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NIRA政策提言ハイライト

「中核層」が支える日本の未来

NIRA政策提言ハイライト 2018/09発行

■欧米先進国のポピュリズム的な政治情勢
 ここ数年、欧米先進国の政治情勢が注目され続けている。イギリスのEU離脱や、トランプ政権の誕生は記憶に新しいが、2017年に欧州各国で行われた選挙では、反移民・反EUを謳う勢力に、既成政党が揺るがされる場面が目立った。また、今年6月には、イタリアでポピュリスト政党と極右政党の連立政権が成立した。福祉大国スウェーデンでは、9月に、反移民を掲げる極右政党が議会選で躍進し、約100年間不動であった第1党の座を脅かしている。
 9月に発行した書籍『ポピュリズムの本質―「政治的疎外」を克服できるか』(中央公論新社)では、「政治的疎外」をキーワードに欧米先進国で起きているポピュリズム現象の実情に迫っている。本書において「政治的疎外」とは、本来人々が権力者であるはずの民主主義において、政治がいつの間にかコントロールできないものとなり、逆に政治によって翻弄されている感覚と定義されている。谷口将紀東京大学教授(NIRA総研理事)は、現在欧米先進国で見られる政治現象は、政治的疎外の帰結として現れる移民・難民への投影行為や、カリスマ的リーダーへの同一化という共通要素があるとしている。その背景には、グローバル化や技術革新により、今まで豊かさを享受してきた中間層に不安や不満が生じ、それが政治的疎外を高め、既成政党への不信につながっていると説明している。

■日本はポピュリズム現象と無縁か
 一方で日本は、経済の回復基調が続き、また、諸外国のような移民・難民問題も顕在化していない。与党自民党の体制も持続し、一見、情勢は安定しているかのように見える。しかし、欧米先進国で見られるポピュリズム的な政治状況は、果たして無縁なのだろうか。
 諸外国と同様に進展する第4次産業革命やグローバル化に加え、日本は大幅な人口減少により、未曾有の社会変化が訪れようとしている。前掲の書籍で示されているが、2017年総裁選時に実施された、東京大学谷口研究室・朝日新聞社共同有権者調査データによると、グローバル化やAIに対して不安や脅威を感じている人ほど、政治に強い不信感があり、政治をコントロールしている感覚がないことが分かっている。同書では政治的疎外と得票率の相関も示されており、政治に対する信頼がある人ほど連立与党に、そうでない人ほど立憲民主党や共産党などの野党に投票する割合が多い。現状、政治的疎外の向かう先は既成の政党システムの中でおさまっていることがわかる。
 しかし、谷口教授は、今の日本の政治に、グローバルメガトレンドに対する目指すべき社会像や進路など、中長期的なビジョンを示す意識が希薄であり、ポピュリズムに陥る可能性があると警鐘を鳴らしている。

図1 グローバル化や技術革新と政治不信

(注)東大谷口研・朝日有権者調査(2017)のデータより作成
(出所)『ポピュリズムの本質―「政治的疎外」を克服できるか』(2018)P.27

■国民一人一人の意識が日本の政治的疎外を防ぐ
 政治がビジョンを以て政策を打ち出し、来る社会変化に対応してゆくことは必須だが、それだけでは政治的疎外は克服できないだろう。国民一人一人が自分の力で考え、行動を起こす姿勢が必要だ。NIRAオピニオンペーパーNo.37「中核層が活躍できる社会の構築―個人の尊重と信頼の情勢が鍵―」において、ウシオ電機の牛尾治朗会長(NIRA総研会長)と宇野重規東大教授(NIRA総研理事)は、日本が高度成長期に形成された成功モデルから脱却する必要があることを指摘しており、そのために、所得や階級などの観点で捉えられてきた中間層という受動的な概念に代わり、主体的に人生を選び、国や地域を自分が支えるという意識をもった「中核層」を社会の中心に据えることを提案している。中核層は、身を捧げて国に貢献するのではなく、まずは個人としての人生を充実させたうえで、周囲も含めた暮らしを良くすることに積極的に関わる存在である。同オピニオンペーパーの中で、中核層が活躍するためには、自分だけでなく、他人も一人の個人として尊重する視点を持ち、信頼を基盤とした社会を構築する必要性が説かれている。
 現在の日本に、中核層にあたる人々はどれくらいいるのだろうか。NIRA総研が2017年に実施した「中核層調査」では、中核層の定義に該当すると回答した人は、成人の約2割であった。国は、個人と地域社会の延長上にある。今後、より多くの国民が中核層となることが、この国における政治的疎外を防ぎ、来る社会変化に対応できる新たなモデル形成につながっていくのではないだろうか。

<参考文献>
谷口将紀/水島治郎(編著)2018『ポピュリズムの本質―「政治的疎外」を克服できるか』中央公論新社
NIRAオピニオンペーパーNo.37(2018)「中核層が活躍できる社会の構築―個人の尊重と信頼の情勢が鍵―
NIRA研究報告書(2017)「NIRA総研 中核層調査

北島あゆみ(NIRA研究コーディネーター・研究員)

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