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わたしの構想

人工知能の近未来

わたしの構想No.14 2015/08発行
識者:新井紀子(国立情報学研究所 社会共有知研究センター長)、小林雅一 (KDDI総研 リサーチフェロー)、松尾 豊(東京大学大学院工学系研究科 准教授)、塚本昌彦(神戸大学大学院工学研究科 教授)、佐倉 統(東京大学大学院 情報学環長)               *原稿掲載順
企画:神田玲子 (NIRA理事)

人工知能の近未来
人工知能(Artificial Intelligence, AI)をめぐる研究開発で、近年、劇的な成果が生まれている。人間の頭脳を模したAI研究で重要な技術が開発され、大きな壁を越えたとされる。いずれは人間を超えるともされるAI。進化を続けるAIに人間はどう向き合えばよいのか。

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 識者に問う
さまざまな分野でのAIの実用化は、人間を支援するのみならず、人間の活動を奪うことにもなる。
今後5~10年で、われわれの生活・社会はどう変わるのか。
AIの進化は人間にとって福音か、それとも脅威となるのか。備えるべき課題とは何か。
人工知能やウェアラブルコンピューターの研究開発者、IT産業の調査研究者、科学技術論の研究者に、展望を聞いた。

*以下、記事中の敬称は略

1 新井紀子「ロボットに代替されるホワイトカラー」 

2 小林雅一「巨大プロジェクトより個人の能力を養え

3 松尾 豊「AI開発競争で日本にも勝算ある」 

4 塚本昌彦「ウェアラブルを通じて人間の知能の強化を

5 佐倉 統「既に逆転は起きている

インタビュー実施 :2015年5~6月
聞き手:公文俊平(NIRA上席客員研究員/多摩大学情報社会学研究所所長)
編集:原田和義

 識者が読者に推薦する1冊 (推薦図書リストはこちらから)

 企画に当たって
  「人工知能の近未来」  神田玲子(NIRA理事)

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 1 ロボットに代替されるホワイトカラー
    新井紀子 国立情報学研究所 社会共有知研究センター長


 「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトで、2年にわたり人工知能(AI)を備えたロボットに模擬試験を受けさせたところ、偏差値が各科目で50くらいになり、人間の最頻値を超えた。世界史や日本史など暗記によるものは比較的成績がよく、うまく科目を選ぶと「私立大学の8割に合格可能性80%」という結果が出た。
 偏差値53へ到達するのは予想の範囲内。ホワイトカラーの職が将来、ロボットに代替されるとしても3割程度で済むかもしれない。偏差値が将来55を超えるのか、60近くになるかで近未来の社会は違ってくる。いずれにせよ、大企業は2つの道を迫られる。1つは雇用を守り国際競争力を失うか。もう1つはその業態のボリュームゾーンの雇用を人工知能で中抜きするかだ。後者の場合、総務や財務管理などのコストを圧縮できる。
 教育費をかけても人間に求められる創造性が上がらず、人工知能に代替される職業にしか就けないとなれば、高等教育への家庭の投資が控えられ、進学率低下を招く恐れもある。この国をAIの進化に合わせどうデザインしていくか。
 人工知能の先鋭的な方法論であるディープラーニングは、統計の主成分分析のようなもので、意味理解までは到達しえない。ロボットの偏差値が上がっても、人間の能力を超える合理的な判断をできるようになるとは到底思えない。未来の予測はできず、かえってリスクが高まる面もある。AIに何が可能で、何ができないのか。その本質を見ながら、国として多様性を確保してリスクを小さくするためのデザインが問われている。

新井紀子 (あらい・のりこ)
人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」ディレクター。人工知能技術の進歩による人間の未来を考察する。小中高生向けの数学教育にも長年情熱を注ぐ。専門は数理論理学、情報科学、数学教育。
一橋大学法学部卒業後、イリノイ大学数学科博士課程修了。理学博士。国立情報学研究所教授等を経て、2008年より現職。教育機関・公共機関向け情報共有基盤システム「NetCommons」の開発なども手掛ける。
著書に『ロボットは東大に入れるか』(イースト・プレス、2014年)ほか。

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 2 巨大プロジェクトより個人の能力を養え
    小林雅一 KDDI総研 リサーチフェロー


 1950年代に始まった人工知能の研究は、初期の方法が限界にぶち当たり、1980年代終盤から「AIの冬」と呼ばれる停滞期に入った。しかし、2006年ごろから脳科学の成果を本格的に導入することで復活。例えば「ディープラーニング」と呼ばれる手法が開発され、「画像・音声認識」などAIの基盤技術が飛躍的な発達を遂げた。
 人工知能の搭載により、既存の製品が知性を帯びた新たな製品に生まれ変わる。これによる産業へのインパクトは計り知れない。成熟し停滞していた産業が再び活性化されるからだ。期待される産業分野は多岐にわたる。既に実用化されたものとしては、お掃除ロボットやスマートTV、スマホの仮想アシスタントなど。今後は自動運転車やドローン(無人機)、介護用ロボットなどにAIが搭載される。
 そうした中、日本の大学や企業などは2006年に始まるディープラーニングのチャンスを見逃した。今、人工知能専門の研究所を設立するなど、大急ぎでキャッチアップを図り始めたところだ。が、単に表向きの体裁を整えるだけでは、税金の無駄遣いに終わってしまう。多額の予算を費やした研究所や巨大プロジェクトよりも、個々の研究者が広い視野と確かな見識を養うことの方が先決だ。
 また人工知能にはネガティブな面があることも忘れてはならない。例えばミサイルのような兵器にAIを搭載すれば、今後は人に代わって兵器自体が標的を定めるようになる。これは既に実用化が迫っている。国連が禁止条約を作成しようとしているが、実質的な拘束力はない。私たち1人1人が常日頃からウォッチし、歯止めをかけるしかない。

小林雅一 (こばやし・まさかず)
先端科学やIT関連の調査研究に従事。特にIT産業の方向を見定める先見性、その見識に基づく日本企業への提言には定評がある。
東京大学理学部卒、同大学院修士課程了。東芝、日経BP、読売アメリカ、慶応義塾大学メディア・コミュニケーション研究所非常勤講師などを経て、2006年より現職。情報セキュリティ大学院大学客員准教授を兼務。
著書に『AIの衝撃-人工知能は人類の敵か』(講談社現代新書、2015年)、『クラウドからAIへ』(朝日新書、2013年)ほか。

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 3 AI開発競争で日本にも勝算ある
    松尾 豊 東京大学大学院工学系研究科 准教授


 人工知能が人間の脅威になるという議論があるが、AIは人間社会を構成する要素の1つであり、本来的に人間社会の「サブシステム性」を持っている。つまり、目的を定めれば、目的に従いうまい方法を実現するのがAIだ。人工知能は人間社会の中で道具として使われるが、決して人間がそれに使われる構図にはならない。AIが人間の頭脳レベルを超えるとしても、「AIがAIを作り出す」というシンギュラリティ(技術的特異点)のシナリオは考えにくい。
 今の状況は、95年のインターネット出現時に似ており、近い将来、人工知能の世界でも新しいキープレーヤーやプラットフォーマーが生まれてくるだろう。それを正しく早く予見することが必要だ。画像認識など単一の技術が圧倒的によくなれば、産業界のあちこちで油田が吹き出すような現象が生まれると思う。
 少子高齢化を迎えた日本には明るい材料が少ないが、人工知能は生産性を上げる切り札となり、産業競争力を再び高める可能性がある。労働力が豊富な国よりも、さらに日本ではニーズが高いはずだ。AIは非常に大きい産業力になるので、日本もこの戦いに勝ちにいかねばならない。
 日本の学会会員数は約3千人(国際的学会で5千人)程度と比較的多く、人工知能の場合アルゴリズムなので言葉はハンディとならない。さらにディープラーニングという最新のAI技術を「実装」した新世代の技術者を育成すれば2年程度で追いつける。日本にチャンスとなるプラス材料はかなりあり、きちんと対応していけば勝算はある。AIによる未来社会を描き実現させることが必要だ。

松尾 豊 (まつお・ゆたか)
第一線の人工知能研究者。ディープラーニングをはじめとする新しい人工知能技術で大きなブレークスルーを生み出すことを目指す。専門はWebマイニング、ビッグデータ分析、人工知能。
東京大学大学院工学系研究科電子情報工学博士課程修了。博士(工学)。産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学 CSLI 客員研究員等を経て、2007年より現職。人工知能学会倫理委員会委員長。
著書に『東大准教授に教わる「人工知能って、そんなことまでできるんですか?」』〔共著〕(KADOKAWA/中経出版、2014年)ほか。

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 4 ウェアラブルを通じて人間の知能の強化を
    塚本昌彦 神戸大学大学院工学研究科 教授


 5年先を考えると、身体に装着したウェアラブル端末を皆が使い、ネットに接続して各種の情報を得たり、人間の情報をコンピューターに蓄積・解析したりできるようになるだろう。従来のように部屋にこもり端末操作をするのではなく、もっと外に出て実空間で健康的に活動し、より便利で豊かな生活が実現する。現在のスマホ以上に、われわれはそ れに依存した生活を送るようになるのではないか。
 人工知能はその中でふんだんに使われるようになるはずであり、ウェアラブルからクラウドに蓄積された情報を解析するのに非常に有用である。またウェアラブルがAIにより、実生活で真に役立ち、人々をより賢くサポートできるようになることも大切だ。
 人工知能は、人間とは独立な存在として単にサーバー上で成長させるだけではなく、ウェアラブルを通して人間の頭脳の支配下に置けるようにしながら成長させることに意味がある。今後急激に賢くなるAIに対して人類もそれを支配下に置くことで賢くなれるのならば、逆に人類がAIに支配されてしまうことに、ある程度抵抗できるのではないだろうか。ただ、ウェアラブルを装着しているかどうかで、人の対等性が失われたり、プライバシーを危うくする点には留意する必要があるだろう。
 現在、コンピューターは人間の感情的・発想的・直観的なことも十分計算でき、もう少しで人工知能は人の能力を追い越しそうなレベルだと感じる。何かの拍子でAIが悪意を持つ可能性もある。だから、今後起こりうる問題を想定して、ウェアラブルの使い方を考えていくことが大切だ。あくまで人間の脳の支配下でAIを使えるような、テクノロジーの強化が必要だろう。

塚本昌彦 (つかもと・まさひこ)
ウェアラブルコンピューティング等を中心に、次世代のコンピューターのあり方をシステムや応用など様々な側面から研究。2001年より日常的にウェアラブルコンピューターを装着、「ウェアラブルの伝道師」の異名を持つ。
京都大学大学院工学研究科修了。シャープで通信システム研究開発に従事後、大阪大学大学院情報科学研究科助教授、神戸大学工学部教授等を経て、2007年より現職。NPO法人ウェアラブルコンピュータ研究開発機構理事長を兼務。
著書に『モバイルコンピューティング』(岩波書店、2000年)ほか。

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 5 既に逆転は起きている
    佐倉 統 東京大学大学院 情報学環長


 人工知能に今までとはケタの違う第3の進化の波が来ている。将棋ではAIが既に人間に勝ち、囲碁も遠からず勝ちそうだ。従来は人間が得意な分野と機械が得意な分野の間で補完的な共生関係を作ることが大事だったが、今では機械が自分で「何を学習するか」を決めることが可能になり、人間と機械の領域の切り分けが難しくなった。
 そこで考えるべきなのは、機械が人間を超え、人工知能が人間を凌駕(りょうが)するというのが、そもそもどういう状態かということだ。人間の力を超える技術は珍しくない。自動車は人より速く走れ、飛行機は空を飛べる。計算機の速さや正確さは圧倒的だ。人類は常に人工物を使って発展してきた。法律や国家やいろいろな制度も広い意味での人工物だ。AIだけを特別視して身構えたりせず、ほどほど仲良くやっていけばよいのではないか。
 人工知能が人間の能力を超える可能性はあるだろう。それを避けるほうが無理な話で、フィジカルな部分ではもうそうした逆転は起きている。過去からの技術全体の変化の1つの帰結と考えるべきだが、それを直ちに「人類と敵対的な関係になる」という前提で考える必要はない。産業革命など過去の時代からの教訓を導き出せるはずだ。
 ただ人工知能には些細(ささい)な手違いで大事故が偶然起こるリスクがある。一番良くないのは、人間が「何をしたいのか」という価値観や将来展望が明確でないまま、技術に流されたり、逆に技術を拒絶したりすることだ。人間と機械の関係について社会全体でコンセンサスを作るよう考えていくべきだ。

佐倉 統 (さくら・おさむ)
現代社会と科学技術の関係を探求。進化生物学の理論を軸足に、生物学史、科学技術論、科学コミュニケーション論等を幅広く射程に収める。専門は進化生態情報学。
京都大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。三菱化成生命科学研究所、横浜国立大学経営学部助教授、東京大学大学院情報学環教授等を経て、2015年より現職。1995-96年ドイツ・フライブルク大学情報社会研究所客員研究員。
著書に『人と「機械」をつなぐデザイン』〔編著〕(東京大学出版会、2015年)ほか。

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 識者が読者に推薦する1冊(推薦図書リストはこちらから)

新井紀子氏
新井紀子〔2010〕『コンピュータが仕事を奪う』日本経済新聞出版社

小林雅一氏
ちきりん〔2015〕『マーケット感覚を身につけよう―「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法』ダイヤモンド社

松尾 豊氏
松尾 豊 〔2015〕『人工知能は人間を超えるか―ディープラーニングの先にあるもの』角川EPUB選書

塚本昌彦氏
塚本昌彦・他13名〔2014〕「《特集》人類とICTの未来:シンギュラリティまで30年?」『情報処理』Vol.56 No.1 pp.2-48

佐倉 統氏
Kevin Kelly〔2010〕What Technology Wants, Viking Penguin
(ケヴィン・ケリー 〔2014〕 『テクニウム―テクノロジーはどこへ向かうのか?』 服部桂訳、みすず書房)

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 企画に当たって
  「人工知能の近未来」  神田玲子(NIRA 理事)


 最近、ソフトバンクのペッパーが数分で完売したことが話題を呼んだ。ロボット掃除機のルンバ、介護ロボット、自動運転技術などに人工知能は組み込まれ、すでに身近な生活の中に入り込んできている。
 人工知能がブームとなったことはこれまでも何度かあるが、いずれも一過性のもので終わっている。その後のインターネット出現やコンピューターの処理速度の向上により、大量なデータを使った機械学習や脳科学の成果を取り入れたディープラーニングが実現し、技術の壁を越えたことが、今回の大きな期待につながっている。さらに、近い将来 (2045年に)AIが人知を超えるのではないか、という点が国際的な議論を巻き起こしている。
 これまでのところ、人工知能が人間を凌駕することが新しい時代の始まりであるという楽観的な見方と、人類の終焉だという悲観的な見方が交錯している。今回登壇いただいた識者の多くは、どちらかといと、冷静な受け止め方をしているようである。そもそも、AIに本能がない限り人間を超える存在にはならないという見解もある。しかし、そうした見方を前提としても、AIが産業や社会に与える影響は衝撃的なものであり、AIの進展に社会が備えるべきだという点では一致している。
 なお、人工知能はNIRAの研究テーマの1つであり、今回は、研究リーダーである公文俊平多摩大学教授に聞き手をお願いした。ご自身は、2つの人工知能のシナリオを提示している。詳しくは、先月公表したオピニオンペーパーNo.17をご覧いただきたい。

神田 玲子( かんだ・れいこ)
NIRA理事。内閣府経済社会総合研究所 上席主任研究官等を経て、現職。NIRA研究調査部長を兼務。

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※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。
E-mail:info@nira.or.jp

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