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NIRA政策提言ハイライト

国民の叶わぬ期待こそがリスクとなる

NIRA政策提言ハイライト 2017/11発行


 今年ほど欧米の政治に世界が注目した年もないだろう。トランプ大統領による国内政策重視、イギリスの総選挙でのメイ首相の敗北、オランダ・フランスの極右政党への国民の支持、ドイツの極右の躍進などがメディアで取り上げられ、世界の注目を集めている。これらの背景には、生活が一向に良くならないと感じている人々の不満が既成政党を否定し、極右や極左といった極端な政党への支持につながっていることがある、というのが、ほぼ一致した見方である。
 一方、日本では安倍総理が9月末に衆議院を解散し、与党は3分の2を確保する大勝利で終わった。日本では極端な政党に支持が集まることもなく、欧米のように既成政党への不信を免れたとする見方があるが、果たして、そうだろうか。

■実現不可能な国民の期待
 NIRA総合研究開発機構は、日本に住む20~60歳の男女を対象に、社会保障の給付と負担についてのネット調査を実施した。給付と負担の考え方について、選択肢の中から選んでもらった。その結果は、下の表のようになった。
 最も多かった回答は、給付も負担も現行水準を維持するというもので、全体の24.3%の人が支持した。次に多かったのは、給付は充実すべきだが、負担は減らすべきというもので、15.2%となった。この二つを合わせると全体の39%とかなりの割合を占める。しかし、残念ながら、どちらの選択肢も現実的に考えて、実現することは困難である。債務残高の水準がGDP比でみても極端に高く、しかも今後、人口に占める高齢者の割合が高くなる日本で、給付と負担を現行水準で維持することも、給付を増やして負担を減らすことも不可能である。
 さて、実現できないと気付いたときに、人々はどう感じるのだろうか。おそらく、期待は失望に変わるだろう。期待が大きいほど、それが実現できないことがわかったときの落胆は大きいはずだ。現実問題として、現状の急速な高齢化と成長率の低下を前提とすれば、社会保障についての国民の期待を全て実現することは不可能である。むしろ、そうであれば、「できること」と「できないこと」を国民に説明し、納得してもらうことこそが政治の役割である。国民の合意を得ることができなければ、あっという間に日本の政治は欧米並みに不安定な状態となる。

■国民に叶わぬ幻想を抱かせる政治
 そうであるにもかかわらず、社会保障に対する国民の期待を、さも実現できるかのように振る舞う政治が横行している。今回の選挙でも、財源について言及のない、無責任なマニフェストを政策として掲げる政党が多くみられた。政党は、日本が直面する課題への対応策を国民に示して民意を問うことを避けているともいえる。
 その結果、国民はどの政党を支持してよいかわからずに、政治から浮遊してしまっている。あるいは、国民は政治の甘い言葉から、根拠のない幻想を抱いた人々が既成政党を支持しているのかもしれない。社会保障制度を維持するためにどれだけの負担が必要になるのか、ということへの認識の甘さが、アンケート調査にも表れている。まさに幻想から来る国民の過大な期待こそが、日本にとってのリスクである。

■責任ある政党政治を
 谷口将紀教授(東京大学、NIRA理事)がNIRAオピニオンペーパーNo.32 「二重の政治的疎外をいかに乗り越えるか―中間層の不安定化、本流の喪失―」で指摘しているように、既成政党への不信を増大させないために必要なことは、政党政治を立て直すことである。日本の未来は、政党政治を立て直すことができるかどうか、にかかっている。責任ある選択肢を国民に見せる役割を担うのは政党である。それは、狭小なイデオロギーでがんじがらめになった政党ではない。求められているのは、政策についての大きな軸を国民に提示して、現実の問題を直視し、それへの柔軟な処方箋を提示できる政党である。与党、野党がそれぞれ対立軸を提示し、国民が各々納得のできる案を支持することができれば、日本の政治は欧米とは別の道を歩むことができるはずだ。


<参考文献>
NIRAオピニオンペーパーNo.32 「二重の政治的疎外をいかに乗り越えるか―中間層の不安定化、本流の喪失―
NIRA「中核層調査

神田玲子(理事・研究調査部長)

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