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NIRA政策提言ハイライト

日本のスタートアップ環境とユニコーン不足

NIRA政策提言ハイライト 2019/6発行

■指摘される日本の「ユニコーン」不足
 近年、日本では起業活動が活発ではないと言われている。世界の起業活動を調査しているGEM(Global Entrepreneurship Monitor)では成人人口(18歳~64歳)のうち、「起業の準備をしているか、起業後3年半未満の起業家」の人口割合を総合起業活動指数・TEA(Total Entrepreneurial Activities)として公開している。2017年の日本のTEAは4.7%と、米国の13.6%、中国の9.9%、ドイツの5.3%と比べて低い。
 また、日本においては、「ユニコーン企業」の少なさも指摘されている。創業10年未満の未上場企業の中でも、企業価値が10億ドル以上まで急成長したスタートアップ企業は伝説上の生物になぞらえて「ユニコーン企業」と呼ばれている。米国の調査会社CB insightsによると、このようなユニコーン企業は2017年時点で米国には117社、中国には73社、英国に15社、インドに11社存在しているが、日本にはわずか2社しか存在していない。

■日本の「ユニコーン」不足はバッドニュースか?
 スタンフォード大学アジア太平洋研究所の櫛田健児氏はNIRAオピニオンペーパーNo.39「日本の「ユニコーン」不足はバッドニュースか?」において、次のような議論を展開している。
 まず、櫛田氏は日本のユニコーン不足は決して日本のスタートアップ環境が未成熟であることを示しているわけではないとしている。櫛田氏のデータを見ると、ベンチャーキャピタルの投資額は米国の約600憶ドルに対して日本が約10億ドルと低いが、ドイツ8.7億ドル、フランス8.4憶ドル、英国6.2憶ドルと、米国以外の諸外国と比べるとその差はさほど大きくない。
 次に、1990年代までは米国の所謂シリコンバレー型の発展制度に遅れをとっていたが、2010年頃になると、日本独自のスタートアップ環境を形成していると櫛田氏は論じている。表1は日本型スタートアップと米国の所謂シリコンバレー型のスタートアップシステムの違いをまとめたものである。ここでは日本におけるシリコンバレー型制度の発展阻害要因として、表中の6つの要因があげられているが、これらの阻害要因は2010年までに表1右列のように変容を遂げ、日本の市場構造がよりスタートアップビジネスが成長しやすい環境に変容したとしている。中でも、1990年代後半、活発なスタートアップを育成するにあたって日本が抱える大きな障壁はベンチャーキャピタリストが参入する機会、つまり新規株式公開(IPO)や企業合併・買収(M&A)の機会が不足していたことだったが、日本の「金融ビッグバン」改革の一環として生まれた小型株式市場、東証マザーズとジャスダックにより、ベンチャーキャピタリストの参入が増えた。その結果として現在の日本は米国よりも更にIPOが容易になったと櫛田氏は評価している。

 表1 日本のスタートアップエコシステムの制度進化:シリコンバレー、1990年代および2010 年頃の日本との比較



■日本のスタートアップ環境の現状評価
 前節で論じた櫛田氏の指摘の通り、現在の日本における小型株式市場の状況は昔に比べて大きく進歩しているのは間違いない。特に日本の強みと言えるのは小型IPOの容易さであると考えられる。櫛田氏のデータが示す通り、日米の小型株式市場でのIPOにおける1社あたりの調達額の中央値を見ると、米国の約7500万ドルに対して、日本は約350万ドルと、日本のスタートアップ環境はシリコンバレー型とは異なり、より小型なIPOが多くなっている。この小型IPOが容易にできるということは、急成長が見込めない科学技術関連のスタートアップでも、日本では上場して安定的に成長できる見込みがあるということと同時に、ユニコーンになる前に上場するスタートアップ企業が多くなるということになる。米国ではこのような企業はM&Aの対象となり、多かれ少なかれ買収先の企業経営に組み込まれてしまい、自主権を失ってしまうことが多い。その点日本型のスタートアップは自主性を保持したまま成長できる強みがあると言えるのである。

 冒頭で言及したように、日本は起業活動が活発ではないと主張されているものの、櫛田氏の議論からもわかるように、実は20世紀末と比べて現在の日本のスタートアップ環境はかなり整備されたものとなってきている。今現在の課題は、今後どのように市場の透明性を確保するかや、個人のリスクを軽減するかなど、日本のアントレプレナーを活発化させるような政策とは何かについて議論することではないだろうか。マザーズ上場基準の見直しなど、容易なIPOのゆり戻しのような状態となっている中で、多種多様なスタートアップの起業を促し、より活性化させるためには、どのような政策や制度が必要なのか、今後議論されていくべきではないだろうか。

<参考文献>
NIRAオピニオンペーパーNo.39 (2018)「日本の「ユニコーン」不足はバッドニュースか?」

増原広成(NIRA研究コーディネーター・研究員)

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