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わたしの構想

岐路に立つユニバーサルサービス

わたしの構想No.17 2015/11発行
識者:北村 亘(大阪大学大学院法学研究科 教授)、矢作 弘(龍谷大学政策学部 教授)、川本裕子(早稲田大学大学院ファイナンス研究科 教授)、松村敏弘(東京大学社会科学研究所 教授)、中川雅之(日本大学経済学部 教授)                           *原稿掲載順
企画:神田 玲子 (NIRA理事)

岐路に立つユニバーサルサービス
全国津々浦々に一律の公共サービスを提供するユニバーサルサービスが岐路に立たされている。人口減少に直面する地域で過疎化が進み、従来のようなサービス維持のためのコスト増が無視できなくなっている。今後も過疎地域や限界集落の増加が予想される中で、ユニバーサルサービスはどうあるべきなのか。

 小冊子PDF      英文版PDF

 企画に当たって
「岐路に立つユニバーサルサービス」 神田 玲子(NIRA理事)


 識者に問う
「人口減少時代においてユニバーサルサービスはどうあるべきか」

人口減少時代に突入し、過疎化が進む地域では、ユニバーサルサービスの提供が困難になってきている。
ユニバーサルサービスの維持を今後、どう考えていくべきか。
コスト面あるいはサービス面で、地域住民の暮らしにどのような影響を与えるか。
都市政策、地方自治、企業ガバナンス、産業組織、都市経済学の学識者に、考えを聞いた。

*以下、記事中の敬称は略


1 北村 亘「行政は、まずは止血戦に取り組め

2 矢作 弘「都市圏での費用負担の議論を

3 川本裕子「3つの視点でサービスのあり方を再考せよ

4 松村敏弘「コンパクトシティの発想と一緒に考える

5 中川雅之「負担と便益の比較衡量を

               インタビュー実施 :2015年9 ~10月
               聞き手:豊田奈穂(NIRA主任研究員)、
                   川本茉莉(NIRA研究コーディネーター・アシスタント)
               編 集:原田和義

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 企画に当たって
「岐路に立つユニバーサルサービス」 神田玲子(NIRA理事)


 ユニバ―サルサービスとは、生活を送る上で不可欠な電気、郵便、水道、通信といった生活インフラを国民1人ひとりに保障することをいう。公営事業体や民間の公益事業体に法律でサービスの供給が義務付けられている。
 しかし、近年、人口増加から減少へと大きく環境が変化する中で、その維持が困難となっている地域もある。例えば、郵便局は全国全ての市町村に設置され、1日1回の配達や銀行窓口業務を行うこととなっているが、その地域に住む人の数が減れば、収益が圧迫される。拡大した赤字は、最終的には国民が負担することになる。
 人口減少時代に突入した今、ユニバーサルサービスを維持すべきかどうか。この問いに対する本号の識者の答えは、おおむね一致している。どこに住んでいても、ユニバーサルサービスが提供されることを当然とみなすのは見直されるべきという意見である。見直しに向けた具体的な方策は、事業体のコストを明らかにする、都市間で行政サービスの費用を再配分する、サービスを供給できない区域を周知するなどと異なるが、いずれもサービスの維持が困難な地域が早急に取り組むべき重要な課題だ。
 安定した生活インフラの整備は、日本の地域経済を支える強みであった。ユニバーサルサービスを見直すというと、その強みを失うのではないかと懸念する向きもあるかもしれない。しかし、従前のサービス水準を維持すればよいということではない。国民生活の質や企業活動を支えていくためには、サービスの質を上げていくことが公益事業体に求められている。そのためには、都道府県や市町村が中心となって、効率的なサービス供給のあり方を見直し、コストを負担していくための方策について地域の住民や事業体とともに取り組んでいく必要がある。

神田玲子(かんだ・れいこ)
NIRA理事。内閣府経済社会総合研究所 上席主任研究官等を経て、現職。NIRA研究調査部長を兼務。



 識者が読者に推薦する1冊 (推薦図書リストはこちらから)

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1 行政は、まずは止血戦に取り組め
北村 亘 大阪大学大学院法学研究科 教授


 日本では国民がどこに住んでいても、同じように行政サービスを受けられる。しかし、少子高齢化と人口減少が同時進行する中で、今のまま供給していくことは困難である。現在、政府は地方創生のための計画を描いているが、行政と民間との協働で夢を実現する話と、嫌だが行政だけで実行すべき話は分けて考えるべきである。
 まずは、行政が、自分たちにしかできない止血戦、ないしは撤退戦ともいうべきものに取り組むべきだ。地域の利害に左右されない都道府県が中心となって、都市計画に合わせて均一なサービスを提供する地域を限定する。また、それ以外の地域は行政サービスが提供できない「行政困難地域」として設定することも視野に入れなければならない。
 今後、10軒程度しか残っていないような限界集落全てに小粒な総花的なインフラ対策をやっている余力はなくなる。そのような集落に住んでいる人には、もう少し利便性の高いところに集まってもらうよう世帯移動を促す。その上で、里山機能の維持が必要であるならば、コミュニティバスを運行させて通ってもらえばよい。居住の自由を認めてよいが、そのときは、リスクを覚悟し、自己責任を原則とすべきだ。
 地域活性化のような夢のある話を構想するのは楽しい。しかし、困難でも行政にしかできないことから目を背けてはならない。

北村 亘 (きたむら・わたる)
地方自治のあり方や中央と地方政府の関係を研究。政令指定都市など大都市の抱える社会構造的な課題について分析し、大阪都構想についても数多く言及。
法学博士(京都大学)。専門は行政学、地方自治、英国政治。甲南大学法学部助教授、大阪市立大学大学院法学研究科准教授等を経て、2013年より現職。
著書に『政令指定都市―百万都市から都構想へ』(中公新書、2013)ほか。

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2 都市圏での費用負担の議論を
矢作 弘 龍谷大学政策学部 教授


 これまで、都市間競争の中で自治体はフルセット型のユニバーサルサービスの提供を競ってきた。各都市は、隣の都市と同じような総合病院や文化施設を造った。それらが使われない無駄な施設であっても、経済が成長している時代には行政の中で消化することが可能だった。
 ところが過疎地域を中心に人口減少に直面し、自治体の財政基盤も脆弱(ぜいじゃく)化していく中で、もはやフルセット型のユニバーサルサービスを維持していくことは難しくなっている。競争から連携・協働へ発想を転換して、サービス提供のあり方を考え直していかねばならない。これからは、個々の自治体が競い合って行政サービスを所有するのではなく、個々の自治体が集まった都市圏の中で協働し共有(シェア)していく必要に迫られている。
 そのため都市機能を階層化させ、行政サービスを都市間で再配分していくことで、都市圏域内での集約型構造を構築していく。買い回りのできる商店街や特定機能病院などの高度な都市機能を中心都市に集約させ、自治体が集まった広域連合のようなものを考えていく必要がある。
 そうなれば、費用負担の構造も変わるので都市圏の自治の形も見直していく必要がある。中心都市は集積による便益を得ることになるため、自治体の税財政や行政事務の役割分担に合わせて、都市圏の中でどのように便益と費用負担を再分配すべきかという議論も必要となる。政府内部で都市機能をコンパクトに集約していく話は議論されているが、負担に関しての議論はほとんどなされていないのは問題だ。

矢作 弘 (やはぎ・ひろし)
国内外の多くの都市を訪れた経験を持ち、都市政策に精通する。都市が大きくなることを良いこととする成長神話から転換を図り、「小さく、賢く、成長」を遂げることの重要性を指摘する。
ジャーナリスト。社会環境科学博士(金沢大学)。専門は都市計画、都市政策。横浜市立大学商学部卒業後、日本経済新聞社編集局記者、同社ロサンゼルス支局長、大阪市立大学大学院創造都市研究科教授等を経て、2011年より現職。
著書に『「都市縮小」の時代』(角川oneテーマ21、2009)ほか。

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3 3つの視点でサービスのあり方を再考せよ
川本裕子 早稲田大学大学院ファイナンス研究科 教授


 今の日本では、どの場所・地域でもアクセスできるユニバーサルサービスは当然のものだと考えられている。国民の地域的な平等性の観念は強力で、権利を主張する声が強く、供給企業が「便乗」する道具にしている印象さえある。
 従って、ユニバーサルサービスのあり方については、本当に当然の権利なのか、以下の3つのポイントから考え直す必要があると思う。
 まず、ユニバーサルサービス自体の定義・範囲の問題だ。ユニバーサルサービスは、国や時代、人によっても異なるはずだ。人口減少が進む今の日本だからこそ、見直すべきではないか。国民的な議論により、サービスのあり方を原点から見直すことが大切である。
 第2に、サービスを提供するコストについての客観的な精査が必要だ。コスト・ベネフィットの比較をきちんと示し、税金や公共料金で負担してでも供給すべきか、という議論をもっとしなければいけない。制度の「透明度」を高めることにより、国民の理解も高まるはずだ。
 第3に、新しいサービスの形を考えるべきである。ITを活用すれば、よりコストが低くて利便性の高いサービスを提供することも可能である。例えば、奥深い山村に毎日郵便を届けるより、スカイプで会話をできるようにした方が安価で緊密なコミュニケーションが取れのではないだろうか。「高齢者にはITは向かない」といった固定的な前提は捨て去るべきだ。もっと視野を広げ、むしろユニバーサルサービスだからこそ、率先してイノベーションによって質を高めていく気概を持つべきだろう。


川本裕子 (かわもと・ゆうこ)
金融機関の経営、企業のガバナンスなどを研究。金融機関・証券・保険・商社・製造業・海外メディア企業等の社外役員や、金融審議会委員や国家公安委員などの政府委員を務めてきている。
東京大学文学部社会心理学科卒業、オックスフォード大学大学院修士(開発経済学)修了。東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)、マッキンゼー東京支社、同パリ支社勤務を経て、2004年より現職。
近書に『金融機関マネジメント―バンカーのための経営戦略論』(東洋経済新報社、2015)。

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4 コンパクトシティの発想と一緒に考える
松村敏弘 東京大学社会科学研究所 教授


 ユニバーサルサービスはもともと、全国どこにでもサービスを提供するという民間企業の宣伝文句として始まった。これが基本的人権との関連で、国民が最低限どこに住んでいても受けられるべきサービスという考え方に変わってきた。しかし、これからの人口減少社会においては、従来水準のサービスを日本全国で維持するのは不可能であることは多くの人が認識しているはず。
 そこでまず、最低限のサービス内容やその供給コストを踏まえた上で、「全国一律に低廉な料金で」という発想がそもそも正しいのかどうか見直す必要がある。供給するユニバーサルサービスの内容や料金について、全国一律ではなく、地域の実情が分かっている自治体がサービスの内容や料金を選択することがあってもよい。例えば、見守りサービスを供給するために光ファイバーを優先し、他のサービスは諦めるといった、メリハリをつけることは可能。
 また、巨額なコストが伴うサービスを放置することはできないので、サービスの供給地域についても再考が必要。コンパクトシティの発想で、都道府県の中で拠点となる地域や市の中心区域に移り住んでもらうことを誘導する。実際に人が移住するには相当な時間がかかるから、今からプランを提示していく必要がある。住み慣れた土地からの移住を促すために、国や自治体が、試しに移り住むための住居を用意するのも一案ではないか。
 それ以外の場所に住むことを禁止はしないが、住むのであれば、ある程度のサービスは断念してもらわざるを得ない時代が来ると思う。

松村敏弘 (まつむら・としひろ)
混合寡占市場における公企業の行動原理や規制改革との関係を分析する。特に電力市場の自由化においては、消費者が責任を持って自由にエネルギー・電源を選択できることが理想であると主張。
経済学博士(東京大学)。専門は産業組織、公共経済学。東京工業大学大学院社会理工学研究科助教授、東京大学社会科学研究所准教授等を経て、2008年より現職。電力政策に関する政府委員を数多く務める。
研究業績はhttp://www.iss.u-tokyo.ac.jp/~matsumur/HPJA.htmlにて公開している。

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5 負担と便益の比較衡量を
中川雅之 日本大学経済学部 教授


 ユニバーサルサービスはどの地域に住んでいても、国民は最低限のサービスを受け取る「憲法上の権利」と考えられている。しかし、こうした権利も、無限定な価値が保障されているわけではない。例えば富士山の頂上でも平地と同様のサービスを受けられるというわけではないはずだ。基本的には費用と便益の計算に基づいた合理的な判断で公共サービスを供給してきたし、これからもそうであるべきだ。
 問題は、日本の地域は人口減少や限界集落といった問題に直面したため、ユニバーサルサービスを取り巻く状況が一変し、政府は新たな対応を取る必要に迫られていることだ。政府は、まず、従来どおりのサービス供給の維持を続けると、経済全体の効率性を低下させることを国民に説明する必要がある。次の段階で、ある地域でサービスの維持費用が一定の限度を超えたら、維持不可能であると宣言すべきである。さらに、実際に費用が便益を上回った段階で、サービスの供給をやめ、受益者にサービス可能地域への移住を求めることが必要になってくるだろう。非常に困難な作業だが、国民の期待を中長期的に実施可能なものに寄り添わせることは避けられない。
 将来の人口減少や限界集落は予測可能な事象である。十分な時間的余裕を与えた中で、人口が減少すればサービスの供給が困難な地域となることを知りながら、その地に住んでいる人の分まで負担する必要はあるのか。回避できたのに回避しなかった地域に対して、全体の効率性を下げるにもかかわらず再分配を行うことは、「かわいそうだから」というような理屈抜きの感情論だ。

中川雅之 (なかがわ・まさゆき)
住宅政策、不動産市場を専門とする。都市の縮退が進む時代には居住移動を容易にする政策が必要であり、中古不動産市場の流動性を高めることが不可欠と指摘する。
経済学博士(大阪大学)。専門は都市経済学。京都大学経済学部卒業後、建設省に入省、大阪大学社会経済研究所助教授等を経て、2004年より現職。現在、一般社団法人日米不動産協力機構代表理事を兼務。
著書に『公共経済学と都市政策』(日本評論社、2008)ほか。

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 識者が読者に推薦する1冊(推薦図書リストはこちらから)

北村 亘 氏
増田寛也(編著)〔2014〕『地方消滅―東京一極集中が招く人口急減』中公新書

矢作 弘 氏
矢作 弘 〔2014〕『縮小都市の挑戦』岩波新書

川本裕子 氏
田中直毅・国際公共政策研究センター 〔2012〕『政権交代はなぜダメだったのか―甦る構造改革』東洋経済新報社

松村敏弘 氏
依田高典〔2001〕『ネットワーク・エコノミクス』日本評論社

中川雅之 氏
Edward Glaeser 〔2011〕Triumph of the City: How Our Greatest Invention Makes Us Richer, Smarter, Greener, Healthier, and Happier, Penguin Press
(エドワード・グレイザー 〔2012〕『都市は人類最高の発明である』山形浩生訳、NTT出版)

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