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NIRA政策提言ハイライト

「フレキシキュリティ」を参考に、成長につながる柔軟な労働市場を

NIRA政策提言ハイライト 2019/7発行

■生産年齢人口の減少が深刻化し、労働生産性の向上の重要性が増す日本
 令和の新時代を迎えた日本はこれから、人口減少と少子高齢化が進み、生産年齢人口が大幅に減少する。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2018年に7,484万人だった生産年齢人口は、2040年までに約1,500万人も減少し、5,978万人となる。一方で、65歳以上の人口は2040年に3,921万人に上り、全人口の35%を占めることになる。就業者数で見ると、経済成長が低い場合は、2018年から2040年までの間に約1,400万人減少し、5,245万人となる見通しとなっている。生産年齢人口の減少を補い、日本が持続的に経済成長を遂げるためには、労働生産性の向上は喫緊の課題である。

■労働市場の柔軟性が鍵
 労働生産性を向上させるには、労働市場の柔軟性を確保し、人材が、個々の能力が最大限に生かされる形で、成長産業や生産性の高い分野に効率よく配置されることが肝要である。
 しかし、日本の労働市場の柔軟性に課題があることは、長らく国内外で指摘されている。大きな原因は日本的雇用慣行にある。そもそも、高度成長期に確立した雇用慣行は、労働流動性を確保することを想定していない。終身雇用制度は、学卒後の採用から定年まで安定雇用を保障するものだが、進路から外れた場合、軌道修正が困難である。年功序列型の報酬制度は、個々が成長するモチベーションを低下させ、革新的なアイディアの創出や、能力育成の弊害になることなどが言われている。
 厚生労働省「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」が、2019年5月に発表した方針・課題には、70歳までの就業機会の確保、中途採用の拡大、副業・兼業の促進、就職氷河期世代への積極支援などが示されており、これらが労働市場の硬直性に対して変化を促し、今いる人材を最大限に生かす施策となることが期待される。

■労働市場の柔軟化と生活保障を両立するフレキシキュリティで、イノベーション創出
 日本の労働市場を柔軟化させる上で重要な視点を、立教大学経済学部教授の菅沼隆氏は、わたしの構想No.42「令和改革」の中で示している。菅沼氏は、デンマークを例に、これからの日本は、国民生活を保障しながら、社会変動に柔軟に対応し、技術革新にも貢献する「イノベーティブ福祉国家」になるべきだと述べている。「イノベーティブ福祉国家」としてのデンマークの成功には、労働市場の柔軟性(flexibility)と、労働者への手厚い社会保障制度(security)が両立するシステム「フレキシキュリティ(flexicurity)」があると同氏は解説している。
 その基盤には柔軟な労使関係があり、職業ごとに労使が自主的に労働市場の枠組みを決め、社会変化に迅速に対応できる仕組みがあると説明している。柔軟な枠組みは人々の能力を高め、新しいことに挑戦する意欲を育み、イノベーションの創出に貢献しているという。
 さらに、デンマークでは2年間、失業前賃金の9割が保障される手厚い社会保障や、職業訓練を受けるなど再就職をしやすい仕組みがあり、国民は生活に不安がない。表1にあるように、労働市場政策に投下している資金を対GDP比でみると、日本の0.3%に対し、デンマークは3.2%となっている。そして、デンマークは、時間当たりの実質GDPが、日本の41.8ドルに対し、64.9ドルと高い生産性を実現している。
 イノベーションが生まれる柔軟な労働市場は、生活が十分に保障され、やり直しがきき、新たなことにいつでも挑戦できる基盤があることで成立しているのだろう。社会保障と教育、産業政策が連携したデンマークのポリシーミックスは、未曽有の社会変化に対してビジョン形成から課題である日本にとって、参考にしたいモデルケースである。菅沼氏は、日本がイノベーティブな福祉国家を目指す際に、これまでの企業中心から脱却するなど、新しい労使関係の構築の必要性を指摘している。労使関係を含めた日本的雇用慣行の刷新のほか、財源の見直し、確保など課題は多いものの、日本に相応しい形で、変化に対応していくことが必要だ。

(表1)「イノベーション福祉国家」デンマークと日本

注1)就労率・労働人口におけるデジタルスキルは2018年。時間当たりの実質GDP・大学進学率・管理職に占める女性の割合・起業コストは2017年。労働市場政策に投入している公費は2016年。
注2)労働人口におけるデジタルスキルは、コンピュータースキル、基本的なコーディング、デジタル読解力などの程度について、世界経済フォーラムがアンケート調査データをもとに作成した指標。起業コスト(対GNI比)は、世界銀行が各国の法律や制度、料金体系、政府や関連団体の推計をもとに算出した、登記関連費用など設立時に関わるすべての費用の対GNI比。
出所)OECD、WHO 、グローバルノート(出典:UNESCO) 、 World Economic Forum 、 ILOの資料をもとに作成。

<参考文献>
NIRAわたしの構想No.42(2019)「令和改革
北島あゆみ(NIRA研究コーディネーター・研究員)

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