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わたしの構想

日中関係を問う

わたしの構想No.11 2015/05発行
識者:北岡伸一(国際大学 学長)、ロデリック・マクファーカー (ハーバード大学政治学部 教授)、津上俊哉(津上工作室 代表)、エズラ・ヴォーゲル(ハーバード大学 名誉教授)、
川島 真(東京大学大学院総合文化研究科 教授)                 *原稿掲載順

 戦後70周年。戦前と戦後の歴史を踏まえ、日本がいかに世界と向き合うかを改めて問い直す節目の年でもある。とりわけ、すでに大国化し、膨張をつづける中国を前提にすると、日本はこれからの日中関係をどう捉えていくべきか。日本の対中姿勢が問われている。


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 識者に問う
 「中国にどう向き合うべきか」
 経済的にも政治・軍事的にも膨張傾向を示し、アメリカとの間に「新型大国関係」を唱える中国。
存在感を増す中国に対し、わが国は今後どう向き合えばよいのか。
現代中国の政治・経済や、日中の外交問題にくわしい日米の識者に考えを聞いた。

*以下、記事中の敬称は略

1 北岡 伸一         「ヘッジ&エンゲージの姿勢で対話継続を

2 ロデリック・マクファーカー 「中国を国際システムに加える努力必要

3 津上 俊哉          「中国の等身像を正しく認識せよ

4 エズラ・ヴォーゲル     「戦時中の非を認め、戦後の「平和貢献」説明を

5 川島  真         「日本が特異な立場にあることを自覚せよ

インタビュー実施:2015年2~3月
聞き手:西山 裕也(NIRA主任研究員)、 森 直子(NIRA研究コーディネーター)
編集:原田 和義

 識者が読者に推薦する1冊 (推薦図書リストはこちらから)

 企画に当たって
  「日中関係を問う」

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 1 ヘッジ&エンゲージの姿勢で対話継続を
    北岡伸一 国際大学 学長


 中国の膨張は日本のみならず、世界史的な重要性を持つ。これほどの大国がこんなに急速に台頭した例はほとんどない。日本が中国にどう向き合うかは、世界と協調しながら衆知を集めて考えるべきだが、中国を敵視するのではなく、世界のより良いプレーヤーとして迎え入れることが必要だ。
 そのためには、日米同盟および自主防衛の強化、中国との関係改善、各国との関係構築のすべてが重要で、要はバランスだ。特に、対中国との関係で必要なのは「ヘッジ(防護)&エンゲージ(関与)」だ。中国が脅威にならないようエンゲージする一方で、脅威に備えてヘッジし警戒を怠らない。基本はそれに尽きる。安倍首相が進める首脳外交はどこでも好評だが、各国の理解をさらに広げることが大切だ。中国を説得するネットワークをつくりつつ、経済的にも政治的にも中国との関係を改善して連携を強化していく。
 同時に、粘り強い「歴史対話」の継続が重要である。歴史認識問題では、中国は侵略を認めていない国があるというが、日本はこれまでも侵略の事実は何度も認めており、「日中歴史共同研究」にも書かれている。また、戦後一貫して平和に貢献している。事実でないことには譲歩すべきではない。しっかり「ノー」と言う。ただし無用な挑発は避け、友好的に話す。うそは言わない。
 歴史を正しく知ることは、日中間の相互理解を深め、隣国の尊敬すべき点をお互いが認め、教え合うことにもつながる。それぞれの立場を両論で併記する本の発行も有効ではないか。そうした取組が、ユネスコ憲章で謳われている「心の中の平和のとりで」を築くことになる。

北岡 伸一(きたおか・しんいち)
広く現代政治・外交に関する論評を精力的に行い、安倍政権の対外政策を助言している。2006-08年「日中歴史共同研究委員会」では日本側座長を務めた。専門は日本政治外交史。
東京大学博士(法学)。東京大学法学部教授、国連大使等を経て、2012年より現職。奈良県立大学理事長、政策研究大学院大学特別教授を兼務。「安全保障と防衛力に関する懇談会」座長、「21世紀構想懇談会」座長代理、ほか公職多数。
著書に『自民党―政権党の38年』(中公文庫、2008年)ほか。

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 2 中国を国際システムに加える努力必要
    ロデリック・マクファーカー ハーバード大学政治学部 教授


 米国は2016年に大統領選を迎えるが、民主党のクリントン氏か共和党候補のどちらが選ばれたとしても、米政府は中国の軍事力増強を主な理由に、軍事力の強化や近代化を続けるだろう。米国の戦略アナリストは、中国を米国の潜在的な敵対者と、ある種の問題では、見なしており、中国がアジアの周辺海域で海洋進出を突き進めている中で、アジア地域の同盟国や友好国をがっかりさせてはならないことを、米政府は十分に認識している。
 これまでも、米政府は同盟国に対して、自国の防衛について自ら重要な役割を果たすよう求めており、日本の自衛力強化についても歓迎するだろう。しかし、重要な点は、日本の防衛力の強化が、独自路線をいくものではなく、同盟関係の強化を意図したものであると、日本自身が強調することである。そうでなければ、それは米政府や中国政府を困惑させることになり、逆効果になりかねない。
 今後、日本は日米関係を強化して、中国を国際社会システムに組み入れる努力を続けるべきである。とはいえ、それは現政権の中国ではより困難であることも明らかになりつつある。そこで日本は、インドやインドネシア、東南アジアの国々などアジア諸国との関係を強固にする必要がある。安倍首相はそのための行動を続けているが、その際、大切なのは、単に日本が「経済的な利益」を追求するためではなく、それらの国々と真に「理解と親交」を深めるための努力をしていると受け止められるようにすることだ。青年海外協力隊の活動を広げ、アジアの人々が、理想を抱く日本の若者たちに触れるようにすることもできるだろう。

ロデリック・マクファーカー (Roderick MacFarquhar)
中国現代史をジャーナリズムとアカデミズムの両面から追及。文化大革命と中国政治に関する考察は高く評価されている。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス博士(政治学)。英テレグラフ紙、BBC等で活躍すると同時期に、研究活動も開始。『チャイナ・クォータリー』創設編集者。ジョン・キング・フェアバンク東アジア研究センター長等を経て、現職。1970年代後半に英国下院議員(労働党)も務めた。
著作多数。邦訳書に『毛沢東 最後の革命』〔共著〕朝倉和子訳(青灯社、2010年)。

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 3 中国の等身像を正しく認識せよ
    津上俊哉 津上工作室 代表


 中国の高成長がまだまだ続くという期待は錯覚だった。習近平体制は、高成長の軌道修正に強い危機感で臨んでおり、中国はこの2年半で随分変わったが、日本側は依然として、過度に肥大化した対中国観と過度に膨らんだ警戒感を軌道修正できずにいる。
 中国イメージの膨張は、金融危機からいち早く回復し、世界経済のけん引役となった2009年ごろから生まれた。中国国民も、中国が世界一の経済大国になる日も近いと信じ、心理的なユーフォリアが生まれた。
 しかし、2年ほど前から、中国は厳しい投資バブルの後遺症に悩んでいる。急ブレーキを踏むとマイナス成長に陥り、中国の体制が揺らぎかねないが、ブレーキの踏み方が弱いとバランスシート破綻の懸念もある。細い崖の上をどちらにも落ちないように進む状況である。しかも、あと10年たつと労働力人口が毎年700~800万人ずつ減り、成長力はかなり削(そ)がれる。
 中国指導層は体制存続を最優先にして、過去の対外強硬姿勢も軌道修正したい考えだが、この数年で膨張した国民の自尊心も傷つけたくない。AIIBはその自尊心をハードパワーでなく経済大国外交で満足させようとする苦肉の策だとも見ることができる。
 高成長の幻想のつき物が落ちるにはまだ時間が必要だ。しばらくは軍拡の勢いも衰えないため、東アジアの安全保障環境は不安定な時期が続くことが予想される。日中両国には、幻想と現実が乖離(かいり)する不安定な時期を通過するための知恵と努力が求められる。

津上 俊哉 (つがみ・としや)
現代中国研究家・コンサルタント。経済を中心に現代中国の実像を広範に考察。中国経済への辛口の評で知られるが、同時に「崩壊論」も排する。政治面では、感情論を抑えて相手を正確に理解する「クールヘッド・ウォームハート」が信条。
東京大学法学部卒。在中国日本大使館参事官、経済産業省北東アジア課長、経済産業研究所上席研究員等を経て、2012年より現職。
著書に『中国台頭の終焉』(日経プレミア新書、2013年)、『中国停滞の核心』(文春新書、2014年)ほか。

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 4 戦時中の非を認め、戦後の「平和貢献」説明を
    エズラ・ヴォーゲル ハーバード大学 名誉教授


 70年の終戦記念日の談話では、まずは、日本が戦後の平和貢献に尽力してきた事実と、今後もそれを継続する方針であることを説明すべきだ。戦後、日本は平和のために多大な貢献をしてきた。特に、国連への拠出や、中国や韓国に対する経済援助も十分に行った。また、天安門事件後に多くの国が中国に制裁を課したが、日本はあまり課さなかったという事実はもっと中国で周知されてよい。
 歴史問題では、第2次大戦中に「日本は悪いことをした」とはっきり謝るのがよい。何万人などといった数字は、歴史家の検証に任せ、慰安婦問題や南京事件については事実と認める。むしろ、政府は、大戦のことを日本の国民にしっかり説明するという姿勢を示すほうが、戦後の平和的な日本をアピールできる。例えば、中国の博物館を訪ね、日本に大戦の博物館をつくってもよいだろう。
 そして、安倍首相は、国のために命を尽くして亡くなった人や遺族に感謝する必要がある。これは戦争がよいという意味ではない。
 以上が、談話に対する私の考えだ。また、昨今の中国の軍事的な行動に対しては、日本は、自分の国を守る必要があり、中国が日本をたたくと日本の世論に強い印象を与える、と中国に伝え、中国の行動を注意深く見守っていく。そして、アジア各国とは、政治・経済・文化交流などあらゆる分野で関係強化を目指し、中国とも平和的に協力していくべきだ。経済界などが日中交流に努めているが、こうした動きをさまざまな面で強めていくとよい。

エズラ・ヴォーゲル (Ezra F. Vogel)
東アジア研究の世界的権威。日本の高成長の要因を分析した『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(1979年)は、当時内外で日本の経済・社会制度が評価されるきっかけとなる。執筆に10年以上を費やし2013年出版された『現代中国の父 鄧小平』は各賞を受賞、世界の注目を集めた。
ハーバード大学博士(社会学)。ハーバード大学教授、同大東アジア研究所所長を経て、現職。日本語や中国語に堪能。今回のインタビューも日本語で行われた。

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 5 日本が特異な立場にあることを自覚せよ
    川島 真 東京大学大学院総合文化研究科 教授


 G7の中で、対中国への態度が厳しい日本だけが孤立しがちだ。日本は、米国と組みながらヘッジとエンゲージの両面からの外交を進めているが、国際社会の共感を得ることが難しいことを、自覚すべきだ。
 中国は戦略的に外交姿勢を使い分けている。ウクライナ、ISなどのグローバルな問題では、中国は欧米と基本的に協調しており、争うつもりもない。このため、地理的に離れているヨーロッパでは、中国への脅威の実感は生まれにくい。他方、米国は、南シナ海などで中国をヘッジしようとするが、中国との経済関係をチャンスと見なしている。米国からすれば、米中関係の改善と日米同盟の強化を同時に目指すことは当然であり、日本とは歩調が合わないこともある。
 東アジア諸国の中には、中国と領土問題を抱え、対中感情が悪い国もあるが、経済面で中国に依存し、安全保障面でも中国に対抗できない国が多い。つまり、日本に共感しても、日本ほどの対抗力はなく、同じ行動がとれないこともあろう。
 以上のように、G7でも、東アジアでも特異な立場にある日本は、自分の立場を他国に理解してもらうにはどうすればよいかを見極めねばならない。相手が、日本や中国をどう見ているのか、相手が何に困っているのかを個別に踏まえた上で、日本の立場を説得的に説明すべきだ。
 もはや、世界第2の経済大国になった中国との対話抜きで、東アジアの繁栄や安定を考えるのは難しい。日本と中国とはライバル関係で国民感情も悪化しているが、国民相互は相手を重要と見なしている。共通の利害を見いだし、新しいスタイルの協調関係を築くのが次の時代だ。

川島 真 (かわしま・しん)
国際社会における中国外交のあり方を歴史的視野から研究。日本外交のあり方にも積極的に提言を行う。専門は中国近現代史、アジア政治外交史。
東京大学博士(文学)。北海道大学法学部助教授、東京大学大学院総合文化研究科准教授等を経て、2015年より現職。日本現代中国学会理事長、内閣府国家安全保障局顧問、「21世紀構想懇談会」委員、ほか公職多数。
著書に『中国近代外交の形成』(名古屋大学出版会、2004年)ほか。

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 識者が読者に推薦する1冊 (推薦図書リストはこちらから)

北岡 伸一 氏
北岡伸一〔2010〕『グローバルプレイヤーとしての日本』NTT出版

ロデリック・マクファーカー 氏
Aaron L. Friedberg〔2011〕A Contest for Supremacy: China, America, and the Struggle for Mastery in Asia, W.W.Norton & Co.,Inc.
(アーロン・L・フリードバーグ〔2013〕『支配への競争―米中対立の構図とアジアの将来』佐橋 亮 監訳、日本評論社)

津上 俊哉 氏
津上俊哉〔2015〕『巨龍の苦闘―中国、GDP世界一位の幻想』角川新書

エズラ・ヴォーゲル 氏
*日中関係に関する著書を現在執筆中。

川島 真 氏
川島 真 編著〔2015〕『チャイナ・リスク』岩波書店

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 企画に当たって
  「日中関係を問う」


 2015年は戦後70周年である。この節目にあたり、今夏には安倍首相により新たな首相談話が発表される予定である。戦前と戦後の歴史を踏まえて、日本がいかに世界と向き合うかに関心が集まっている。そこでは、戦後外交の基軸である日米同盟については、今後も強化する方向で語られるにちがいない。
 問題は今後日本がアジアとどう向き合うか、とりわけ巨大化する中国にどう向き合うかである。もちろんこの問いについては、複雑な問題を数多く抱える中国が、今後内外政策ともにいかなる方向に進むのかが明確でなければ不透明な部分がある。しかしすでに大国化し、アメリカとの間で「新型大国関係」を唱え、経済的にも政治・軍事的にも膨張傾向にある中国の基本的な方向性は変わらないであろう。現在の中国の内外情況を前提としたうえで、今後日本は中国にどう向き合えばよいのであろうか。
 中国の脅威に備えて、日本はアメリカのパワーの相対的低下を前提に自主防衛策を最大限に強化すべきか、世界的に中国包囲網を形成するような外交努力を不断に展開すべきか、中国の巨大化を所与のものとして、経済的のみならず政治的にも関係を改善してより連携を強化すべきか、それとも従来通り、日米同盟を強化して中国を国際システムに取り込むよう引き続き努力すべきか、等々。これらについてはすでに国民的議論となっているが、戦後70年の今年に改めて問い直したいテーマである。
 こうした問いに日米の5人の著名な識者が明快な解答を寄せて下さった。ほとんどの識者が脅威に備えたヘッジ(防護)と、国際システムへの参入を促すエンゲージ(関与)の両面から中国に対応すべきだと考えているが、現体制の中国では国際システムに融合する可能性が低いのではないかとの見方もある。短い文章の中に、中国問題を究めた泰斗たちの思いが凝縮されており、中国との向き合い方に関する多くのヒントが散りばめられている。



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