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わたしの構想

民泊到来、問われる日本

わたしの構想No.23 2016/05発行
識者:田邉泰之(Airbnb Japan株式会社 代表取締役)、上山康博(株式会社百戦錬磨 代表取締役社長)、矢ケ崎紀子(東洋大学国際地域学部 准教授)、松村敏弘(東京大学社会科学研究所 教授)、安念潤司(中央大学法科大学院 教授)               *原稿掲載順
企画:翁 百合(NIRA理事、日本総合研究所副理事長)

一般住宅を旅行者に貸し出す「民泊」が広がっている。訪日外国人の増加で需給がひっ迫するホテルを代替するサービスとして、またシェアリングエコノミー(共有型経済)の先駆事例として注目を集めている。しかし、現状では民泊をめぐるトラブルや課題も目立つ。宿泊者の安全や業者間の公平な競争を確保するため、どのような規制のあり方が望ましいのか。

 わたしの構想No.23「民泊到来、問われる日本」PDF     ■英文版PDF

 企画に当たって
翁 百合(NIRA理事、日本総合研究所副理事長)
「急務となるルール作り」


 識者に問う
「民泊到来、問われる日本」

訪日外国人の増加を背景に、日本でも「民泊」が注目を集めている。
この新形態のサービスに対し、どのようなルール作りが必要か。
日本はどのような対応を迫られるのか。
識者に聞いた。

1 田邉泰之 Airbnb Japan株式会社 代表取締役
  「個人が活躍できるための新しいルール作りを
 
2 上山康博 株式会社百戦錬磨 代表取締役社長
  「ルールを遵守した民泊の推進を

3 矢ケ崎紀子 東洋大学国際地域学部 准教授
  「観光産業の中核となる宿泊を強化する

4 松村敏弘 東京大学社会科学研究所 教授
  「シェアリングエコノミー促進に資する規制改革を

5 安念潤司 中央大学法科大学院 教授
  「行政依存の考え方を問われる試金石

               インタビュー実施:2016年1月~ 2016年2月
               聞き手:川本茉莉(NIRA研究コーディネーター・アシスタント)
               編 集:原田和義

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 識者が読者に推薦する1冊(推薦図書リストはこちらから)

田邉泰之氏
Edgar Tafel〔1985〕Years with Frank Lloyd Wright: Apprentice to Genius, Dover Publications
(エドガー・ターフェル〔1992〕『知られざるフランク・ロイド・ライト』谷川正己・谷川睦子(翻訳)鹿島出版会)

上山康博氏
民泊に関する著書を執筆予定

矢ケ崎紀子氏
内藤耕〔2015〕『サービス産業 労働生産性の革新 理論と実務―旅館・ホテルを含めた豊富な先進事例』旅行新聞新社

松村敏弘氏
Martin L. Weitsman〔1984〕The Share Economy: Conquering Stagflation, Harvard University Press
(マーチン・L・ワイツマン〔1985〕『シェア・エコノミー―スタグフレーションを克服する』林敏彦(翻訳)岩波書店)

安念潤司氏
宮﨑康二〔2015〕『シェアリング・エコノミー―Uber、Airbnb が変えた世界』日本経済新聞出版社

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 企画に当たって
翁 百合(NIRA理事、日本総合研究所副理事長)
「急務となるルール作り」 

急速に広まる民泊サービス
 訪日ビザの緩和、円安等で多くの外国人観光客が日本を訪れるようになり、二〇一五年に来日した観光客はすでに二〇〇〇万人に達しようとしている。こうしたインバウンドに伴う需要拡大は、経済成長の支えとなっている一方で、各地でさまざまな問題も引き起こしている。その一つがいわゆる民泊サービスである。外国人観光客の急増に伴い、都市部のホテルの需給がひっ迫、海外旅行者だけでなく、国内旅行者やビジネスマンの宿泊が確保できなくなっている。こうしたことを背景に、旅館業の許可を得ずに、自宅や空き家で有料の宿泊サービスを提供する動きが広がっている。今回は、民泊について、どのような規制のあり方が望ましいと思うか、識者の方々に意見をうかがった。

多岐にわたるメリットとデメリット
 民泊サービスの広がりはメリットとデメリットがある。メリットとしては第一に、松村敏弘氏が強調するような遊休資産の有効利用による経済厚生の高まりである。日本では、人口減少から各地で空き家が増えており、そうした空き家や別荘を有効利用することは、きわめて重要な課題となっている。第二に、旅行者のみならず国民の利便性が向上する。さまざまなタイプの創意工夫にあふれた宿泊施設が提供され、インターネットで宿泊予約ができれば、利便性が高まり、ニーズに合った宿泊施設の選択肢が広がる。第三に、矢ケ崎紀子氏が強調するように、観光の振興につながり、「おもてなし」の担い手が増えるということである。各地の特色のある住居での郷土料理などのサービスで日本の良さを知ってもらう機会が増えることにもつながる。株式会社百戦錬磨は農村体験を提供するなど、そうした事業者の代表選手であるだけに、ルール遵守による民泊発展の重要性を指摘している。いずれにせよ、インバウンドの増加は、人口減少と高齢化の中にある日本の経済成長に一定の役割を果たしており、二〇二〇年オリンピック開催を考えると、日本の宿泊環境整備は喫緊の課題といえる。
 一方で、多くの識者が指摘するように、民泊による懸念点、デメリットも存在する。第一に、安全性や安心が損なわれる可能性である。たとえば、テロや感染症の広がりなど、ルールなく民泊が広がっていくと、国民生活の安全を脅かす事態になりかねない。第二に、外部不経済の広がりである。外国人観光客が夜中に騒いだり、ルールを守らないゴミ出しをしたりするなど、すでに近隣に迷惑をかけているケースが増加している。マンションの中には、行政の対応より早く、自ら管理組合で管理規約を見直し、マンション住民が民泊住居を提供できないようなルールを作る動きも広がっている。

グローバルな視座からの議論が必要
 こうした民泊は、情報技術を活用したシェアリングエコノミーの典型例であり、前述のようなメリットの大きさを考えると、これを推進していくことが必要である。ただ、シェアリングエコノミー全般の特性として、次々と新しい担い手が創意工夫で新しいサービスを提供するようになってきているため、安念潤司氏が指摘するように、従来のようなサービス提供者全体に事前に業規制をかける手法では、すべての動きを行政がマネージすることが不可能となってきている。また、仲介業者に対する規制のあり方も課題となる。民泊サービスは、ITを活用したプラットフォーマーと呼ばれる業者が利用者とオーナーを仲介していることが多い。仲介業者はグローバルにビジネスを展開しているだけに、規制手法の検討にはグローバルな視座も必要となってくる。Airbnb(エアビーアンドビー)はグローバルなシェアリングエコノミーの旗手であり、日本でもビジネスを展開しているが、テクノロジーにより安全性確保の余地が十分あることを強調している。
 現在、観光庁と厚生労働省では、まず旅館業法の規制緩和から行なおうとしているが、前述のような視点に立てば、それだけでは現在加速している民泊を安心して広げていくための解決策にはならず、さらなるさまざまな課題の検討が必要となっている。

規制のあり方が論点に
 民泊に対する規制の方向性についての識者の方々の意見を読むと、総論としては一致している。民泊を推進していくことが重要で、そのためのルール整備が必要である、という点である。しかし、懸念点の払拭(ふっしょく)のためにどのような規制が望ましいのか、といった具体策については必ずしも一致しておらず、この問題の解決が容易でないことを示している。
 とはいえ、グローバル化、IT化の急速な進展とシェアリングエコノミーの動きは不可逆的である。日本経済を活性化しながら、どう懸念点をクリアしていくか。民泊をめぐる今回の識者の方々のご意見は、観光立国日本としてインバウンドの動きに迅速かつ積極的に対応する重要性をあらためて示していると同時に、シェアリングエコノミーへの流れに現在の硬直的な規制体系が対応しきれなくなってきており、より柔軟な発想で、多角的な視点からルールを検討していく必要性を提起しているといえるだろう。

翁 百合(おきな・ゆり)
NIRA理事。日本総合研究所副理事長。京都大学博士(経済学)。専門は金融、財政等。

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 識者に問う
民泊に対しどのようなルール作りが必要か。日本社会はどのような対応を迫られるのか。
1 田邉泰之 Airbnb Japan株式会社 代表取締役
「個人が活躍できるための新しいルール作りを」 


 当社が日本法人を立ち上げたのは二〇一四年五月だが、翌年には前年比四~五倍のペースで利用者が増えた。ニーズはたいへん旺盛で物件数が足りない状態だ。地元の人の住居に一緒に滞在しておもてなしを受け、その体験を通じて日本文化を知ることができる点が好まれている。引退した人々が民泊のホストとして活躍したり、増加する空き家を活用して地方創生や一億総活躍という国を挙げての政策に貢献したりと、日本経済の活性化へ大きく寄与できるだろう。
 シェアリングエコノミーとは何か、どのようなことができるのか、そこを踏まえないと、新しいビジネスモデルやライフスタイルの芽を摘んでしまうことになる。民泊がさらに広まっていくには、明確でわかりやすいルールの下で、やりたい人が簡単に始められることがいちばん重要である。現在の旅館業法はインターネットのない時代に作られたため、部分修正や増築していくと矛盾が生じる。最新のテクノロジーを使った個人間での貸し借りを想定し、ゼロから新しいルール作りをしたほうが良い。
 安全・安心の確保についても、既存の規制を加工するよりも、テクノロジーを活用すれば多くのことがカバーできる。Airbnbへ登録の際には、SNSのアカウントとの連携やパスポートの認証などをお願いしている。当社では二五〇名以上の専門チームが、コミュニティー(ゲスト&ホスト)の安全を守るために、週七日二十四時間、世界各国のタイムゾーンで稼働し、機械学習を駆使してリスクを洗い出し、犯罪などを事前に防ぐための工夫をしている。またオンラインサービスの特徴を生かし、ゲスト・ホスト双方からのレビューを公開することで、良くない物件・人々がどんどん淘汰(とうた)されるというエコシステムが成り立つ。
 日本のシェアリングエコノミー市場は、まだ発展途上。Airbnbに登録された日本国内の物件数は、市場が成熟に向かうに連れさらに増えると予想している。そうなれば、よりゲストのニーズに合ったものが生き残り、さらに市場を活性化させていくだろう。インバウンドやオリンピックといった日本特有の状況の中で、シェアリングエコノミーが独自の進化を遂げることを期待したい。

田邉泰之(たなべ・やすゆき)
アメリカ発のホームシェアリングのオンラインプラットフォーム最大手Airbnb(エアビーアンドビー)の日本法人代表。物件所有者と宿泊を希望する旅行者を結びつけるコミュニティーマーケットプレイスを全世界190カ国で展開する。経営学修士(ジョージタウン大学)。米リーハイ大学卒業後、ミズノ株式会社入社。日本コカ・コーラ株式会社、HULU JAPAN等を経て、2013年にAirbnbシンガポール入社。同社日本法人の立ち上げに尽力し、2014年にその設立と同時に代表取締役に就任。

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民泊に対しどのようなルール作りが必要か。日本社会はどのような対応を迫られるのか。
2 上山康博 株式会社百戦錬磨 代表取締役社長
「ルールを遵守した民泊の推進を」


 民泊の利用者は顕在化しており、今後間違いなく伸びていく分野だ。経済成長のための国家戦略の一つに、民泊の推進を取り入れるべきである。しかし、現在行なわれている民泊は法律に抵触しており、違法行為と思われる。ルールを守ろうとする人が損失を被ることになりかねない。まずは現行法をしっかりと遵守させ、違反者を取り締まらなければいけない。旅館業法違反は刑事罰なのだから、懲役もしくは罰金をきちんと科す。その上で同時並行的に、新しいルール作りを進めるべきだ。
 現在の仕組みの中でいち早く民泊を実現したのが大田区の国家戦略特区であるが、物件の登録には厳しい制限がある。住宅にもかかわらず旅館業並みの消防設備の設置、旅館業でも行なっていない二十四時間の多言語対応、近隣周知対応などが義務付けられ、人手のコストもかかる上に、六泊以上という制限もあり、実用的とは言い難い。
 本当に民泊を成長戦略として推進していくならば、新しいルールを一から作る必要があるだろう。法律の範囲内であれば自由にしてよいが、違反したら厳罰を科すようにする。自宅の空き部屋を活用して国際交流に貢献するというのは、とても良い話ではあるのだが、善意であってもルールはきちんと守らなければいけない。危惧しているのは、緩い気持ちで民泊を解禁してしまい、事故が起きたときに「だから民泊は危ない、すべてやめるべきだ」といった議論になってしまうことだ。
 ホテルや旅館業界も反対するのではなく、むしろ民泊事業へ乗り出すとよい。従来のホテルでは対応しきれていない需要を取り込むチャンスである。ノウハウや経験の蓄積を強みとして、積極的に活用していくべきだ。
 日本は欧米と法体系が異なっており、根本的に法に対する文化や考え方が違う。欧米で普及しているシェアリングエコノミーの概念をそのまま日本に適用するのは無理がある。実効性のあるルールを早急に整備し、合法的に国際交流を活性化することが、観光立国という日本の成長戦略につながっていくのではないだろうか。

上山康博(かみやま・やすひろ)
ITベンチャー百戦錬磨の創業者・代表者。ICT活用による旅行需要・交流人口の拡大を図る。農林漁家民泊などに特化した「とまりーな」や国家戦略特区での「STAY JAPAN」といった合法民泊仲介サービスを手がける一方、現行の規制に抵触する民泊を「ヤミ民泊」と厳しく批判する。KLab株式会社取締役事業本部長、楽天トラベル株式会社執行役員等を経て、2012年に百戦錬磨を設立、代表取締役社長に就任。観光庁の有識者委員を数多く歴任した他、現在、首都大学東京非常勤講師も務める。

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民泊に対しどのようなルール作りが必要か。日本社会はどのような対応を迫られるのか。
3 矢ケ崎紀子 東洋大学国際地域学部 准教授
「観光産業の中核となる宿泊を強化する」


 昨今の民泊論議は、不動産活用に向かっているようだが、もともとの出発点である観光振興の観点を忘れてはならない。訪日外客による外需を取り込んで経済活性化を図るには、経済波及の中核となる宿泊業を強化する必要がある。
 しかし現実には、日本の宿泊業界には、施設や地域によって濃淡がある。ホテル不足が深刻な大阪や東京でも、旅館の客室稼働率は五~六割と低い。ホテルの整備促進や旅館への誘客方策が必要だが、それが宿泊業界への過保護につながってはならない。民泊を考える上でも、宿泊業全体の体質を強化する方向で考えることが重要だ。
 そのためには、日本の宿泊の強みを生かしたブランディングが必要である。日本の旅館業法は宿泊者の安全・安心の確保を目的としており、業法を遵守している宿泊施設はこのことを利用者に訴求することができる。民泊についても、面積基準などのできる範囲の規制緩和はしていくべきだが、防火対策や本人確認などの安全・安心に関わる部分は統一したルールを設定すべきだ。民泊の仲介事業者には、旅行者だけでなく、宿泊施設の提供者や近隣コミュニティーの安全・安心の確保に協力してもらう必要がある。
 また、民泊という新しいビジネスモデルは新たな需要開拓に寄与することにも着目すべきだ。日本人の普段の生活を体験したい、素顔の日本人と触れ合いたいという訪日外客のニーズを、既存の宿泊施設が充足することは難しい。自宅に受け入れるホームステイ型の民泊は、新しいタイプの旅行者を引き付ける。彼らは、次回の訪日の際には、地域の生活文化が集約された旅館にも泊まってくれるかもしれない。
 ホームステイ型民泊を明確に定義することができれば、ホテル・旅館業界も戦略的に対応し、うまく住み分けができるはずだ。民泊にないサービスを磨いて宿泊客を獲得する気概をもち、そのために必要な規制緩和について宿泊業界自らが建設的な提案をしてほしい。
 民泊論議は、わが国の宿泊産業を発展させるための契機である。多様な宿泊の選択肢のもとで、満足度高い滞在を通じて日本ファンを世界中に増やしていけば、日本のソフトパワー強化にもつながる。

矢ケ崎紀子(やがさき・のりこ)
政策・行政、ビジネス、地域が協力して国際競争力のある「デスティネーションづくり」を、観光産業は目指すべきと主張。専門は観光政策、観光行政。法学修士(九州大学)。国際基督教大学教養学部卒業後、住友銀行(当時)に入行、日本総合研究所、国土交通省観光庁参事官(観光経済担当)、首都大学東京特任准教授等を経て、2014年より現職。産官学すべてにわたる経歴を生かし、観光政策に関する政府委員を数多く務める。著書に『よくわかる観光学Ⅰ―観光経営学』〔共著〕(朝倉書店、2013年)他。

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民泊に対しどのようなルール作りが必要か。日本社会はどのような対応を迫られるのか。
4 松村敏弘 東京大学社会科学研究所 教授
「シェアリングエコノミー促進に資する規制改革を」


 民泊をめぐる議論は、シェアリングエコノミーを、日本で進展させるための重要な第一歩と捉えるべきである。ホテルが不足しているから民泊で代替するなどという矮小(わいしょう)な議論にとどめてはならない。現在日本に存在するあるいは近い将来大量に発生する遊休・低稼働資産を効率的に活用することで日本経済に活力を与え、経済厚生を高める視点が重要。何より、今後参入してくる者も含め、事業者の創意工夫を最大限生かせるよう、道を開いておくことが大切である。
 しかし現在のように野放しに近い状態では、問題がある。夜中に大騒ぎするなど近隣住民に迷惑をかけるような外部不経済を拡大しかねない。テロの温床になりかねないとの懸念にも対応できるよう、宿泊者の本人確認や名簿の整備の体制を整える必要がある。「また貸し禁止」の賃貸契約に違反しているケースや、集合住宅の管理規約に反するような民泊は認められるべきでない。完全に無規制の状況を安易に合法化するのではなく、一定のルール作りと合わせて「社会からも歓迎される民泊」を大切に育てていく必要がある。
 ルール化に際して、最低限でも、一戸建てか集合住宅か、家主が居住しているか否かの四分類には区別して進める必要がある。家主の負担が少ない形で規制の枠組みを作っていくべき。ただし自宅ではない物件の場合は、より外部不経済の問題が深刻になる可能性があり、本人確認が不十分になる場合も想定されるため、家主居住の場合より強い規制が求められるだろう。また、家主と宿泊客をマッチングする仲介事業者にも、一定の規制が必要である。逆に仲介事業者が大きな責任を果たす制度を構築すれば、家主の負担は相対的に軽減できるだろう。
 ホテル・旅館業界との利害調整という視点ではなく、公正な競争条件を整備するという観点で規制改革を行なうべき。民泊への規制をかける一方で、現行の旅館業法の過剰な規制を改革することも考える余地がある。現行法でいちばん問題となる規制は、住宅地に旅館を建ててはいけないという土地の用途規制だと考えている。現行の用途規制のままでは、家主が居住する住宅地の一戸建て住宅の一部の部屋を使うホームステイ型の民泊ですら展開が困難になりかねない。それでは改革は形ばかりのものになり、民泊の発展は望めない。


松村敏弘(まつむら・としひろ)
混合寡占市場における公企業の行動原理や規制改革との関係を分析する。専門は産業組織、公共経済学。経済学博士(東京大学)。東京工業大学大学院社会理工学研究科助教授、東京大学社会科学研究所准教授等を経て、2008年より現職。現在、内閣府「規制改革会議」委員および厚生労働省・国土交通省「「民泊サービス」のあり方に関する検討会」の他、経済産業省のエネルギー関連の数多くの審議会の委員を務める。研究業績はhttp://www.iss.u-tokyo.ac.jp/~matsumur/HPJA.htmlにて公開している。

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民泊に対しどのようなルール作りが必要か。日本社会はどのような対応を迫られるのか。
5 安念潤司 中央大学法科大学院 教授
「行政依存の考え方を問われる試金石」


 民泊をはじめとしたシェアリングエコノミーは、情報技術の発達によって起きたビジネスの変化であり、この流れを元に戻すことはできない。提供されるサービスは、いまのところ、宿泊、輸送、飲食など、至って古典的であるが、組織を背景にもたない「素人」が情報技術を使って参入できるようになったところに革新がある。
 シェアリングエコノミーへの流れは、次の点で日本人の意識に対する非常に大きなチャレンジとなる。それは、自己責任で取引をすることに本当に耐えられるのかが試されているということだ。もはや家主と宿泊客の取引を官庁がすべて把握するのは不可能であり、これまでのような細かい規制を家主に守らせることは現実的ではない。仲介業者が、何万と登録されている宿泊の質を確認することも困難だ。利用者自身が、ネット上での評価をみて自分で解釈し、自己責任で判断しなければいけない。時にはだまされることもあるだろう。だまされたくない人は、安全・安心をお金で買って、信頼のできるホテルに泊まることになる。
 もう一つのチャレンジは、間違いは許されないといった日本のカルチャーを変えられるか、ということだ。失敗がありうるということを前提として、試行錯誤的な規制を日本人が受け入れるかどうかだ。これまでのような失敗に対して不寛容な文化は、シェアリングエコノミーを推進していく上で致命的となる。
 設備基準や本人確認など、課すべき規制はもちろんあるが、規制が一〇〇%守られているかを官庁が日常的に確認することは期待できない。周りの人が苦情を述べ立てたときに踏み込める根拠が規制にあるというように考え方を変える必要がある。民泊をめぐる規制のあり方は、行政に依存する日本人の姿勢を変えられるかどうかの試金石ともなるだろう。
 すなわち、これまでのように日本人で固まっていたときの快適さはなくなるだろう。それが嫌なら鎖国するしかないが、それは日本の衰退を意味するのではないか。規制はすべきだが、一〇〇%完璧なものは望めないと割り切って始める以外はないだろう。

安念潤司(あんねん・じゅんじ)
日本の国際競争力を高めるには、異質なものを取り入れ、多様性に富む社会を、規制緩和で実現すべきと主張。弁護士。専門は公法、経済法。東京大学法学部卒業後、北海道大学法学部助教授、成蹊大学大学院法務研究科教授等を経て、2007年より現職。現在、内閣府「規制改革会議」委員および政府IT総合戦略本部「情報通信技術(IT)の利活用に関する制度整備検討会」主査を務める。著書に『論点 日本国憲法―憲法を学ぶための基礎知識』〔共著〕(東京法令出版、2010年)他。

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E-mail:info@nira.or.jp

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