利用方法

日本を動かす知をつなぎ、政策課題を論じ、ビジョンを提示するシンクタンク

トップ > 研究の成果と課題の発信 > NIRA政策提言ハイライト > 攻めのIT投資へ向け、ITエンジニアの直接雇用を促せ

NIRA政策提言ハイライト

攻めのIT投資へ向け、ITエンジニアの直接雇用を促せ

NIRA政策提言ハイライト 2018/02発行

「攻めのIT」への取り組みが進まない日本企業
 本年1月、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、IDC Japan 株式会社と共同で実施した「2017年国内企業の「IT経営」に関する調査」の結果を公表した。同協会のプレスリリースによると、IT投資を重要視する企業は増加傾向にあり、新商品開発などの新たな付加価値を創造するための「攻めのIT投資」へのシフトの兆しが見えるとのことである。しかし、現実は、日本企業がITシステムを有効に活用できているとは言い難い。例えば、同結果に基づけば、IT投資を「極めて重要」とする企業の割合は米国では76%である一方、日本では未だ26%に過ぎない。また、米国企業の多くは「攻めのIT」への投資を中心としているが、日本では、依然として、コスト削減や業務効率化のためのいわゆる「守りのIT投資」が中心である。2013年調査と比べて進展が見られるとはいえ、これでは彼我の差は開く一方である。

創造性を発揮できていない日本のITエンジニア
 ここで、興味深いデータを二つ提示したい。一つは、ITシステム開発の主体者であるITエンジニアが属する産業についての日米の違いである。統計データに基づけば、日本のITエンジニアの71.1%が情報通信業に集中しているが、米国では多様な産業に広く分布しており、情報通信業に属する割合は38.4%である(図表1参照)。
 もう一つはITエンジニアの意識差についてのデータである。米国の職業データベースO*NETに基づけば、米国のITエンジニアは「創造的に考えること」を非常に重要視しており、重要度を100点満点にして70点以上と評価している(図表2参照)。一方、NIRA総研が行った「職業の特性と就業の可能性に対するアンケート調査」(2015年2~3月実施。詳細は、NIRAモノグラフシリーズNo40「職業特性と高齢者特性」参照。)の結果を分析すると、日本のITエンジニア(総回答数6488中、176が該当)は同46点と評価しており、この意識差は顕著であった。
 このITエンジニアの産業分布と意識の差は、相互に無関係ではないだろう。日本のシステム開発は、情報通信産業のITエンジニアへの受託型が中心である。中でもウォーターフォール型の受託開発が多く見られるが、これはプロジェクト初期に要件が決定されるため、プロジェクト進行過程でのトライアンドエラーによる変更は認められないケースが多く、ITエンジニアによるアイデアは反映されない可能性が高いのが実情だ。こうした業務上の特徴が、実際にITを利用する企業内にITエンジニアが多くいる米国との意識の差に表れていると考えられる。

ITエンジニアの直接雇用し、攻めのITを促進せよ
 NIRAわたしの構想No7「脱・停滞へのイノベーション」(2015年1月)において、カーネギーメロン大学金出教授は、イノベーションを生むためには価値ある問題を自分で見つけ具体的に解くことが重要であると指摘する。しかし、これを現在のウォーターフォール型受託を中心とした日本のITシステム開発の現場で実現することは困難である。
 各産業の企業経営者は、ITエンジニアを直接雇用することを考えるべきだ。ITエンジニアが様々な産業に直接入り込みビジネスの現場に触れ、トライアンドエラーを積み重ねながら開発をすれば、自ずと様々な問題解決のアイデアが浮かび、創造性を発揮するようになる。こうして生まれたアイデアをシステムに反映していけば、顧客価値を向上するためのITシステム開発が進む。そうすれば自然と、攻めのIT投資が広がりをみせるようになるだろう。


(データ出所)日本のデータは総務省統計局「平成24年就業構造基本調査」、米国のデータは労働省労働統計局2014年「Employment Projections program」に基づく。
(注1)「ITエンジニア」は、日本においては、日本標準職業分類における大分類B中分類10「情報処理・通信技術者」とした。また、これに対応する米国の職業としては、米国標準職業分類(SOC)2010年版における中分類15-1100「Computer Occupation」および細分類SOC51-4012「Computer Numerically Controlled Machine Tool Programmers, Metal and Plastic」とした。
(注2)「情報通信業」は、日本標準産業分類G「情報通信業」とした。また、これに対応する米国の産業としては、米国標準産業分類510000「Information」を基本としつつ、これに必要な補正を加えた。

図表2 ITエンジニアの主な職務活動に対する日米の重要度評価
 日本米国
情報処理・
通信技術者
アプリケーショ
ン開発者
システム
開発者
ウェブページ開
発者
プログラミング681009796
情報分析54736481
協力・交渉53403858
情報収集52747387
戦略・計画52746671
アイデア46717783
(注1)日本のデータは、NIRA総研が2015年2~3月に実施した「職業の特性と就業の可能性に対するアンケート調査」に基づく。当該アンケート調査の詳細は、NIRAモノグラフシリーズNo40「職業特性と高齢者特性」参照。
(注2)米国のデータは、米国の職業データベースO*NETに基づく。なお、プログラミングは「Interacting With Computers」、情報分析は「Processing Information」、協力・交渉は「Communicating with Persons Outside Organization」、情報収集は「Getting Information」、戦略・計画は「Organizing, Planning, and Prioritizing Work」、アイデアは「Thinking Creatively」の各職務活動項目を代表値とした。
(注3)重要度は、「決定的に重要である(Extremely Important)」、「かなり重要である(Very Important)」、「重要である(Important)」、「やや重要である(Somewhat Important)」および「重要ではない(Not Important)」の5段階評価である。全ての回答者が、「決定的に重要」とした場合に最高値100点、「重要ではない」と回答した場合に0点となる。


西山裕也(NIRA総研 主任研究員)

このページのトップへ