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NIRA政策提言ハイライト

チャレンジを促す働き方改革の実現を急げ

NIRA政策提言ハイライト 2018/06発行

■働き方改革関連法案をめぐる議論
 働き方改革関連法会案が、2018年5月31日に衆議院本会議で可決し、6月29日の参議院本会議でも可決、成立した。ここまで長きにわたってさまざまな議論が交わされたが、中でも特に、長時間労働の是正、雇用形態による不合理な処遇の差の解消(同一労働同一賃金の実現)、高度プロフェッショナル制度の創設等には注目が集まった。

■労働時間の規制緩和と柔軟な働き方
 長時間労働の是正に関しては、労使協定を結ぶ場合において時間外労働を、年間では720時間、かつ単月で見て100時間未満を上限とする法案が提示されている。過労死の問題、労働者の仕事と家庭生活の両立、女性や高齢者の労働参加の促進等々とも密接に関連しており、以前から重要な政策課題として認識されてきた。
 実際に労働時間の推移を見ると、パート労働者比率の高まりから全体での平均総労働時間はやや減少しているものの、フルタイムの一般労働者の労働時間に減少傾向は見られない。働き方改革で掲げられている「多様で柔軟な働き方」を実現し、個々人の生産性の向上に加えてより創造性を発揮できる環境を整えるうえでも、過度な長時間労働への対応は重要である。
 柔軟な働き方という面では、高収入かつ職務範囲の明確な高度専門職に限って労働時間規制を適用除外とすることができる高度プロフェッショナル制度の創設も議論を呼んでいる。使用者側が労働時間の管理をしないことへの懸念や反対の声は根強い一方で、時間に縛られない柔軟な働き方が必要だという指摘がされている。適切な制度設計と運用面での細心の注意が必要であることは言うまでもないが、急速な技術革新や環境変化の中にある今日、働き方に関する制度だけが従来のままで適切に機能するとは考えにくい。それに関して、NIRAの研究に関わっている識者も指摘している。

図1 平均年間労働時間(左)とパート労働者比率(右)の推移

(注) 年間時間は常用労働者1人平均月間総実労働時間数を年間換算(調査産業計、事業所規模30人以上)。
(出所) 厚生労働省「毎月勤労統計調査」より。

■働き方と企業組織の近未来
 NIRAでは、近年の技術革新と組織のあり方や個人の働き方について、多方面から議論を重ねてきた。その中で、働き方の実現が目指す長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現との関連で、2つの議論に触れておきたい。
 まず第1に、創造性の発揮のためには多様なネットワークが重要だという指摘がある。わたしの構想No.27「企業の未来をデザインする」では、今後の組織や働き方の課題と展望を識者に尋ね、時間や空間に縛られない多様な働き方と、年齢や時間でなく成果に基づいて評価される構造が重要だとまとめた。その中で、入山章栄氏(早稲田大学准教授)は、イノベーションを活性化させるには、社外の多様な人々とネットワークを築き、自由な「知の探索」を促すことが重要だと述べている。労働者が多様なつながりを作る機会を得るためにも、長時間労働を促す構造は解決されるべき課題の1つであろう。
 次に、より一般的な労働者にとっても、今後は専門性や創造性の発揮が求められるようになるという指摘もある。NIRAオピニオンペーパーNo.27「AI時代の雇用の流動化に備えよ」において、大内伸哉氏(神戸大学教授)は今後の雇用の流動化が不可避であることを指摘し、雇用関係の維持のみならず、職業訓練の充実や、知的創造性を発揮するために適した労働時間制度等がより重要だと述べている。雇用の流動化が避けられないならば、現在の高度プロフェッショナル制度の対象となるような限られた人々にとどまらず、より一般的な労働者にとっても、社外で通用する技能の蓄積や、個人の専門性・創造性の発揮がより重要となってくるだろう。
 他方で、「時間でなく成果で評価する」ことにも多様な問題が潜んでおり、労働者の意欲を削いでしまう場合もあるという指摘も数多くなされている。こうした指摘には細心の注意が必要であるものの、急速な変化の中にチャンスも多く潜む現代においては、就労や自己研鑽のインセンティブを損ねることなく、人々が成功と失敗を重ねながらチャレンジし続けられる環境を整えるような制度設計を早期に実現することが必要ではないだろうか。

<参考文献>
NIRAわたしの構想No.27 (2017)「企業の未来をデザインする
NIRAオピニオンペーパーNo.27 (2016)「AI時代の雇用の流動化に備えよ


尾崎大輔(NIRA研究コーディネーター・研究員)

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