少に起因する悲観的発想を変え、さらに人口減少そのものに歯止めをかけていくためには、政府が人口問題に明確なビジョンを提示すること、その内容を企業や消費者が信じて行動に移してもらえるようなコミュニケーションをとることが重要になる。これは中期的な産業政策・規制改革を超えた課題だ。

大胆な挑戦目標を掲げることが大事
――― 悲観論を排するビジョンとは具体的にどのようなものでしょうか。
御立 これから成長戦略の内容が個々にだされてくるが、それだけにとどまらない大きなビジョンであり、一言で伝えられる結晶化したコンセプトだ。たとえば「1億人×人口1人あたりGDP7万ドルの日本」といったイメージになる。まず、女性の労働参画と子育てへのインセンティブを中心に、人口減少を1億人レベルで底打ちさせる長期政策の明確化。つぎに、従来の工業化や貿易による1人当たりGDP4万ドルを突き抜けて、スイスや北欧のような6万ドル、7万ドルのレベルを国家目標とする。これにはGDPの4分の3を占めるサービス産業の生産性向上が必至である。スイスや北欧、あるいは香港での事例を参考にして、農業の6次産業化や観光産業、B2Bサービス産業の高度化等で、他の国にはない高い競争力を持った国家に移行するといったことが考えられる。
 こういったビジョンといわゆる成長戦略、規制改革があいまって、ようやく経済主体の本質的行動変革が始まる。

掲げたビジョンの実行担保が重要
――― 一方、狭義の成長戦略については何が大事ですか。
御立 安倍政権は、経済財政諮問会議と、産業競争力会議、規制改革会議という3つの重要な会議を立ち上げたが、この3つの会議の連関が見えてこない。この3会議に共通して優先することは何か、という横糸を通してストーリーを示すことが必要だ。たとえば、労働人口増、女性の労働参加率向上、保育・教育サービス産業の振興、そのための規制改革、といった首尾一貫した流れだ。
 また、こうしたビジョンやストーリーの実効性を担保するには、数値目標を立ててコミットすること、規制の壁を本当に壊すことを示すこと、の2つが不可欠だ。そのためには、例えば規制緩和を推進するオープンで中立的、かつ法に基づく機関を設置し、事業者が監督官庁からの規制に不満な場合には、国際先端ルールに基づき、監督官庁の縦割りを越えて一定期間内に決着をつける。こういったことが効果的だと考える。
 こうしたことができてくれば、規制と官製市場に影響され生産性があがらない医療・介護を含むサービス産業が高度化されるはずだ。

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識者に問う4 「日本企業のブランド力向上を」
 加藤 出 東短リサーチ 代表取締役社長・チーフエコノミスト

スケープゴートになった日銀
――― これまでの日銀の金融政策についてどう思いますか。
加藤 日銀は、ある種仕方ない面もあると思うが、デフレ脱却を狙いつつも、国債価格を暴落させないという狭い道を行かなければならなかった。債券価格が不安定化して金融システム危機が起き得る懸念があるということで、金融政策で直接インフレ期待を引き上げるのではなく、中長期的な成長期待を高め、結果的に経済の体温を上げていって物価が上がっていくというアプローチをとった。しかし、日銀がそれを上手く説明できなかったために低成長へのいら立ちがたまっていた国民には、それが理解されず、スケープゴートに日銀がなってしまった。

困難な出口戦略
――― デフレ脱却後の出口政策で、一番大きいリスクは何ですか。
加藤 まずは、日本はアメリカ以上に長期債券を市場に売りにくい。日本の場合は市場に多様性がなく、国内金融機関が国債の主要な買い手。そこで日銀が長期債を売ろうとしても、現実はかなり難しいので、なかなか売るに売れず、日銀のバランスシートが肥大した状況が続きやすい。
 次に、株やETFなどを買う際に、2008年のように明らかにアンダーバリューになっているものを中央銀行が買う場合と異なり、株価の上昇局面である今から高値のものを買っていくとなると、損失が出たときに、中央銀行が財政的に国庫に逆に依存しなければならなくなる。場合によっては補塡しなければならないというようなことになると、日銀の独立性は低下する。特に、先行きになるほど少子高齢化で、日本の経常黒字もあやしくなる可能性を勘案すると、通貨の信任についても、何年か後は、よりシビアに考えなくてはならないかもしれない。

日本企業のブランド力向上を
――― デフレ脱却のために有効な成長戦略は何でしょうか。
加藤 デフレからの脱却には、心理的なアナウンスメント効果をより上手く発揮させるために、2%という高めのボールを投げておくことには意味があるものの、期待に働きかけるだけの金融政策では無理。物価が上がるためには、耐久消費財は、競争が激しく価格が下がるため、CPIの4割のウェートを占める生活コストに直結するような品目が上がらなければ、全体として2%のインフレにはならない。しかし、2%のインフレに耐えられるようにするには、賃金が持続的に上がらないといけない。つまり、成長戦略が必要。中長期的にもしっかり対策を打っているという印象を与え続けなければ、アベノミクスで織り込んだものが、すぐ剥がれてしまう。
 まず一つは、優秀な移民を入れる必要がある。人口減少が即デフレの直接の原因ではないものの、経済のパイが縮まっていくというときに、どうしても消費投資行動が縮小化しやすいというマインドの問題が大きい。

――― ドイツは日本よりも人口減少のスピードが速いにもかかわらず、デフレになっていないですね。
加藤 だからこそドイツを見習うべき。ドイツ企業のブランド戦略はすばらしい。中小企業もドイツ勢は、単なる大企業の系列ではなくて、技術力のブランドイメージを生かして、自ら販路をつくって利幅を厚くする努力をしている。スイスにもそういう企業は多く、通貨高の際も利幅を確保できる。したがって、ブランド力、利幅をいかに確保するかが重要。日本は完全に高所得国にふさわしい産業にまだ転換できていない。アジアの企業と価格競争をしてしまうようなものをつくっている限りは、国内の賃金はどうしても上げられないわけだから、それへのシフトが必要。

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識者に問う5 「今や絶好のタイミング、デフレマインド『3点セット』を断ち切れ」
 高田 創 みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長・チーフエコノミスト

2%のインフレ目標の評価は
――― デフレの背景についてどう考えますか。
高田 デフレの問題は、そもそも、失われた20年というか、日本のバブルの崩壊がきっかけ。民間債務の名目GDP対比が、80年代のバブル期を通して拡大し、90年ぐらいのところでピークをつけた。それ以降債務比率が下がり、バランスシート調整を経験し2007年にはある程度日本の債務調整に目処がついたが、運悪く、アメリカとヨーロッパが同じころにバブルの崩壊が始まった。
 実質借金企業の比率で見ると、日本の場合、今や上場企業の50%近くが実質無借金になっていて、財務体質で言うと、デレバレッジが進んだ。そのかわり、民間債務を国債の発行で肩代わりした国は大変な債務になっている。政府債務はいわば民間の過剰債務を肩代わって大きくなった「身代わり地蔵」みたいなものである。
 こうやって肩代わりしたものを、どこかで収益性つまり成長戦略で返さなければいけない。理想的には、生産性向上であるが、大恐慌、90年前後の北欧のバブル崩壊後、アジア危機のときなど、多くのケースは、自国通貨を安くして外需、輸出が増えて景気を好転させ、税収を増やす方法をとっている。
 しかし、日本の場合は、外需になかなか依存ができなかった。
 それともう一つは、この20年間のデレバレッジのプロセスの中で、先行き期待がすごく落ちてしまった、「草食系」的な状態にマインドが陥ってしまった。
 現状は、デレバレッジとデフレマインドと草食系という完全にマインドが失せてしまった状態。ただ、これは、ある面で言うと、厳しい冬の時期でも、バランスシート調整を生き残るための進化系の姿でもあったのかもしれない。

金融政策と財政政策の総動員が必要。今回の安倍政権は「持っている」
――― 「デレバレッジ」、「デフレマインド」、「草食系」の3点セットを断ち切るためにはどうすればよいですか。
高田 金融緩和を行うことによって円高が是正され、外需を獲得する。
 したがって、今回の2%は、非常に意味がある。つまり、2%なんて無意味だろうという議論は、確かにそうかもしれない。しかし、逆説的に言えば、結構強いメッセージとして意味があったというふうに考えることもできる。
 現状では、為替は動いたし、多少デフレマインドも変わりつつあるようだが、ポイントは、政策を総動員して、持続的な軌道に乗せることができるかということだ。インフレへの対応とデフレへの対応には非対称性があり、デフレへの対応には中央銀行の独立性よりも、政府と一体になった政策の総動員が不可欠になる。だから、企業としては、すぐに円高に戻るようであれば、賃上げとか、もしくは投資を行うことはなかなかできない。したがって、いかに拡大、安心感が持てるか、持続的かという点が重要であり、成長戦略を着実に実行する必要がある。しかも、今回の重要な点は絶好のタイミングにあることだ。すなわち、2007年から生じた米国のバランスシート調整も6年が経過し、その調整も終盤にさしかかり、これまでのドル安、円高圧力に転換が生じだしたことにある。アベノミクスはこうしたタイミングに恵まれている。今度の安倍政権は「持っている」と言える。

先行き改善期待の醸成
――― 先行き期待を改善するにはなにが必要ですか。
高田 株、不動産等の資産価格を上げるという政策に対していかにサポートしていくかが重要。外国人投資家から見ると、不動産とか株が安定しない中で、財政は絶対安定しない、年金制度も成り立たないというコンセンサスがある。不動産と株が安定しない中で財政と年金の持続性はあり得ない。

出口戦略には物価連動債が重要
――― 出口戦略で重要なことは何ですか。
高田 デフレ脱却の過程で国債の購入を拡大することでバランスシートが膨らんだ日銀は、次第に追加マネーの供給の抑制のために国債購入は難しくなりやすい。その場合、国債市場の需給要因の改善の為にも、発行当局である財務省は長期国債の発行を抑制し、その代わりに物価連動債を発行することになるだろう。つまり、もし将来の物価上昇期待が持続する場合には、市場で追加的にどんどん長期国債を発行するが難しくなる。物価連動国債は、物価の変動に関して長期的なファイナンスができる利点がある。逆に言えばインフレになればなるほど発行しやすい債券であるといえる。

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