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NIRA政策提言ハイライト

オンライン教育で高等教育に変革を

NIRA政策提言ハイライト 2019/3発行

 デジタル化の進展は著しく、テクノロジーによる変革はあらゆる分野に及ぶ。そうした時代にあるべき大学教育とは何か。NIRAでは、文科大臣および世界の大学の学長などにお話を伺った(NIRAわたしの構想No.38「学生本位の大学教育」、以下構想No.38)。そこで改めて認識を深めたのが、高等教育の変革にオンライン教育が果たしている意義である。

■知の「民主化」に一役。大学評価の指標にも
 構想No.38でお話を伺ったMITの宮川徹教授は、2002年にMITが開始した「OCW(オープン・コース・ウェア)」構想の当初提唱メンバーで、オープンエデュケーション推進の第一人者の一人だ。OCWとは、大学が実際の講義で使用している教材などを、無料でオンライン公開する取り組みである。
 OCWの意義を一言でいえば、知の民主化、すなわち、人類の共有財産である知を、大学が広く学外の人びとに無償で開放・共有したことにあるだろう。宮川教授は、いま、世界の大学の大きなミッションの一つは、「社会貢献」だという。物理的キャンパスによらない教育は、例えば日本では従来、放送大学などがあるし、また、主に1990年代以降、インターネットの発達とともに、「e-ラーニング」と呼ばれるコンピューターとオンラインを用いた学習や教育が開発されてきた。従って、OCWは、オンラインの活用自体が新しかったわけではない。そうした土台の上に、大学の知の無償開放という、高等教育における社会貢献を実現したという意味において、OCWはエポックメーキングな出来事となった。
 宮川教授は、世界の大学が熾烈なグローバル競争を繰り広げている中で、各大学が、OCWや後述のMOOCなどのオープンエデュケーションでいかに魅力的なコンテンツを数多く発信できるかは、大学の評価に直結する指標だと指摘している(注1)。日本の大学もコンテンツを発信してはいるが、その数は明らかに見劣りがするのが現状だ(表1)。

表1


■主体的学びに貢献
 MOOC は「大規模オンライン無料講座」の略称で、OCWの発展形といえる。MOOCがOCWと異なるのは、講師と受講生、また受講生同士でのやりとりが可能なことだ。受講生には宿題や試験が課され、水準に達すれば修了証ももらえる。
 OCWと同様、学外者に向けてはじまったMOOCだが、実際には、大学内部の教育のあり方をも変えつつある。それは、MOOCが主体的な学びと親和性が高いからだ。
 知識基盤社会である現代では、大規模教室で一方向的に一斉に授けられる知識以上に、各人それぞれが主体的に知を構築し、知を操ることが求められている。MOOCによって、教育機関は「反転授業」といわれる主体的学び方をより容易に、実践的に取り入れることが可能になった。ナンヤン工科大学のスブラ・スレシュ学長(構想No.38)も同校の取り組みで触れているように、「反転授業」では、学生はオンラインで事前に学習をすませ、授業は討論や実験を集中的に行う。また、学生が長期的に外国など学外の地でフィールドワークを行う際にも、MOOCなどオンライン教育の存在は、学生の単位取得を容易にしている。
 こうした新しい高等教育像を全学的に実践するべく2014年に設立されたのが、ミネルバ大学だ。学生は事前にさまざまなデジタル教材で準備し、授業はすべて少人数セミナーで行う。特定のキャンパスはなく、数年かけて世界の複数都市に滞在する。構想No.38は、ミネルバ大学創立者のベン・ネルソン氏にご寄稿いただいた。デジタル時代における高等教育のあるべき姿を追求した同大学が重視するのが、教室の学びを現実世界で試すことだという教育理念は、傾聴に値する。

■リカレント教育を焦点に、時代に合った教育像を示せ
 日本の大学においては、林芳正文科大臣(構想No.38、当時)が述べたように、リカレント教育の充実が喫緊の課題の一つである。少子高齢社会において人びとが「生涯現役」でいられるよう学び直しができる場や、人びとが昨今の急速な技術革新に遅れず、自らの知識や技術を刷新し続けられる場が求められている。
 テクノロジーが社会を変えていく中、テクノロジーが可能にしたものによって、学びのあり方を変革することができる。社会人にとって、場所や時間を選ばないオンライン教育は貴重な学びの手段となる。しかし、オンライン教育は、ありさえすればいいのではない。知識基盤社会では、一人一人が知を自分で構築すること、また未知の問題に対して適切に課題を設定し、技術や情報を駆使しながら、他と協働して解決していくことが求められている。OCWもMOOCも、理想とする高等教育の実現のために、オンラインを活用したことに意味がある。
 リカレント教育にふさわしいオンラインの活用とはどのようなものか。これからの社会の需要にこたえるため、高等教育をどう変革すべきか。21世紀の日本社会の実情にあった、そして世界に資する高等教育像をいかに提供できるかが、これからの大学の存在意義の一つとして重要になるだろう。リカレント教育の充実に向けた各大学の試みに期待したい。

注1 宮川徹「経済教室」日本経済新聞2017年3月27日朝刊。

<参考文献>
NIRAわたしの構想No.38(2018)「学生本位の大学教育」
舩守美穂(2015)「デジタル時代における高等教育の新地平-MOOCの先に見えてきたもの」大阪府立大学高等教育推進機構FDセミナー

榊 麻衣子(NIRA研究コーディネーター・研究員)

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