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NIRA政策提言ハイライト

金融政策の柔軟化とジレンマ

NIRA政策提言ハイライト 2018/08発行

■日銀の金融政策の副作用について
 日銀は去る2018年7月31日、新な政策を発表した。公表文のタイトルは「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」となっている。
 政策の変更点としては、第一に「フォワードガイダンス」と呼ばれる将来の金融政策を事前に約束する手法を新たに導入し、更にこれまで0%程度に誘導していた長期金利について、ある程度その上限を変動するものと容認することとなった。「フォワードガイダンス」の導入はこれまでの金融緩和を継続するという意思の表明であるが、その一方で、長期金利の上限の変動をある程度まで容認するとの方針は、金融緩和の長期化が避けられないことから、金融機関の収益悪化や、国債市場での取引減少、財政規律の低下といった副作用に対応する意味合いがあるのではないだろうか。

■金融政策のジレンマ
 東京大学の宮尾龍蔵氏と新谷元嗣氏は、NIRAオピニオンペーパーNo.38 「金融政策はジレンマを乗り越えられるか」において、黒田日銀総裁体制2期目の金融政策はあるジレンマを抱えていることを指摘し、次のような議論を展開している。物価上昇率目標2%達成に時間がかかる中、その早期達成を優先し金融緩和を強化すると、前述の副作用への懸念が強まる。一方、逆に副作用のリスクを重く見て、緩和の正常化を急ぐ、あるいは2%目標の枠組み変更まで踏み込めば、金融環境は不安定化し、景気回復を遅らせることになる。
 このようなジレンマに直面する中では、日銀は緩和を強化することも、後退させることも一筋縄ではない状況にあると言える。

■ジレンマとその対応
 今回の政策変更を全体的に俯瞰してみると、金融緩和の柔軟化とも考えられる内容となっているが、こうした対応で上記のようなジレンマを乗り越えることが出来るのだろうか。
 宮尾・新谷氏は前掲のオピニオンペーパーにおいて、均衡利子率を推定し、金融緩和の効果を予測している。「均衡利子率」とは、景気を刺激も抑制もしない中立的な金利水準である。金融政策の緩和度合いは政策金利の水準と、経済や物価に影響を及ぼさない中立的な金利水準である均衡利子率との比較によって評価できる。もし実質政策金利が均衡利子率よりも低ければ金融政策スタンスは緩和的となり、逆に、実質政策金利が均衡利子率よりも高ければ引き締め的と判断される。したがって、仮に政策金利の目標利子率に変更がなくとも、均衡利子率が上昇すれば、金融緩和の度合いが強まり、景気刺激効果は高まることとなる。このように、均衡利子率の上昇が観察されれば、金融緩和の副作用への懸念は相対的に和らぎ、ジレンマを乗り越えていくことが出来ると思われる。
 図1は宮尾・新谷氏の均衡利子率の推計結果である。両氏は前掲オピニオンペーパーにおいて3つの異なる手法を用いて推計を行っているが、ここでそのうち一つの推計結果を図示する。推計によれば、日本の均衡利子率は図1で示す通り、近年上昇基調にあることが示されており、金融緩和のメリットも増大していく傾向にあるという。両氏はこの傾向が続けば、仮に政策変更を行わなくとも、景気刺激効果は高まると主張しているが、この度の日銀の政策変更、政策の柔軟化により、今後どのように景気が変化していくのだろうか。今後控える消費増税の影響への対処も含め、今後の動向が注視される。


図1 Laubach-Williamsモデルに基づく均衡利子率

(注)Laubach-Williamsモデルに基づく均衡利子率推定値(リアルタイム、四半期推定値、1982年Q1~2017年Q4)
(出所)NIRAオピニオンペーパーNo.38 「金融政策はジレンマを乗り越えられるか」、p.5

<参考文献>
NIRAオピニオンペーパーNo.38 (2018)「金融政策はジレンマを乗り越えられるか―均衡利子率の推計から示唆されること―

増原広成(NIRA研究コーディネーター・研究員)

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