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わたしの構想

FinTechベンチャー発展の条件とは

わたしの構想No.24 2016/07発行
識者:高野 真(株式会社アトミックスメディア 代表取締役CEO/フォーブス ジャパン 編集長)、増島雅和(森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士)、瀧 俊雄(株式会社マネーフォワード 取締役/Fintech 研究所長)、神田潤一(金融庁総務企画局企画課 企画官)、齋藤ウィリアム浩幸(株式会社インテカー 代表取締役)                     *原稿掲載順
企画:柳川範之(NIRA 総研理事、東京大学大学院経済学研究科 教授)

 近年、利便性を追求した新しい金融サービスとして、金融とITの融合であるフィンテックが期待されている。しかし、日本発のフィンテックベンチャー企業の数は、アメリカやイギリスなどと比べ圧倒的に少ない。
 日本は革新的なアイデアや高い技術力があるとされながら、なぜその事業化が困難なのか。今後の金融システムのありかたにも大きな影響を及ぼすと考えられる、フィンテックベンチャー発展の条件について考える。

 わたしの構想No.24「FinTechベンチャー発展の条件とは」PDF     ■英文版PDF

 企画に当たって
柳川範之(NIRA 総研理事、東京大学大学院経済学研究科 教授)
「フィンテックベンチャーが活躍する環境を」 


 識者に問う
「FinTechベンチャー発展の条件とは」

フィンテックベンチャーの発展が、今後の金融システムを左右する。
わが国でフィンテックベンチャーが伸びていくための条件は何か。
フィンテック発展のために、今、取り組むべき課題は何か。
識者に聞いた。

1 高野 真 株式会社アトミックスメディア 代表取締役CEO/フォーブス ジャパン 編集長
  「オープンイノベーションがもたらす既存銀行とベンチャーの融合
 
2 増島雅和 森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士
  「世界で戦えるスタートアップを創るために

3 瀧 俊雄 株式会社マネーフォワード 取締役/Fintech研究所長
  「「三年後に違う仕事をする」が当たり前の環境を

4 神田潤一 金融庁総務企画局企画課企画官
  「エコシステムの構築でフィンテック発展の後押しを

5 齋藤ウィリアム浩幸 株式会社インテカー 代表取締役
  「高齢化社会が日本のフィンテックにおけるチャンスだ

                       インタビュー実施:2016年3月
                       聞き手:林 祐司(NIRA 総研主任研究員)
                       編 集:原田和義/新井公夫

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 識者が読者に推薦する1冊(推薦図書リストはこちらから)

高野 真氏
Brett King〔2012〕Bank 3.0:Why Banking is No Longer Somewhere You Go,But Something You Do, Marshall Cavendish International (Asia) Pte Ltd

増島雅和氏
Masahiko Aoki〔2010〕Corporations in Evolving Diversity:Cognition, Governance, and Institutions, Oxford University Press
(青木昌彦〔2011〕『コーポレーションの進化多様性―集合認知・ガバナンス・制度(叢書 制度を考える)』谷口和弘(翻訳) NTT 出版)

瀧 俊雄氏
Paul Graham〔2004〕Hackers & Painters: Big Ideas from the Computer Age, O’Reilly Media, Inc.
(ポール・グレアム〔2005〕『ハッカーと画家―コンピュータ時代の創造者たち』川合史朗(翻訳)オーム社)

神田潤一氏
日経コンピュータ(編)〔2015〕『FinTech 革命―テクノロジーが溶かす金融の常識』日経BP 社

齋藤ウィリアム浩幸氏
齋藤ウィリアム浩幸〔2016〕『ザ・チェンジ・メイカー―世界標準のチームリーダーになる49 のレッスン』日本経済新聞出版社

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 企画に当たって
柳川範之(NIRA 総研理事、東京大学大学院経済学研究科 教授)
「フィンテックベンチャーが活躍する環境を」

急速に広まるフィンテック
 フィンテックという言葉が、この半年ぐらいで、急速に人々の話題に上るようになってきた。フィンテックは、金融(ファイナンス)と技術(テクノロジー)を合わせた造語であり、金融分野におけるIT(情報技術)やAI(人工知能)を活用した、新しいサービス提供の動きを指す。が、ややブームとも呼ぶべき状況で、何がフィンテックなのか、その定義自体もかなり曖昧になってきている傾向はある。
 とはいえ、これだけのブームが世界的に生じているのは、単なる「はやり」では片付けられないような、大きな動きが生じていると考えられているからだろう。そこで、そのポイントはどこにあるのか、そして、それを適切に取り込んでいくためには、何を考えていく必要があるのか等について、この分野に詳しい各方面の方々に語っていただいた。

金融システムの根幹を変える
 そもそも、技術の発展が、金融分野のサービスを大きく変化させてきたのは、いまに始まったことではない。たとえば、ATMの登場は、窓口業務を大幅に改善したし、インターネットによって可能になったネットバンキングや、ネット証券等のサービスも、広い意味ではフィンテックに分類できる動きだ。その点では、フィンテックはいまに始まったサービスではないともいえる。
 しかし、今回フィンテックというネーミングがなされ、いままで以上に多くの人がこの分野に注目しているのは、かなり本質的な変化が生じ始めているという意識があるからだ。そのなかには、銀行や証券会社等、既存の金融機関の業務を根幹から揺さぶるような変化の可能性や、貨幣の役割自体の変容、それらの変化に従って必要となる法律や政策の改革の必要性等が含まれる。
 ITなどを活用してさまざまな新しい金融サービスを提供するベンチャー事業者、いわゆるフィンテックベンチャーが多く現れてきているのが、現状のフィンテックの一面である。しかし、その裏側には、このような本質的な変化が現在の金融システムの根幹を変えていくのではないか、という認識が存在している。それが、現在フィンテックがこれだけ内外で注目されている一つの理由であろう。
 少し見方を変えていえば、フィンテックベンチャーが積極的に活動できるような環境を整えていくことが、変わっていく金融システムの新しい姿をより良いものにしていくうえで、一つのポイントになっていく。

フィンテックベンチャーの活躍が鍵
 この観点から高野真氏は日本のベンチャー企業が伸びてこない理由を挙げ、フィンテックベンチャーにも同様な問題点があると指摘する。そして、その解決策として、大企業である銀行がフィンテックベンチャーと積極的に融合する動きが重要だと説く。そして、そのための制度整備の重要性も指摘している。
 増島雅和氏も、日本のベンチャービジネスがなかなか盛り上がらない点を、問題視している。これは世界的にみても特異であり、フィンテックベンチャーを考えるうえで大きな問題だという意識があるからだろう。その要因として資金提供側のベンチャーキャピタルの問題点を指摘するとともに、最初から世界を相手にするグローバルスタートアップが方法論として確立しつつある点を指摘し、日本がこの点で後れを取っている点にも警告を発している。
 瀧俊雄氏もやはり、日本のベンチャー起業家がそもそも少ない点を問題視し、それが、フィンテックベンチャーが増えないことにつながっていると考えているようだ。そして、その裏側として、長期雇用制度を前提とした日本的雇用慣行が、ベンチャー企業に転職することを難しくしているとして、大企業とベンチャーを行き来するような人事システムを作り上げることの重要性を指摘している。
 この三者の主張の根底にあるのは、フィンテックビジネスを今後盛り上げていくうえで重要なのは、フィンテックベンチャーと呼ばれる新しい企業であり、ベンチャー企業がそもそも活躍しにくい日本においては、その点から改めていく必要があるという問題意識であろう。

制度整備とセキュリティーの後押し
 そして、発展をさせていくうえでの、制度的な整備の重要性を指摘しているのが、神田潤一氏である。フィンテックベンチャーが発展していくためには、新しい多様なアイデアをもった人たちが集まる必要があり、また試行錯誤を許容するような社会の実現が必要だと指摘する。そして、そのような制度設計を規制とバランスを取りながら考えていく必要性が述べられている。
 さらには、金融分野、とくにITを活用していく新しいサービスを提供するにあたっては、セキュリティー技術が大きなポイントとなる。しかし、齋藤ウィリアム浩幸氏は、セキュリティーは技術の問題だけではなく、人々の安全意識等も絡む問題であると指摘する。そして、高齢化社会になる日本において、高齢者でも安心して使えるセキュリティーシステムをつくっていくことで、世界的にも大きな活路を見いだせると主張している。
 いま起きている動きのポイントは、技術革新の進展によって、産業の垣根を越えるコストが大幅に低下している点にある。この点では、フィンテックベンチャーだけでなく、金融および他産業の既存企業にとって、大きなチャンスが到来しているといえる。金融分野では、システムの健全性や安全性が他産業以上に重要であるが、それを維持しながら、いかにいままでになかったより良いサービスを作り出せるかが、今後の日本の金融業および経済全体にとって重要な課題であろう。

柳川範之(やながわ・のりゆき)
NIRA総研理事。東京大学大学院経済学研究科教授。東京大学Ph.D.。専門は契約理論、金融契約。

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 識者に問う
わが国でフィンテックベンチャーが伸びていくための条件は何か。
フィンテック発展のために、今、取り組むべき課題は何か。
1 高野 真 株式会社アトミックスメディア 代表取締役CEO/フォーブス ジャパン 編集長
「オープンイノベーションがもたらす既存銀行とベンチャーの融合」


 日本でベンチャー企業が伸びてこない理由は、次の三要素が不足しているからだ。リスクを積極的に取りに行こうとする投資家、失敗を許容するカルチャー、そして高い志をもった起業家だ。これはフィンテックベンチャーでも同じ事がいえる。
 一方、日本にある要素は、お金や人材、そしてアイデアといったものだが、これらはむしろ大企業にある。まずは大企業である銀行がベンチャーと戦うのでなく、取り込んでいくことが重要だ。銀行の業態を、きちんとフィンテックベンチャーと融合し、トランスフォームしていく動きが求められる。
 具体的には、銀行内部の人材をイントレプレナー、つまり社内起業家としてベンチャーに送り込むことが考えられる。銀行の人的リソースを開放して、ベンチャー企業を育てていくという発想だ。また、いまではまだ一部の銀行しか行なっていないことだが、銀行API(Application Programming Interface)を開放し、システム面でのオープンイノベーション戦略を推進していくことも重要となる。そして銀行のもつ資金力を生かすという点で、銀行がベンチャー企業に直接投資できるようにしていくことも必要となってくる。
 このように銀行がダイナミックかつ柔軟に動くためには制度の整備が欠かせない。銀行が新しい分野へ投資しやすいように、銀行の業務範囲規制を緩和すること、そしてAPI開放のためのガイドライン作りなどが求められる。その一方でベンチャー企業が、ECモールやP2Pレンディングを運営する際に、金融機関と同じような法律が適用されるよう整備することも重要だ。大手銀行とベンチャー企業が同じフィールドで業務をしていけるような、フェアな制度作りが必要となるだろう。
 フィンテックの発展は、マクロ経済にも変化をもたらすかもしれない。たとえば、これまで銀行や証券会社の社員が投資商品を売り込んでいた、いわゆるプッシュマーケットから、顧客がフィンテックのサービスを使い、自ら欲しいものを自分で選ぶプルマーケットへの移行だ。買い手が自ら選ぶ力をもったとき、「貯蓄から投資へ」の変化が本格化する可能性を秘めていると考えている。

高野 真(たかの・まこと)
外資系金融機関社長出身の異色の編集長。メディア界から日本企業に起業家精神を呼び起こすべく活躍中。
早稲田大学大学院理工学研究科卒。大和証券入社。大和総研(出向)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント執行役員等を経て、2001年ピムコジャパンリミテッド入社。2002年より取締役社長。2014年メディア界に転じ、現職。2015年よりGenuine Startups 株式会社共同代表を兼務。
1992年度証券アナリストジャーナル賞受賞。資本市場全般に関する論文・著書多数。

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わが国でフィンテックベンチャーが伸びていくための条件は何か。
フィンテック発展のために、今、取り組むべき課題は何か。
2 増島雅和 森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士
「世界で戦えるスタートアップを創るために」


 日本のスタートアップ業界は、そのビジネス環境が世界の標準と大きくずれていることを理解しなければならない。日本はこれだけの経済規模がありながら、ユニコーンベンチャーと呼ばれる時価総額一〇億ドル以上のベンチャー企業が一つもなかった。最近になってようやく一社出てきたが、中国やインドにはすでに数多く存在し、韓国にも二社ある。
 この背景には、日本のベンチャーキャピタル(VC)の短期志向、そして投資がマイナスになることを何より恐れ、元本以上のエグジットであれば良しとする「銀行体質」と呼べる悪癖がある。いままでにない事業の将来性を評価することがVCの本来の使命だが、他の国での先例がないと日本のVCは投資評価をすることができない。こうした調達環境のもと、日本のスタートアップは、アメリカで提供されているサービスをまねて日本でローカルに展開するだけのビジネスになりがちだ。
 他方、台湾や香港など、もともと自国マーケットが小さな国のベンチャーは、アジア全体をカバーする事業計画を描かないと資金が付かない。アイデアはアメリカの二番煎じでも、彼らは初めからアジア市場全体をカバーできるビジネスモデルとサービスを作り上げることで、大きなビジネスを狙う。
 世界に通用するグローバルスタートアップをつくる方法論は定着しつつある。国境や地域といった概念を捨てて人を中心として組織とサービスを作り上げるモデルだ。各国で類似するサービスを出している企業同士が、買収という形でコラボレーションを実践する例もある。M&Aを「買うか、買われるか」という視点で捉えるのではなく、ローカルな経営陣を集めてグローバルなチームを作って世界をめざすという意識だ。
 もっとも、最高のチームができたからといって、それが常に成功に直結するわけではない。成功は試行錯誤の末にしか生まれない。成功への鍵は「何回試せるか」にある。規制が厳しい金融分野では、トライ&エラーのもとで事業を創出することを前提とした規制・制度の枠組みが必要になる。現在注目を集めている「Regulatory Sandbox(規制の砂場)」と呼ばれる仕組みは、金融ビジネスの創出に試行錯誤を許容する、規制サイドのイノベーションといえる。

増島雅和(ますじま・まさかず)
情報技術が既存事業に破壊的インパクトを与えつつあるとの認識のもと、企業の法務戦略パートナーとして、革新的ビジネスモデルの共創に寄与する。専門は金融機関のM&Aや規制法の対応等。
東京大学法学部卒。コロンビア大学法科大学院卒。カリフォルニア州Wilson SonsiniGoodrich & Rosati 法律事務所、金融庁を経て、現職。国際通貨基金金融安定査定プログラム外部顧問(2015年)等。
著書に『M&A法大系』〔共著〕(有斐閣、2015年)他。

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わが国でフィンテックベンチャーが伸びていくための条件は何か。
フィンテック発展のために、今、取り組むべき課題は何か。
3 瀧 俊雄 株式会社マネーフォワード 取締役/Fintech研究所長
「「三年後に違う仕事をする」が当たり前の環境を」


 自分の人生を自分でコントロールしたいと思う若い消費者が増えている。「ミレニアル世代」と呼ばれる二十五~三十五歳前後の若者は、流されて何かを買うのではなく、自分で情報を調べて選んでいる。堅実で、支出抑制に積極的な彼らは「利便性」や「低コスト」に加えて「中立性」をも貪欲に求める。たとえば、ネットやスマホなどを使い、食べログや価格.comのような中立的なサービスにアクセスし、より安いものを求めるといった消費行動の変化だ。
 こうした「中立性」を重視する世代に対し、大手ITベンダーや金融機関が新しい金融サービスを提供しても新鮮な感動は呼べなくなっている。サービスにグループ企業のソリューションが混ざっているとみられるからだ。しがらみにとらわれずに研ぎ澄まされたプロダクトを出し、改良を繰り返すフィンテックベンチャーは、「中立性」において他の企業より一枚上手だ。
 いまの日本でフィンテックベンチャーは多くみても一〇〇社であり、ベンチャー起業家が増えていない。その最大の要因は、長期雇用制度に起因した、人材の還流の欠如だ。大企業を辞めて起業したり、ベンチャー企業へ転職をすることが、あたかも高速道路を降りて、一般道で行くようなイメージで捉えられてしまう。収入の面でも、大企業で年収一二〇〇万円だった人が、ベンチャーに移った途端五〇〇万円になってしまう。職責の大きさや挑戦の楽しさといったメリットを勘案しても、これは飛び出す側には問題だ。熱い志をもった人が飛び出しやすく、三年後に違う仕事をしていることが当たり前の、アメリカのような労働市場の形成が必要だろう。
 アメリカの政治の世界に「リボルビングドア」という言葉がある。大企業とベンチャーを行き来するような選択の自由度が高まれば、労働市場の相場感も自然とできてくる。実際、アメリカでは経営者市場がきちんと成立しており、二、三億円を調達できたベンチャー企業は、大企業から引き抜いた幹部人材に対し、一五〇〇万円を超える給料を支払っている。めざすべきは、働きに見合った収入がきちんと得られるという社会だろう。

瀧 俊雄(たき・としお)
フィンテックベンチャー企業「マネーフォワード」に2012年創業時から参画。マネーフォワードは、自動家計簿サービスや、会計・給与計算・請求書発行などの業務向けアプリを開発、提供している。
慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社。野村資本市場研究所で家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究業務に従事。スタンフォード大学経営大学院、野村ホールディングス企画部門を経て、現職。
著書に『FinTech入門』〔共著〕(日経BP社、2016年)他。

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わが国でフィンテックベンチャーが伸びていくための条件は何か。
フィンテック発展のために、今、取り組むべき課題は何か。
4 神田潤一 金融庁総務企画局企画課企画官
「エコシステムの構築でフィンテック発展の後押しを」


 日本でフィンテックベンチャーが伸びていくためには、多種多様な企業や研究者が出会い、有機的に結び付くことができる「エコシステム(生態系)」の構築が必要だ。モデルケースとなるのが海外の取り組みだろう。とくにロンドンは、かつては保守的で既存の金融機関の論理が強いなど東京と似ていたが、ここ五、六年で変わってきた。
 ロンドンが急速に変化した要因は、エコシステムを構築する際に、「人材」と「文化」を重要なポイントと考え、官民一体となって取り組んだことによる。
 ロンドンのエコシステムの仕掛け人の一人は、フィンテックベンチャー成功の鍵を握るのは技術が一%、残り九九%は人材だ、という。実際に、カナリーワーフをはじめとするフィンテックの拠点では、金融、IT企業、大学の研究者、ベンチャー起業家などさまざまな人材が集積し、アイデアを切磋琢磨するような場となっている。
 また、フィンテックの拡大が既存の金融機関等の利害と対立した場合はどうするのかとの質問に対し、ロンドンで意見交換した政府幹部は迷わず「競争を促す政策を選ぶ」と断言していた。競争がイノベーションにつながる挑戦を促し、ユーザーの利便性を高め、自国の金融サービスの競争力の向上につながるとの信念が感じられる。
 日本政府も、こうした海外での取り組みを参考にしつつエコシステム構築に向け、しっかりとコミットしていく。一方で、こうした動きが金融業に与える影響等についての目配せも重要となる。
 五月には、銀行によるIT企業への出資の容易化、仮想通貨に関するマネーロンダリング・テロ資金供与対策等を盛り込んだ改正銀行法が成立した。金融審議会でも、決済業務にかかる横断的法制のあり方や、異業種グループから銀行業に参入する企業に対する規制のあり方などについての議論を継続することになるだろう。イノベーションを生む環境と、利用者保護・不正防止などのレギュレーションとのバランスを取りつつ、しっかりと取り組んでいきたい。

※一部内容を五月末時点の情報に更新しています。

神田潤一(かんだ・じゅんいち)
金融庁で、日本の決済制度・インフラの高度化を中心とする調査・政策企画に従事。わが国のフィンテック発展への取り組みを政府の立場から後押しする。フィンテックに関する講演等、多数。
東京大学経済学部卒。日本銀行入行。米イェール大学修士号取得の後、日本銀行金融機構局で主要行や外国金融機関等のモニタリング・考査を担当。日本生命(出向)運用リスク管理室調査役、日本銀行考査運営課市場・流動性リスク考査グループ長等を経て、2015年より現職。

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わが国でフィンテックベンチャーが伸びていくための条件は何か。
フィンテック発展のために、今、取り組むべき課題は何か。
5 齋藤ウィリアム浩幸 株式会社インテカー 代表取締役
「高齢化社会が日本のフィンテックにおけるチャンスだ」


 フィンテックというと、「速く、安く、便利」な点に注目が集まるが、本質はそうではない。情報セキュリティーの分野に二十五年間関わってきた経験を振り返ると、いままでサイバーセキュリティー対策でやってきたことが、まさにフィンテックだと思っている。非接触型のSuicaにしても、クレジットカードにしても、これらは暗号技術の固まりである。セキュリティー技術こそが、フィンテックを皆が安心して使えるようになるための鍵だ。
 重要な点は、優れたセキュリティー技術を導入しても安全・安心の問題は解決しないということだ。たとえば、高齢者を狙った振り込め詐欺や不正送金を防ぐには、技術だけでは不十分だと思っている。メガバンクが、ランダムの番号が一分ごとに変わる「ワンタイムパスワード」という機械を配ってセキュリティーを強化している。しかし、あまり有効ではない。実際に、銀行員を装って番号を教えてほしいと電話すると、ほとんどの高齢者はだまされていると知らずに、パスワードとなる番号を読み上げてしまう。いくら技術が優れていても、セキュリティー対策にはならない。
 日本は、高齢者が多い社会であることを前提に、それにどう対応し、防ぐべきか、ということを考える必要がある。アメリカでよくいわれる「PROBLEM」を「OPPORTUNITY」に変えていくという発想だ。日本の高齢化とセキュリティーの問題を同時に解決することで、日本のフィンテックベンチャーの活路が見いだされるのではないか、と思っている。
 本来、日本には「安全・安心のDNA」がある。日本車にしても、イタリア車ほど格好よくはないけれど、一九七〇年代、米国政府が課したマスキー法という排ガス規制をクリアし、安全・安心だから世界で買われている。「フィンテック=サイバーセキュリティー」を、高齢者でも安全・安心に使えるという保証を付けて、世界に売りに行く。この問題の解決策が日本で生まれれば、それは日本最大の輸出産業になりうる。

齋藤ウィリアム浩幸(さいとう・ウィリアム・ひろゆき)
サイバーセキュリティーの第一人者。齋藤氏開発の生体認証システム技術BAPIは当時、事実上の世界標準規格となった。
アメリカ生まれの日系二世。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部卒。在学中にI/Oソフトウェアを設立。27歳で「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー」受賞。2007年東京でベンチャー支援コンサルタントの株式会社インテカーを設立。2013年より内閣府本府参与(科学技術・IT戦略担当)。
著書に『その考え方は、「世界標準」ですか?』(大和書房、2013年)他。

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E-mail:info@nira.or.jp

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