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NIRA政策提言ハイライト

出遅れる日本 IoT分野の国際標準化競争

NIRA政策提言ハイライト 2016/08発行

IoT分野で日独連携の合意
 2016年3月、日独首脳はIoT(Internet of Things、モノのインターネット化)分野における両国の連携協力に関して基本合意した。また、これを受け4月28日には両国間でIoT分野の共通規格・標準を整備することを目指した覚書が交わされた。日本の首相が外国首脳と国際標準化に関して直接話合いを持ったことは、国内的には大きな意味がある。

日本の出遅れ感
 しかし、ドイツなどと比べて出遅れ感が大きい。実は、日本との覚書取り交わしに先立つこと1年前の2015年4月、ドイツのIoT推進団体「Plattform Industrie 4.0」は、アメリカのIoT推進団体「Industrial Internet Consortium」と相互協力の推進で合意している。既に、IoT分野の国際標準化や技術開発で先行する2国が協調路線を進む約束をした後に、ようやく日本にお呼びがかかった形である。
 また、ドイツ国内では、ボッシュ社やシーメンス社などの企業が、2011年から本格化した産業強化策Industrie 4.0において、政府、IoT推進団体「Plattform Industrie 4.0」とともに絶妙な連携プレーをしながら、製造業の生き残りをかけてIoT分野の国際的な主導権の確立に奔走している。IoTを駆使した生産工程のネットワーク化という分野で国際標準化の主導権を握ることは、製造業分野が経済の中心となる国・地域の今後の成長の鍵とされる。それだけに、NIRA報告書『アジアを「内需」に』(2009年)で論じられた国際標準・規格における政府介入の構図そのままに、メルケル首相は国をあげて積極的にドイツの売り込みを図っている。
 他方、日本では、企業内工場については、ICT技術によって「つなげ」て生産の最適化、効率化を図ってきた実績がある。つまり、個々の現場においてはIoTによる「つながる工場(スマートファクトリー)」が既に実現されているともいえる。しかし、現実には、競合関係にある企業間で「つなげる」という、体制づくりはなかなか進まない。確かに2015年5月には「ロボット革命イニシアティブ協議会」が発足し、さらには翌月6月にはIoT標準化団体「Industrial Value Chain Initiative(IVI)」が設立された。それでも個別の企業グループでそれぞれが独自の「つなげる」システムを保持したいという思惑から、緩い協力にとどまろうという姿勢が抜けきらない。官民連携の場でも同様であり、政府も国際的に「日本」として統一的な売り込みをかけられない。

巻き返しの時間はまだ残されているとはいうものの
 国際標準化機関であるISOやIECでは、IoTの規格・標準として提案されているモデルが乱立する現状を憂慮し、全体的な方向性や戦略を議論する委員会を2015年に立ち上げた。このような国際機関では、最終的な国際標準化においては、政治力が大きくものを言う。すなわち、議論の主導権をいかに握るかが勝敗を分けるのである。企業グループ間の異なる思惑を残存したまま緩い協力にとどまろうとする業界団体とそこに積極的に介入できない日本政府では、どこまで主導権争いに力を発揮できるのか疑問がある。
 一方で、IoTがつなぐ対象は膨大な範囲に及ぶ。そのネットワークの最適調整を見すえた標準化の議論はすぐには決着がつかない。日本は体制作りには大幅に出遅れてしまっているが、その間を利用すれば、主導権争いで巻き返しを図ることも可能ではある。しかし、残された時間は少ない。


森直子(NIRA総研 研究コーディネーター)

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