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わたしの構想

脱・停滞へのイノベーション

わたしの構想No.7 2015/1発行
金出武雄(カーネギーメロン大学ワイタカー記念全学教授)、 金丸恭文(フューチャーアーキテクト株式会社 代表取締役会長兼社長、 NIRA代表理事)、 國井秀子(芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科 教授)、 木川 眞(ヤマトホールディングス株式会社 代表取締役社長)、 山村俊夫(三井物産株式会社 理事・コンシューマーサービス事業本部長補佐)             *原稿掲載順

 青色発光ダイオード(LED)の発明で、日本人物理学者3人が2014年のノーベル物理学賞を受賞し、しばし明るい話題に包まれた。しかし現在の日本はイノベーションが全体に停滞しているとされ、日本経済も「失われた20年」以来の長期停滞から脱却したとは言い難い。日本が着実な成長軌道に乗るために必要なイノベーションとはどのようなものか。



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 識者に問う
 「イノベーティブな日本にするために何が必要か」
 日本が長期停滞から脱し、着実な成長軌道に乗るために必要なイノベーションとはどのようなものか。
そうしたイノベーションを実現させる方策とは何か。
 科学政策に深く関わる研究者、人工知能研究の世界的権威、また、IT・流通・医療の各分野におけるイノベーティブな事業展開に評価の高い企業人に話を聞いた。

*以下、記事中の敬称は略

1 金出 武雄 「人材育成こそイノベーションへの近道

2 金丸 恭文 「社会をフラットな構造に変えよ

3 國井 秀子 「ICTによる社会変革に照準を合わせよ

4 木川 眞  「日本の逆境を逆手にとれ

5 山村 俊夫 「新たな価値創造に向けて「サービスイノベーション」を起こせ

インタビュー実施:2014年10~12月
聞き手:森 直子(NIRA研究コーディネーター)

 識者が読者に推薦する1冊 (推薦図書リストはこちらから)

 企画に当たって
  「脱・停滞へのイノベーション」 神田玲子(NIRA理事)

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 1 人材育成こそイノベーションへの近道
    金出武雄 カーネギーメロン大学ワイタカー記念全学教授


 イノベーションは、「解いて価値のある問題」を見つけて解くことだ。「価値」のなかで重要なものは経済的なインパクトであり、日本経済の停滞からの脱却につながる。
  グーグルやフェイスブックなどの仕組みは画期的なアイデアである。普通の発想ならサービスを受けるユーザーが対価を支払うが、ユーザー側は無料でアカウントをもらい、サービス提供者がネットワークの管理者であるヤフーやグーグルにお金を支払う。一番便益を受ける消費者からお金をとらないという仕組みが、実は経済的に巨大なインパクトを持つ(もうかる)ことに気づいた。これが「解いて価値のある問題」を見つけた例ということだ。
  こうしたイノベーションには、「社会や人間の生活に何が必要なのか」を見抜く観察力、その課題が解けて価値あるように具体的な問題設定をする洞察力、そして、それを解く知力が必要だ。例えば日本には、高齢化社会、災害、教育などの課題が山積している。これらの課題を解いて利用するための法則、解き方を見つけ出さねば、イノベーションにはならない。
  イノベーションを生むための魔法のような特効薬はない。最も大切なのは、人材と教育だ。子どもの時から地道に問題解決の習慣を培う。価値ある問題を自分で見つけ、解いて、喜びを感じることを経験させる。大学生にも地域のローカルなビジネスの課題を具体的に解かせる。20年かかるが、回り道のようで、これが一番の近道なのだ。20年もたてば世の中をリードする世代は変わる。そのときのために熱意と信念を持って人材育成にのぞむことが大切だ。

金出 武雄 (かなで・たけお)
ロボット工学・画像認識の世界的権威。折り紙理論、Eye Visionや自動走行車など日米で独創的な研究を行う。米国大学の研究所トップとして、日本の科学技術政策に国際的視野で提言。
京都大学大学院博士課程修了(工学博士)。同大助教授の後、カーネギーメロン大ロボット研究所に移籍、現在にいたる。この間、1999―2001年同研究所所長、2006―2012年生活の質工学研究センター長。フランクリンメダル・バウアー賞など受賞多数。
著書に『岩波講座 ロボット学〈1〉ロボット学創成』〔共著〕(岩波書店、2004年)ほか。

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 2 社会をフラットな構造に変えよ
    金丸 恭文 フューチャーアーキテクト株式会社 代表取締役会長兼社長、NIRA代表理事


  イノベーションというのは、危機感から生まれるか、あるいは、自由から生まれるかのどちらかだ。日本でそれが起きにくいのは、企業組織に過去肯定型、過去の延長線型が多いからだ。これでは、イノベーションを起こすマインドも低く、リスクテイクする人が出てきにくい。
  IT業界で起きているイノベーションは、ちょっとしたアイデアの組み合わせから生まれている。例えば、アマゾンは、コンピューター業界で起きたイノベーションを自社のビジネスモデルの中に組み込み、本とインターネットと物流を組み合わせた。小さなひらめきが、ダイナミックなビジネスモデルの転換につながった例だろう。
  イノベーターは若者たちであるべきだが、日本では有能な人は大企業に就職してしまう。大企業に入れば当初は未熟者扱いだから、経験を積んでいる間に発想も徐々に陳腐化してしまう。そんな社会を変えるには、実績重視を廃して、若手企業家が大企業と取引できるように、フラットな構造の社会にすることが必要だ。
  ヒューレット・パッカードの最初のビッグユーザーはウォルト・ディズニーだ。ビル・ゲイツも駆け出しの頃、すでにIBMと取引していた。企業階層の下にある下請け企業で本当に仕事をしている人が、階層のトップ企業と対等に結びつくことができるようにする。技術を提供する側もお金を支払う側も対等であるべきだ。発注者側がお金を払うから偉いなんていう価値観は世界では通用しない。リスクをとって仕事をしている人が正当に評価され、適正な報酬を受け取れるようにすればよい。

金丸 恭文 (かねまる・やすふみ)
 1989年にストラテジー実現型ITコンサルティングのフューチャーシステムコンサルティング(現フューチャーアーキテクト)を設立。顧客の未来価値を最大化させることをミッションとするIT業界で唯一無二の存在。技術志向のプロフェッショナル集団を率いる。
神戸大学工学部卒。公職として、現在、内閣府規制改革会議委員、同会議農業WG座長、産業競争力会議議員、経済同友会副代表幹事などを務める。

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 3 ICTによる社会変革に照準を合わせよ
    國井 秀子 芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科 教授


  イノベーションとは、技術革新のみならず、いろいろなものの新しい結合により、社会的に意味ある新しい価値を生むことである。飛躍的に成長したグーグルやアマゾンは、そういうイノベーションを起こしている。世界が変貌したこの20年でいえば、ICTを利活用して、いかに新しい価値を生み出すか、さらにユーザーからのフィードバックを迅速に次の変革につなげていくのかが問われてきた。
  日本はそこに後れをとった。根底に不足しているのは危機感ではないか。米政府は2004年のパルミサーノ・リポート以来「米国の国際競争力はどこにあるのか」を見直し、ICTの利活用によるイノベーション力向上に向けて国全体で動いた。ドイツでは産学官挙げて「イノベーション4.0」と称する「ものづくり」とICTを融合させた高度技術戦略に取り組み始めた。
  日本にとって、ビジネスと技術の両方がわかる人材の育成が急務だ。経営者の中で、ICTの利活用を自らの課題としてとらえ、そこから新たなビジネスモデルを構築するような当事者意識を持つ人は少ない。また、大学教育にも問題がある。情報科学や情報工学のコアと並行して、実践的な活用技術も教える米国のカリキュラムのようなものがなく、実践力のある技術者が十分育成されていない。学生数の面でも桁違いに少ない。
  加えて、職場環境も大切だ。大きな変革や、ギャップがある新しいものは、多様なものが融合する交差点で生まれる。とっぴな意見やアイデアをぶつけ合える職場や企業風土を、トップが率先して整えるべきだ。

國井 秀子 (くにい・ひでこ)
実業界での研究開発の経験を元に、イノベーションとグローバル化に対応できる大学教育に力を注ぐ。経済産業省日本の「稼ぐ力」創出研究会委員などを歴任し、日本のビジネス創出支援政策やイノベーション政策に関与。
テキサス大学コンピューターサイエンス学科修了(Ph.D.)。株式会社リコーのソフトウエア分野の研究開発責任者、常務執行役員を経て、2013年より現職。
著書に『Conceptual Modeling ‒ ER2001 Lecture Notes in Computer Science No.2224』〔共著〕(Springer-Verlag、2001年)ほか。

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 4 日本の逆境を逆手にとれ
    木川 眞 ヤマトホールディングス株式会社 代表取締役社長


  日本経済が縮小するという逆境を逆手にとる発想が、イノベーションを生み出す。高齢化・過疎化に直面した地域の活性化にどう寄与するか。さらに物流がボーダレスに動く時代を迎え、日本の国際競争力の復活へ何ができるか。これらの課題に対し、物流改革が後押しとなり、国内外でさまざまなイノベーションが生まれる可能性がある。
  日本全国に地域密着型サービスとして定着した「宅急便」のネットワークは、もはや社会インフラの一部だ。自前主義にとどまらず、地方自治体や同業者を含めた地元企業などにネットワークを開放して「オープンプラットホーム化」する。それにより個々の地域に根差した課題から新しい事業領域が生まれる可能性がある。例えば、地方港湾に不足していた梱包・開梱や通関、国際間の調達・納品業務を支援する機能を提供することでその港湾を利用した効率的な物流を実現したり、国際クール宅急便を使い、日本各地の高品質な地方の農水産品を新鮮なまま海外に直送するなどして新規需要を生み出すことで、官と民が混ざる大きなビジネスの流れができる。
  また、アジアの内需が大きくなる中で、サービス業が日本流の質の高いサービスを輸出し、それをアジアのデファクトスタンダード(事実上の標準)にすることも夢ではない。当社は、日本のお客さまの期待に応えることで進化させた「宅急便」の品質を、アジアの標準にすることを目指しており、これはアジアの方々にも支持されると確信している。成功すれば、サービス業のみならず、ものづくりを行う日系企業のアジア進出にも有利に展開するはずだ。

木川 眞 (きがわ・まこと)
物流業界で産業史に残るイノベーションを展開してきたヤマトホールディングスを率いて、日本経済の成長に寄与する新たなイノベーションに挑む。
一橋大学商学部卒。1973年富士銀行(当時)入行。合併後はみずほコーポレート銀行の常務を経て、2005年ヤマト運輸に転じる。同社常務、社長を経て、2011年ヤマトホールディングス社長に就任。
著書に『日経ビジネス経営教室 未来の市場を創り出す』(日経BP社、2013年)。

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 5 新たな価値創造に向けて「サービスイノベーション」を起こせ
    山村 俊夫 三井物産株式会社 理事・コンシューマーサービス事業本部長補佐


  日本では、サービスに価値を見いだす風土が薄い。しかし、サービスが進化していくことによって新しい価値が生まれるという発想が重要だ。高齢化が進む日本では、団塊の世代が75歳になる2025年に向けて、社会の仕組みを変えていかないと、財政が破綻してしまう。それを回避する中で「サービスイノベーション」は必ず生み出されてくる。
  現に、新しい医療機器や医薬品を開発し、高齢者を地域で支える仕組みが生まれつつある。高齢社会における医療・介護サービスの提供体制を“日本モデル”として海外展開すれば、国際貢献とともに日本経済にも活力を与える。
  ヘルスケアは本来、地域密着型サービスだが、各国で行われる予防や治療、予後対応などは基本的に同じ。だからこの分野はとてもグローバルなものだ。アジア域内では自国にない高度なヘルスケアサービスを求めて、シンガポールやインド、タイに向かう動きが加速している。
  これまで日本の医療は世界に対して閉鎖的だったが、独自の高い技術がある。今後、アジア各国のヘルスケアネットワークと連携し、患者や医療従事者が双方向で動くような仕組みができると、新たなヘルスケアネットワークが誕生し、アジアで最大の「医療イノベーション」になってくる。
  規制の垣根を低くすれば、世界的にも優位性を持つ日本の医療や医療周辺産業が、自動車や家電に続き世界をリードする産業になる可能性は高い。異業種がヘルスケア分野へ参入を試みており、これも「産業イノベーション」の一例だろう。総合商社はこれらの分野で「つなぐ機能」をしっかりと果たしていく。

山村 俊夫 (やまむら・としお)
三井物産が新たな価値の創造や強い競争力に向けた成長分野として育成をはかるサービス事業・ヘルスケア事業に長年取り組む。2011年にはアジア最大の民間病院グループIHHヘルスケア社への出資を手掛け、話題を呼ぶ。
1981年三井物産入社。サービス事業部アウトソーシング事業室長、アジア・太平洋三井物産SVP、メディカル・ヘルスケア事業部長、コンシューマーサービス事業本部長補佐等を経て、2014年4月より現職。インドネシア、中国、シンガポールとアジアを中心に海外勤務経験も豊富。

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 識者が読者に推薦する1冊 (推薦図書リストはこちらから)

金出 武雄 氏
金出武雄 〔2012〕『独創はひらめかない―「素人発想、玄人実行」の法則』日本経済新聞出版社

金丸 恭文 氏
Carter Henderson〔1985〕Winners: The Successful Strategies Entrepreneurs Use to Build New Businesses, Holt, Rinehart and Winston
(カーター・ヘンダーソン〔1986〕『ウィナーズ ― アメリカン・ビジネスの勝利者たち』望月和彦訳、阪急コミュニケーションズ)

國井 秀子 氏
Eric Schmidt, Jonathan Rosenberg, with Alan Eagle, foreword by Larry Page〔2014〕How Google Works, Grand Central Publishing
(エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル、ラリー・ペイジ(序文)〔2014〕『How Google Works-私たちの働き方とマネジメント』土方奈美訳、日本経済新聞出版社)

木川 眞 氏
玉村雅敏(編著)・横田浩一・上木原弘修・池本修悟 〔2014〕『ソーシャルインパクト―価値共創(CSV)が企業・ビジネス・働き方を変える』産学社

山村 俊夫 氏
後藤正治 〔2002〕『生体肝移植―京大チームの挑戦』岩波新書

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 企画に当たって
  「脱・停滞へのイノベーション」 神田玲子(NIRA 理事)


 インターネットを軸とした「第4次産業革命」が起きているという。ものづくりからIT技術を中心とした社会経済の変化は、日本の産業構造の仕組みを大きく変えようとしている。
 バブル崩壊以降、日本ではコスト削減に軸足をシフトさせる経営が長期に続いた。その間に経営のスリム化は実現したが、いまだ、新しい展望を切り開けずにいる。プラットホームづくりを得意とする米国IT企業を前に、日本の製造業は部品メーカーになるのではないか。また、人工頭脳の激しい競争に日本が勝ち残る見込みはあるのか。果たして、暗黙知やすり合わせで代表される日本の強みは、産業の新しい波のなかで、これからも強みでありつづけるのか。
 これらへの対応策を見つけることが喫緊の課題だ。かつての近代化の試みと異なるのは、もはやキャッチアップ型の追随は許されないということだ。これからは、21世紀にふさわしい価値を創造するシステムを構築していかなければならない。それは、高度経済成長を支えたシステムの殻を打ち破ることを意味する。
 今回の識者からは、イノベーション経済に移行するための鍵がどこにあるのか、論じていただいた。識者から提示された取組の実現は容易ではないが、現政権が真っ先に取り組むべき課題であることは間違いない。

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※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。
E-mail:info@nira.or.jp

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