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わたしの構想

構想力に科学が挑む

わたしの構想No.1 2013/10発行
三宅なほみ(東京大学大学総合教育研究センター教授)、 築山 節((公財)河野臨床医学研究所北品川クリニック・予防医学センター所長)、 三品和広(神戸大学大学院経営学研究科教授)、 太田 肇(同志社大学大学院総合政策科学研究科教授)、 宮永博史(東京理科大学大学院イノベーション研究科MOT専攻教授)                           *原稿掲載順

 未来を切り拓く画期的なイノベーションを起こす構想力は、どのようにすれば高められるのか。認知心理学、脳科学、経営学などの科学の分野で、解明はどこまで進んでいるのか。本号の識者からは、一人一人が、自分の考えを変える力を養うような対話を行うこと、また、変化のある環境で厳しく脳を鍛えることが必要だとの見解が示された。さらに、組織レベルでは、社外人材の適切な活用、個人の能力や適性を生かして働く仕組みづくり、「点」としての知識や経験を結ぶ習慣づけが重要だとの指摘がなされた。

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 識者に問う
  「日本人の構想力・発想力を高めるためには」

  日本の変革を牽引する力が求められている。構想力や発想力を向上させるためには何が必要か。
  働く場ではどうすればよいのか。認知心理学、脳科学、経営学の第一線で活躍される研究者に聞いた。

                                              *以下、敬称は略

1 三宅 なほみ 「構想力・発想力は『対話』から生まれる」 小冊子版 詳細版

2 築山 節 「脳科学の知見から働き方を考える」 小冊子版 詳細版

3 三品 和広 「発想力のある人材は社外にいる」 小冊子版 詳細版

4 太田 肇 「組織の『分化』に重点を」 小冊子版 詳細版

5 宮永 博史 「ジョブズに学ぶ『点と点を結ぶ』コンセプトづくり」  小冊子版 詳細版

                                     インタビュー実施 :2013年8月
                                     聞き手:斉藤徹史(NIRA主任研究員)

 識者が読者に推薦する1冊 (推薦図書リストはこちらから)

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1 構想力・発想力は「対話」から生まれる
   三宅 なほみ 東京大学大学総合教育研究センター 教授


対話とはクリエイティブな過程である
――構想や発想はどのようにして生まれるのでしょうか。
 私は人と人との対話の中から、それぞれの人にとって新しい構想や発想が生まれると考えている。認知科学の分野で、「人はどういう仕組みで賢くなるのか」といったことを研究してきた。2人以上の人々が問いを共有するなど一定の条件のもとで対話を行うと、人はその中で、それまでもっていた自分の考えを自分で編集して作り変えていく。対話を通して一人一人の自分の考えの見直しの中で統合され、そこにクリエイティブな構想や発想が生まれる。構想力や発想力とは、いろいろな人の違った考えを自分の中で編集して、もともともっていた自分の考えを自ら変えていく力である。

対話の中で、自分の考えを変えていく作用が生まれる
――対話において起きるその作用を、具体的にお聞かせいただけますか。
 例えば、答えを出したい問いを共有している状態で、3人がそれぞれ少しずつ違うことを調べていて、少しずつ違う方向で答えが出せそうだと思っているとしよう。その3人が集まって、それぞれ自分の考えを説明しながら3人の考えを組み合わせてその場で答えを作っていくような活動に従事する。すると、まず各自がその問いに対して自分が考えていたことの内容が、対話を始める前よりも精緻化される。自分ではわかっているつもりのことでも他人に説明してみるとすぐにはわかってくれないから、自分の考えをもっとはっきりさせなければならなくなるからである。そうやって3人がそれぞれ自分の考えをはっきりさせ、それらを整理・統合して、それぞれ自分なりの答えを出し合って行くうちに、一人では到達できなかったであろう「統合された答え」に辿り着く。こうした相互作用の中で、一人一人の意見や考えが変わっていくことを、私は「建設的」と表現している。小学校から大学まで、これまで教師が説明していたことがらを学ぶ側が分担して確認し合い統合して答えを作る過程を促進すると、一人一人が考えながら自分で答えをつくりだしてゆく授業ができる。こういった授業では、自分の新たな考えに満足する学習者の割合も高い。

要約やディベートの技術は、構想力や発想力とは異なるもの
―――文章の要約は構想力や発想力を鍛えますか。
 要約という作業自体は、本人の発想力も構成力も独創力も高めない。要約を作るのに内容を自分なりに考え直す必要はないからである。ディベートも特殊な技術で、自分の考えをゆっくり作り変えるのには向かない。構想や発想には、自分の知識をベースに新たな内容を付け加えて自分の考えを作っていくじっくりしたプロセスが必要だと思う。

働く場でいかすためには
――構想や発想を生むような建設的な対話は働く場でも実現できますか。
 それには、二つの条件が必要である。一つは、参加する人たちがそれぞれ「違う考え」を持っていること。違う考えを対等に扱える関係作りが望ましい。もう一つは、対話を促すための適切な「問い」があること。「会社を活性化するには」、「新商品として何を作るか」といった漠然とした問いよりは、「ノンアルコールビールをどうやって売るか」といった具体的な問いが良い。いろいろな視点から異なる考えを統合して新しい答えを作り出す機運が高まれば、当面の答えが出る。そこにさらに対話を加えていけば、答えの質も高まってゆく。そういう自発的な関係作りの中で、各自が発想力を深めていくのではないか。


三宅 なほみ (みやけ・なほみ)
人が理解・学習する統合的メカニズムや理論を研究。専門は認知心理学。カリフォルニア大学Ph.D.(心理学)。青山学院女子短期大学助教授、中京大学情報理工学部教授などを経て現職。大学発教育支援コンソーシアム推進機構副機構長を兼務。主著に、『教育心理学特論』〔共著〕(放送大学教育振興会、2012年)、『認知科学への招待2』〔編著〕(研究社、2006年)など。

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2 脳科学の知見から働き方を考える
   築山 節 (公財)河野臨床医学研究所北品川クリニック・予防医学センター所長


脳の機能を成長から成熟段階へと高める
――脳科学から見たとき、構想力や発想力を高めるためには、何ができるでしょうか。
 基本的に脳には成長の段階と成熟の段階の2段階があると思う。
 マルコム・グラッドウエル氏の「1万時間の法則」(ある分野に習熟して一流になるためには1万時間の練習が必要という法則)ではないが、10年も努力を続ければ、その分野でプロになる。そうすれば、脳は直観的に本質を見据えた最適な選択や判断を下すことができる。将棋の棋士でも医師でも、プロは「これだ」と最適な一手を直観的に選ぶものだ。ただ、このプロになったという段階は、成長の段階を超えたにすぎない。プロ中のプロとなるためには、その先に果てしない成熟の段階がある。
 そこで障害となるのが、同質性の高い集団に属しているという問題だ。長い間、同質性の高い集団にいると、構想力や発想力が横並びになりかねない。時には自ら求めて変化、異質性に身を置く必要があると思う。脳は環境の変化や異質性に反応して機能するため、変化や異質性に乏しくなると働かなくなることが脳科学では証明されている。つまり、脳はもともとサボるようにできているから、自分を合理化して、いつまでもサボったままでいようとする。
 同質性の高い集団にいると、同じようなことしか考えられなくなるのは、このためだ。だから、脳を動かそうとするためには、状況の変化をつくりだすとよい。他人の異質な考えに触れれば、脳はそれに反応する。新たな会社や環境の変化をうまく使うことができれば、発想はどんどん広がりをもつようになると思う。

転職の経験が脳に変化を与える
――企業で働く人には、何ができるでしょうか。
 最近、40歳定年論も言われているが、成熟の段階の人たちのためには、脳の使い方からみておもしろい考え方だと思う。構想力や発想力を高めるために、時には転職や違う職場も経験してみたらどうだろうか。
 転職すると、脳は今までとは異質な環境や考え方に触れるため、脳が反応して新たな発想が生まれやすい。厳しい環境にあえて身を置く経験は、脳の機能を相当高めるはずだ。
 私自身、脳外科医、病院長、財団法人理事長、クリニック所長と10年ごとに立場を変えてきたが、それぞれフイールドが異なるから、そのときに一所懸命に働けば、培った脳科学の経験・基礎の上に新たな知識と経験が蓄積される。

――最近の人々の働き方をどのようにご覧になっていますか。
 私は産業医として企業を見ているが、海外で働いている人と面談すると、中途採用された人で「この会社にずっと勤めるつもりはない」という人が結構いることに驚く。そして、こういう人たちの中には、常識では考えられないほど豊かな発想を持っている人が多い。
 若い時から様々な経験を積み重ねて、脳を厳しく鍛えれば、脳は活性化する。基本的に知識の積み重ねでは。「読む」、「書く」、「話す」のサイクルを使うことが効果的だ。
 読むことで知識を集め、自分の言葉で書いて情報を脳に定着させる。人に話すことで相手の反応や言葉から新たな知識を得て、自分の情報を体系化させ、「根」を広げていく。
 こうしたことは、漫然と続けるのではなく、自分で厳しい締め切りを設けて限られた時間の中で脳をフル回転させるとよい。耐えて鍛えて、厳しい環境を乗り越えていけば、脳の機能は一層高まっていく。だから、失敗や挫折を恐れずに仕事で脳をフル回転させている人ほど、様々な発想が生まれやすい。その意味では、構想力や発想力は多くの経験を積み上げて年を重ねていく人たちほど豊かになっていくともいえる。


築山 節 (つきやま・たかし)
数多くの臨床経験をもとに脳の活性化について研究。専門は脳神経外科。日本大学大学院医学研究科卒業。医学博士。埼玉県立小児医療センター脳神経外科医長、財団法人河野臨床医学研究所附属第三北品川病院長、同財団理事長を経て現職。主著に、『脳と気持ちの整理術』(NHK出版、2008年)、『脳が冴える15の習慣』(NHK 出版、2006年)など。

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3 「発想力のある人材は社外にいる」
   三品 和広 神戸大学大学院経営学研究科 教授


日本の大企業に構想力や発想力は期待できない
――日本の大企業で発想力や構想力を高める方法はあるでしょうか。
 日本の大企業の多くは、無難な人を採用し、仕事を忠実にこなす人物を社内で選別している。いわば、詰め込み教育を受けた基礎能力の高い人が評価されるともいえる。だから、会社に言われたことを無条件に受け入れがちになる。
 一方、構想力や発想力のある人とは、現状には簡単に満足せず、新しいことを構想する必要性を痛切に感じる人をいうのであろう。世の中を見渡し、「これはおかしい」、「これは変えた方がいい」と痛切に感じる人でもある。
 このような人は、大企業に向いているとはいえないし、逆に大企業の中で無条件に与えられたものを受け入れる人は創造的でもない。大企業に構想力や発想力のある人は見つけにくく、そもそも社員の構想力や創造力を鍛えようというのは大きな誤りだ。

大企業は外部の人材と連携すべきだ
――では、構想力や発想力をどのように高めればよいでしょうか。
 企業に構想力や発想力のある人材がいないとすれば、社外から連れてくればよいのではないか。社外にいる構想力・発想力のある人を、プロジェクト単位で一時的にタイアップするのだ。こうした人にプロジェクトのリーダーになってもらい、予算や人事権をもたせるのである。NTTドコモが松永真理氏や夏野剛氏などを起用して世界初の携帯電話IP接続サービス i-mode を開発した事例や、ヤンマーがフェラーリのデザイナーであった奥山清行氏を迎え、これまでにないデザインをとりいれた農業機械を設計した事例は、外部の人材をうまく使って成功したケースといえるのではないか。ネスレも、企業を渡り歩いた優秀なマーケティング戦略立案者とタイアップし、ネスプレッソの開発によって、「簡単で誰もが楽しめる最高のエスプレッソ」というコンセプトを見事に形にした。
 現在の企業の人事制度や組織の仕組みが、外部にいる能力のある人材との連携を前提にはしていない。こうしたことを実現するためには、今後はそれに相応しく見直すことが必要になるだろう。

「自前で」という思い込みを捨てる
――そうすると、企業は外部との連携をどのように受けとめればよいのでしょうか。
 日本企業の「強み」は、仕事をするときの基礎能力が非常に高く、決めたことを「きちんと行う」実行力の高さにある。品質でも納期でも、決められていることを守る力は、世界的にみてもそうそうあるわけではない。
 外部の人材としても、企業で自分のアイデアが確実に実現されるのであれば、そこに魅力を感じるだろう。このように企業と外部の人材との互いの「強み」をいかすことができれば、企業に構想力や発想力が不足していると悲観的に捉える必要はない。今のトップ層は、社員の中で何でもやろうとしすぎているように思う。自前で発想し構想しようとする思い込みを捨てることが今後の企業の成長の切り札になるだろう。


三品 和広 (みしな・かずひろ)
大企業の詳細データをつかった企業・事業分析を行う。専門は経営戦略、経営者論。ハーバード大学Ph. D.(企業経済学)。ハーバード大学ビジネススクール助教授、北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助教授、神戸大学大学院経営学研究科助教授などを経て現職。主著に、『リ・インベンション』(東洋経済新報社、2013年)、『経営戦略を問いなおす』(ちくま新書、2006年)など。

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4 組織の「分化」に重点を
   太田 肇 同志社大学大学院総合政策科学研究科 教授


ポスト工業化社会での働き方
――構想力や発想力が求められている社会的な背景には何があるのでしょうか。
 時代は、工業化社会からポスト工業化社会へと進みつつあるが、企業はまだそれに対応しきれていない。企業が独創的な人材を選別し育成する、という発想そのものが工業化社会の名残を引き継いでいると思う。ポスト工業化社会では、個人がどのような能力をもつべきか、どんな力を発揮できるかが見えにくい。目指すべきものが見えなければ、企業が個人を評価すること自体が難しいし、既存の価値観で個人を縛ることにもなるだろう。

企業は個人を邪魔するべきではない
――そうすると、ポスト工業化社会で企業は何をすべきでしょうか。
 企業としては、「望ましい仕事のプロセスはこれだ」という正解がないので、個人の仕事の成果で評価せざるを得ない。今までのように、個人が「いかに頑張ったか」といった態度や意欲をみるのではなく、働きが成果につながっているかどうかをみる。
 そのためには、上司が個人の適性や能力を「邪魔しない」ことにつきると思う。個人の適性をいかすために、組織をフラットにして自由な仕事のやり方を認めるようにする。
 そして、日本の組織は、従来、一つの理念に向かって邁進する「統合化」に偏って進んでいたが、これからは、部門も人も、もっと自由に独立させるようにする「分化」に力を入れるべきだ。同じような能力や考え方をもった人々が一緒に仕事をするのではなく、ITなども使いながら、一人一人が個性をもって能力も突出した人々が「異質性を基本にしたチームワーク」をつくることが必要になるだろう。

独りで構想し、独りで企画する
――個人が構想力や発想力を高めるために、企業に何ができるのでしょうか。
 今までの企業は、「みんなで議論した結果、アイデアが生まれた」と議論こそが重要であるかのような言い方をしてきたが、それでは小さなアイデアにとどまるだけだと思う。スケールの大きなアイデアは、職場で議論しているだけでは生まれない。個人が長い時間をかけて「独りで構想し、独りで企画する」ことが不可欠なのだ。じっくり考えたものを意見交換する、これが必要になるだろう。だから、企業としては、個人がじっくり考えることができる職場環境をつくらなければならない。大部屋で顔をつきあわせるようなオフィスのレイアウトになっている企業は多いが、欧米の企業では個室が確保されていたり、大部屋でも個人のスペースがパーテーションで仕切られているから、プライバシーが守られ、仕事に集中できる環境がある。日本の企業のように大部屋で机を並べて働かせているのは例外的で、これで創造的なアイデアが本当に浮かぶのかは疑問だ。
 また、考え抜いた成果が社外で賞を得るなど評価され、それを自分のキャリアにもいかせるように会社が支援し評価する仕組みをつくれば、働く人々のモチベーションは自然に高まると思う。そして、創造性を摘みかねない評価制度も、個人が萎縮しない方法へと見直すことが必要となろう。現在の評価基準は細かすぎ、個人がそれに合わせようとすることが萎縮の原因だ。だから、個人の評価はできるだけシンプルにして、最低限の基準にとどめる。あとは、上司、同僚、顧客などの「評判」で判断すればよい。評判は、多くの人々の評価がそこに入り、しかも、その人の良さを一番よく知っている人の発言力が高くなる。いわば、評判には一種の市場メカニズムのようなものが働いていて、よほど正確だと考えている。


太田 肇 (おおた・はじめ)
個人をいかす組織や社会のあり方について研究。専門は組織論、人事管理論。京都大学経済学博士。国家公務員、地方公務員を経験したのち、三重 大学人文学部助教授、滋賀大学経済学部教授などを経て現職。主著に、『表彰制度』(東洋経済新報社、2013年)、『公務員革命』(ちくま新書、2011年)など。

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5 ジョブズに学ぶ「点と点を結ぶ」コンセプトづくり
   宮永 博史 東京理科大学大学院イノベーション研究科MOT専攻 教授


点と点を結ぶ
――長年にわたって企業を研究されてきた先生からみて、構想力・発想力はどのように生まれるとお考えですか。
 企業が新たなコンセプトつくりに成功するためには、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズもいうように「点と点を結ぶ」といった習慣をつけることが非常に重要だ。アイデアはゼロから生まれるのではなく、既存の要素を新たに組み合わせることで生まれる。シュンペーターも、イノベーションとは新しい結びつきだという。やはり、構想力や発想力の基本はこれなのだろう。
 では、その「点」をどのように蓄積するかだが、ここでは、専門分野の知識に限らず、一見すると役に立つかどうかがわからない一般的な知識や、見過ごしてしまいがちな経験の重要性を強調したい。一般的な知識を蓄えるためには、人文科学、技術分野など大きく分野を4つくらいに分け、さらに各分野の中でテーマを5つくらい決め、この20のテーマについて毎月1冊ずつ本を読むようにするなどの工夫が大切だ。そうすると、視野が広がり、自分の専門分野を補完する新たな発想が可能になる。また、一つ一つの失敗や成功の理由をきちんと分析して調べれば、それも「点」となるのだ。

「想定外」をいかす
――新しい発想をうみだすためには、他にどのような方法がありますか。
 自分たちでは想像していなかった成功や失敗を、いかにいかすかもポイントだろう。つまり、想定外の機会をいかすのである。ノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏の例をみてみよう。田中氏は、重要なタンパク質の質量を分析する装置の開発過程の実験で、本来はアセトンを混ぜるべきであったところ、誤ってグリセリンを混ぜてしまった。しかし、「もったいない」と思い、失敗した試料を使って実験を継続した。さらに、少しでも早く結果を見るため、レーザーを照射して観察を続けた。その結果がノーベル賞での発見につながったのである。「偶然」を捨てずに使い、熱心に観察を続けたことが成功へとつながっている。この「偶然」を捉えて幸運に変える力を「セレンディピティ」と呼ぶ。セレンディピティは、18世紀にイギリスの作家ホーレス・ウォルポールが童話「セレンディップ(セイロン)の三王子」をもとに使い始めた言葉である。
 これを引き寄せる力は、日常の地道な情報収集や分析から生まれる。鏡を製造するコミーは、集客効果を見込んだ回転ミラーを販売していたが、ある日、一度に30個も購入する事業者に出会った。予想外の多さに誤発注ではないかと不安を覚えたため、その理由をあえて尋ねてみると、万引防止を目的に使っていることがわかった。ロボット工学の第一人者である金出武雄氏は、「素人発想、玄人実行」の重要性を説いたが、この想定外に知り得た知識は、「素人発想」にも通じるもので、価値のある「点」となる。そうした「点」を専門家として「玄人実行」することによって新たな製品分野や販路の開発につなげ、その後の事業拡大が可能となったのである。
 こうした想定外をいかす努力は、1回限りで終わらせてはいけない。最初に解決された問題の後ろに隠れている問題に気づき、2歩先、3歩先の将来の可能性を考えておくべきだ。


宮永 博史 (みやなが・ひろし)
コンセプト創造や新事業開発などについて研究。専門は技術マーケティング、事業化戦略。東大工学部、MIT 大学院修了。NTT、AT&T、デロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)取締役などを経て現職。主著に、『世界一わかりやすいマーケティングの教科書』(中経出版、2011年)、『顧客創造実践講座』(ファーストプレス、2008年)など。

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 識者が読者に推薦する1冊 (推薦図書リストはこちらから)

三宅 なほみ 氏
東京大学 大学発教育支援コンソーシアム推進機構〔2011-2013〕
『協調が生む学びの多様性 第1~3集』

築山 節 氏
築山節〔2013〕『脳が加速する3つの習慣――読む・書く・話すで「直観力」をみがく』宝島社。

三品 和広 氏
ダニエル・グリーンバーグ〔2006〕『世界一素敵な学校―サドベリー・バレー物語』緑風出版。

太田 肇 氏
太田肇〔2013〕『組織を強くする人材活用戦略』日経文庫。

宮永 博史 氏
宮永博史〔2012〕『幸運と不運には法則がある』講談社プラスアルファ新書。



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<関連記事>
・2013年11月2日 週刊ダイヤモンド記事 櫻井よしこ氏「オピニオン縦横無尽:『異質性』から生まれた世界標準になる日本のロケット」に引用


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