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NIRA政策提言ハイライト

イノベーションインフラが急成長企業を生み出す

NIRA政策提言ハイライト 2018/07発行

■日本の名目GDP、目標未達の予測
 内閣府は2018年7月9日の経済財政諮問会議で「中長期の経済財政に関する試算」を提出した。それによれば、成長実現ケースの名目の国内総生産(GDP)成長率は2018年度1.7%、2019年度2.8%となる見通しである。
 安倍政権が2015年9月に発した「新3本の矢」では、2020年までに名目GDPを600兆円にするという目標を掲げた。今回の試算では、その後のJSNA(日本の国民経済計算)の基準改定によるGDPの押上げをふまえた成長実現ケースであっても2020年度の名目GDPは589.8兆円と予測されており、「新3本の矢」の目標を達成することはできないという見通しが示された。

図1 名目GDPの実数及び成長率(左)と世界のユニコーン企業数(右)

(注)1) 名目GDPデータは2017年度まで実績、2018年度以降は推計値。
   2) ユニコーン企業の「その他(29社)には、イスラエル、フランス、インドネシア、
     南アフリカ、スイス、オーストラリア、ブラジル、カナダ、コロンビア、エストニア、
     日本、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ナイジェリア、ポルトガル、シンガポール、
     スウェーデン、アラブ首長国連邦が含まれる。日本は2018年7月20日時点で1社。
(出所) 左図は内閣府「中長期の経済財政に関する試算(平成30年7月9日経済財政諮問会議提出)」の「成長実現ケース」より作成。右図はCB Insights「The Global Unicorn Club」(2018年7月20日アクセス)より作成。

■企業の急成長に着目
 日本におけるGDP成長の目標達成には、大きな課題がある。それは具体的手段、道筋が明確ではないことだ。具体的な方策やそのために必要なことを明確化し、実行しなければ目標達成はおぼつかない。しばしば短期的な需要拡大策に注目が集まるが、中長期的な視野で持続的に経済成長率を高めるためには、企業の業績を安定して伸ばしていく必要がある。
 NIRA総研理事の柳川範之氏はNIRAオピニオンペーパーNo.21「急成長企業を創出せよ」の中で、「世界的にみると、情報技術や人工知能の進展を背景に、生産性の大幅な向上が可能になりつつある。その結果、企業価値を指数関数的に増大させるベンチャー企業の出現が相次いでいる」と指摘している。ここでは特に、ベンチャー企業の中でも、未上場かつ評価額が10億ドル以上の企業である「ユニコーン企業」を紹介している。
 急成長企業であるユニコーンが生まれている背景には、構造的な変化が2つある。1つは、イノベーションをめぐる構造が大きく変化し、イノベーションを引き起こすことが今までよりはるかに容易になってきている点である。その手助けをするソフト面のインフラ機能を柳川範之氏は同オピニオンペーパーで「イノベーションインフラ」と呼んでいる。もう1つは、コスト削減をきっかけに多様な人材が参入してきている点である。多様な人材が起業や開発に集まることで相乗効果が生まれ、より優れたアイディアが生み出されている。いわば、人材レベルでのイノベーションインフラである。

■急成長企業を創出するためには
 こうしたユニコーン企業の創出は世界全体における成長モデルの変化の現れであり、2018年7月20日時点で255社存在する。ところが、現実には、日本では1社にとどまる。日本でユニコーン企業が育たない点については、さまざまな理由が考えられるが、日本もイノベーションインフラを整え、多様な人材が参入できる環境を作ることにより、多くの急成長企業を創出していくことが不可欠である。
 もっともここで言いたいことは、ユニコーン企業の創出のみに注力すべきではない、ということだ。国によりイノベーションインフラの仕組みは違ってもよい。IPOに関する環境整備等、他の方策も考えられる。日本は伝統的かつ成熟した大企業が多く、企業の急成長が難しい中で、これらの動きを積極的に取り入れるべきである。これは決して容易なことではないが、不可能なことではない。国が大きく経済成長するには、大企業においてもイノベーションインフラを整備・活用できるようになることが求められる。

<参考文献>
NIRAオピニオンペーパーNo.21(2016) 「急成長企業を創出せよ―名目600兆円のGDP目標を達成する―

渡邊翔太(NIRA研究コーディネーター・研究員)

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