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わたしの構想

金融大変革、FinTech

わたしの構想No.15 2015/09発行
識者:エレナ・ワイズ(ペイパル・ジャパン カントリーマネージャー)、古閑由佳 (ヤフー株式会社 決済金融カンパニープロデュース本部長)、岩下直行(日本銀行金融機構局 金融高度化センター長)、太田 純(三井住友銀行 取締役兼専務執行役員)、森下哲朗(上智大学法科大学院 教授)
                                     *原稿掲載順
企画:翁百合 (NIRA理事)

金融大変革、FinTech
金融サービスとIT技術を融合させた「FinTech(フィンテック)」の興隆が著しい。欧米の金融業界では、革新的な技術を活用した新サービスが次々に生まれている。翻って、この分野で出遅れ気味の日本は、金融の高い公共性を踏まえつつ、新たな潮流への対応が求められている。国内でフィンテック普及に向けた課題は何か。

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 企画に当たって
  「金融大変革、FinTech」  翁 百合(NIRA理事)


 識者に問う
「わが国のFinTech発展のために、何をすべきか」

IT技術の活用により、金融サービスはドラスチックな変革を迎えている。
FinTech(フィンテック)はわれわれの生活や金融をどう変えるのか。
日本がフィンテックを発展させていくための課題は何か。
フィンテックによる金融サービスの草分けとされる米ベンチャー企業、近年金融に新規参入したIT企業、日本のメガバンク、日本銀行、金融法の学識者に、考えを聞いた。

*以下、記事中の敬称は略

1 エレナ・ワイズ「モバイルが金融史上 最大の変化をもたらす
 
2 古閑由佳「技術による安全・安心と、さらなる付加価値

3 岩下直行「金融機関こそフィンテックに学んで挑戦を
 
4 太田 純「本丸のBtoBで革新を起こす

5 森下哲朗「産官学の協力、技術と法の対話が重要

インタビュー実施 :2015年6~8月
聞き手:林 祐司(NIRA研究コーディネーター)
編集:原田和義

 識者が読者に推薦する1冊 (推薦図書リストはこちらから)

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 企画に当たって
「金融大変革、FinTech」  翁 百合(NIRA 理事)


 「今後のわれわれのライバルはグーグルやフェイスブックになる」と発言したのは、米国大手JPモルガンチェース銀行CEOジェイミー・ダイモン氏である(2014年5月)。全世界的なスマートフォン等の普及によるモバイルペイメント・サービスや、インターネット上の個人間資金仲介ビジネス(PtoPレンディング)などが海外では急成長を遂げている。新ビジネスにはグーグル、ペイパルなど、数多くの新たな担い手が参入して新サービスを競っており、伝統的な決済等の担い手であったはずの銀行が、フィンテックの進展に大きな危機感を持ちつつあるのだ。
 欧米では銀行も、自前主義の限界を悟り、IT企業への出資などオープンイノベーションを積極化、バーチャルモールなどの電子商取引ビジネスの提供、スマートフォンなどマルチデバイスによる決済ビジネス等に既に取り組んでいる。
 これに対して日本では、例えば楽天グループがバーチャルモールを展開、傘下の銀行を活用して金融ビジネスを提供し、ヤフーなど非金融事業者も積極的にビジネスを展開する等の動きがあるが、その規模はまだ限定的であるほか、伝統的銀行の対応もこれからであり、環境整備の必要性が議論されている。
 そこで今回は、フィンテックを主導してきた内外の事業者、研究者、そしてメガバンクの幹部の方々にお話をうかがった。識者に共通するのは、技術革新の動きは非常に速く、金融ビジネスは大変革時代に入ったという認識である。人々のニーズに合った金融サービスを広げていくには、セキュリティー技術をさらに発展させ、安全性に配慮することに 加え、技術革新のスピードに対応できる柔軟な規制体系が必要となりそうだ。フィンテックは、多様な担い手からさまざまなサービスが競争的に提供されることにより、金融業の概念を大きく変え、われわれのライフスタイルを便利に変える可能性を秘めた動きといえ、関心を持って今後を見守りたい。

翁 百合(おきな・ゆり)
NIRA理事。日本総合研究所副理事長。京都大学博士(経済学)。 専門は金融、財政等。最近は医療分野にも関心を寄せている。

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1 モバイルが金融史上 最大の変化をもたらす
   エレナ・ワイズ ペイパル・ジャパン カントリーマネージャー


 FinTech(フィンテック)の先駆けとして、当社ペイペルはモバイル機器を利用したオンラインでの決済サービスを提供してきた。当社のシステムが世界中で利用されている大きな理由の1つは、信頼性である。顧客がものを購入する際に店側にカード情報を渡す必要がなく、そこからの情報漏えいを防ぐことができる。また、カスタマーサポートや不正取引の監視を充実させて、顧客の信頼を高めている。
 日本は詐欺や不正への警戒心が強い。そのため、現金決済がまだ根強い社会であり、クレジットカードも米国や韓国より低い利用率にとどまっている。こうした日本でフィンテックがさらに普及するには、電子決済への信頼性を高めることがカギとなる。ユーザーが快適に信頼して使えるサービスを提供することが、フィンテックのサービスの基本である。
 電子決済への信頼性が確保されれば、金融サービス業界には今後3~5年に、過去20~30年で起きた以上の変化があるだろう。金融サービス史上で最大の変化を、モバイル機器がけん引すると考えている。ペイパルの提供する決済サービスのうち、モバイルの割合はこの5年で1%から30%にまで急伸した。世界で72億台の端末が使われているモバイル機器は、すでに人々の生活や仕事、経済に大きなインパクトを及ぼしつつあり、強大な破壊者となっている。「Uber」や「AirBnB」など、伝統的な業界を脅かしているベンチャー企業は、すべてモバイルがベースとなっている。決済に おいてもモバイルを用いたものへと移行していくと考えている。お金はデジタル化され、物体としての財布は消滅していくだろう。

エレナ・ワイズ (Elena Wise)
オンライン決済サービスの草分けで、世界最大級のビジネスを展開するペイパルの日本総括リーダー。ペイパルは2015年7月にeベイと分社、さらなる成長が期待されている。
Australian Graduate School of Management 経営学修士。アメリカン・エキスプレス社に10 年以上在籍、主にアジア太平洋地域・日本におけるBtoB分野のヴァイス・プレジデントを務めた。その後、ペイパル・オーストラリアでのマーチャント・サービス責任者を経て、2013年より現職。

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2 技術による安全・安心と、さらなる付加価値
   古閑由佳 ヤフー株式会社 決済金融カンパニープロデュース本部長


 決済サービスといえば、以前は主に銀行やカード会社が行うものであったが、現在はさまざまなプレーヤーが行っている。例えば、当社のオークションサービス「ヤフオク!」でも、出品者と落札者が直接、お互いの個人情報をやりとりすることなく簡単にカード決済できる仕組みがある。また、Yahoo! JAPAN上だけでなく、他のサイトでも利用可能な決済サービスも提供している。
 決済の仕組みの裏側はユーザーからは見えにくい。例えば、スマホで有料のアプリを購入する場面で、その決済の裏側の仕組みがどうなっているかを意識することはあまりない。とすると、銀行やカード会社への信頼により担保されていた「安全・安心」は、今後はフィンテックの「テック」の部分によって実現されることが期待される。
 実際のところ、テクノロジーを駆使すれば、セキュリティー面を強化することは可能である。例えばIoTでさまざまなものがインターネットに接続することで、日常生活の行動履歴データを取得できるようになる。このライフログを活用し、不正なものとそうでないもののパターンを解析することにより不正検知を向上することもできる。
 この技術は不正検知だけでなく、融資の際に、より早くて簡単な与信審査を可能にしたり、現在は一部の投資家のみに寄り添っている手厚い「プライベートサービス」と類似のサービスをより多くの人に提供することも可能にしたり、といったことも考えられる。
 「安全・安心」を確保しながら、さらにいかなる「付加価値」をつけるかがこれからの決済や金融のカギだ。

古閑由佳 (こが・ゆか)
ヤフー株式会社で、決済・金融・IDサービスの企画を行う部門を率いる。
慶應義塾大学法学部法律学科卒。東京エレクトロン株式会社入社、法務部に勤務。2002年ヤフー株式会社に移り、法務本部長、社長室コーポレート政策企画本部長等を経て、2015年より現職。東日本大震災では、Yahoo! JAPAN上で公式避難場所名簿検索サービスや写真保存プロジェクトの企画等に従事。現在、金融庁「決済業務等の高度化に関するワーキング ・グループ」委員。

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3 金融機関こそフィンテックに学んで挑戦を
   岩下直行 日本銀行金融機構局 金融高度化センター長


 フィンテックとは、ITベンチャー企業による金融分野における新しいソリューションのことだ。インターネットを活用したBtoCのサービスを中心に、新しいビジネスモデルが次々と生み出されている。これらの新たなビジネスと伝統的な金融機関とで大きく異なるのは、IT投資の考え方だ。
 これまで金融機関が構築してきた電算センターや通信回線、端末機器等の情報システムは、自前の「特注品」であり、構築と維持管理に巨額のコストが必要だった。法律に基づいて業界共通のサービスが提供され、安全で安定して稼働することが最重要と考えられてきた。その分、情報化社会が到来して利用者のニーズが変化しても、それにタイムリーに対応できていなかった面がある。
 これに対し、フィンテックでは、利用者の端末とインターネット上の資源を活用し、極めて安価にビジネスを立ち上げている。だから、制度や慣行にとらわれず、ベンチャー企業がさまざまな新しいアイデアを試すことが可能なのだ。そうした試行がすべて成功するわけではないが、そのなかから従来では考えつかなかった斬新な技術革新が生まれ、広く普及し、大きな変化が起こる可能性もある。
 もちろん、一国の経済を支える金融システムの安全性と安定性は維持していかなければならない。しかし、利用者ニーズに応えていくことを考えれば、むしろ伝統的な金融機関こそ、興隆するフィンテックの実態を危機感をもって学び、自らもイノベーションに挑戦していかねばならない。両者が協力し合いながら顧客サービスをより充実させていくことが強く望まれている。

岩下直行 (いわした・なおゆき)
金融機関のリスク管理・経営管理の高度化の支援を行う日銀金融高度化センターの長。利便性・セキュリティー・コストを見極めつつ、戦略的にITを活用した将来の金融像を探る。
慶應義塾大学経済学部卒。日本銀行入行。日銀金融研究所で金融分野の情報セキュリティー技術の研究に従事。同研究所・情報技術研究センター長、下関支店長、日立製作所情報・通信システム社(出向)を経て、決済機構局参事役。2014年より現職。
下関支店長時代の著書に『ナゾと推論 長州、馬関発』(山口新聞社、2011年)。

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4 本丸のBtoBで革新を起こす
   太田 純 三井住友銀行 取締役兼専務執行役員


 邦銀がフィンテックで後れをとっているのには幾つか理由がある。1つには、これまで銀行口座を厳格に管理し、堅牢(けんろう)で安全な決済のシステムを構築することで社会のインフラを担ってきた反面、お客さまの利便性を高める発想に欠けていたためだ。さらに「銀行法」で業務が限定され、新ビジネスを創造しにくい環境だったことも一因だ。
 この先も、ボリュームが大きいBtoB決済こそが銀行業務の本丸である。フィンテックの主戦場は現時点ではBtoCだが、この分野の国内年間決済額がせいぜい300兆円であるのに対し、BtoBは1000兆円規模にも及ぶ。BtoBの分野で堅牢かつ利便性の高いシステムを構築していかないと、世界での競争に勝ち目はない。
 われわれの役割は、これまで培ってきた安全性を高めると共に、より便利なプラットフォームに進化させ、高度な決済サービスをお客さまである企業に提供することだ。フィンテックの発展によって、銀行口座が消滅するわけではない。それに、利便性だけが先行して安全性・安定性が損なわれるのは問題となろう。スマホで1万円送るのは良いが、10億円を送るのはちょっと怖いというのが現実だろう。
 最近、当行がシリコンバレーのベンチャー支援企業とパートナーシップ契約を結んだのも、オープンイノベーションによってさまざまな人の知恵を借り、新しい商品・サービスを生み出していきたいからだ。新技術を駆使した商品やサービスは銀行のリソースだけでは生まれない。最先端の金融技術の目利き力を高めて、いずれ企業内ベンチャーのような形で事業化していくのが理想だ。

太田 純 (おおた・じゅん)
三井住友銀行で、決済ビジネスの強化部門を長年担当。同行は、フィンテックへの取組を積極的に進めている。京都大学法学部卒。住友銀行入行。三井住友銀行ストラクチャードファイナンス営業部長、投資銀行統括部長、常務執行役員、トランザクション・ビジネス本部担当役員、専務執行役員等を経て、2015年4月より現職。三井住友フィナンシャルグループ取締役を兼務。

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5 産官学の協力、技術と法の対話が重要
   森下哲朗 上智大学法科大学院 教授


 フィンテックの普及は、伝統的な銀行がこれまで占めてきた地位を変容させる可能性がある。テクノロジーの活用によって金融取引の在り方が変革しうる分野は決済にとどまらず、融資、運用、証券、アドバイス業務等あらゆる分野に及ぶ。金融監督へのテクノロジーの活用も考えられる。
 フィンテックのインパクトの大きさに鑑み、各国で積極的な取組がなされている。例えば、最近イギリスで公表されたリポートでは、イギリスがフィンテックの発展で世界をリードするというビジョンを掲げて、そのためにも、起こりうるリスクとリターンとのバランスをとりながら、政府・企業・研究者が協力していくことが重要だと指摘している。日本も産官学が協力して取り組んでいくことが重要であり、アクションプランの策定や諸課題の解決に向けた協議・協力の場を設けるべきだろう。ある程度失敗を恐れずに果敢に挑戦することも必要である。
 フィンテックは金融に関するルールの在り方にもさまざまな課題を投げかける。実務家や学者が力を合わせて、スピード感をもって議論を深める必要がある。テクノロジーはものすごい速さで進化しており、5年もたてば次々と新技術が生み出されている。この急速な変化に対応していくためには、細かなルールを作るよりも、実現すべき結果をプリンシ プル・ベースで押さえることが適当だ。過剰な規制を避ける一方、守るべきものは守り、リスクに応じたルールやエンフォースメントの在り方を考えるためには、ルールの形成に携わる者と技術やビジネスの発展に携わる者との対話が従来以上に親密に行われることが重要だ。

森下哲朗 (もりした・てつお)
金融法分野での私法と公法の調和、国際取引法の体系化等の研究に従事。大学教育ではコンペティションによる交渉力向上の取組を実践。専門は国際取引法、金融法、交渉学。
東京大学法学部卒業後、住友銀行入行。法務部で国際法務等を担当。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。上智大学法学部助教授を経て、2007年より現職。現在、金融庁「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」座長。著書に『マテリアルズ国際取引法 第3版』〔共著〕(有斐閣、2014年)ほか。

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 識者が読者に推薦する1冊(推薦図書リストはこちらから)

エレナ・ワイズ氏
Jim Collins・Jerry I. Porras〔1994〕Built to Last: Successful Habits of Visionary Companies, Harper Business
(ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス〔1995〕『ビジョナリー・カンパニー』山岡洋一訳、日経BP社)

古閑由佳氏
Thomas H. Davenport〔2014〕Big Data at Work : Dispelling the Myths, Uncovering the Opportunities, Harvard Business School Publishing Corporation
(トーマス・H・ダベンポート〔 2014〕『データ・アナリティクス3.0』 小林啓倫訳、日経BP社)

岩下直行氏
木下信行〔2015〕『決済から金融を考える』KINZAIバリュー叢書

太田 純氏
前野隆司(編著)〔2014〕『システム×デザイン思考で世界を変える』日経BP社

森下哲朗氏
岩原紳作〔2003〕『電子決済と法』有斐閣

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