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NIRA政策提言ハイライト

Brexitと政治への無関心が示す民主主義の岐路

NIRA政策提言ハイライト 2016/06発行

イギリスの投票結果に見る国民意識の断層
 イギリスで6月23日に実施された国民投票の結果は、世界に大きな衝撃をもって受け止められた。離脱か残留かを巡って若年層とシニア層の間で意見が分かれ、また、都市部のロンドンと地方との間で大きく異なる結果となった。これは、イギリスの国民の民意に断層が生じていることを示すものである。こうした年齢や地域による意識のかい離はどこの国にもある共通の問題であるだけに、各国とも、イギリスが今後、どのような形で国民国家を維持していくのかを、固唾(かたず)をのんで見守っている。

問題は欧州連合(EU)議会への関心の低さ
 さて、今回の投票で浮かび上がる問題点の一つは、そもそもイギリス国民はEUに対してどの程度の関心を持っていたかという点である。下図にみるように、2014年に実施されたEU議会のイギリスの投票率は35%程度であり、EU全体の投票率の42%と比較してもその水準は低い。ここから読み取れるのは、イギリス国民はEU政治に対して積極的に声を上げていこうというよりも、消極的姿勢、つまり無関心ではなかったか、という点である。
 もちろん、こうしたEUに対する関心の低さはイギリスに限ったことではない。他のEU加盟国にも共通している。同じ図でEU議会選挙の投票率の推移をみると、全体では投票率は低下傾向にあり、1979年選挙時の60%から、先に述べたように2014年には42%にまで低下している。近年、EU市民のEU議会に対する関心の低さが顕著になっているのだ。

民主主義を機能させるために
 NIRAわたしの構想No.16「EUは強靭たりうるか」でも、EUの政治的なぜい弱さに対する懸念が識者より示された。北海道大学の遠藤乾教授は、地域間の経済的な不均衡を是正するにはヨーロッパ人としてのアイデンティティーが前提となるが、EU市民は、EU議会をブリュッセルのエリートと考えていることから、民心との距離が埋められていないと指摘している。
 また、欧州連合日本政府代表部特命全権大使の片上慶一氏(当時)は、EUに対する不信や不満は、移民問題などのように市民の生活に直接根差しており、これまでの問題とは異なり深刻であることを指摘している。そのうえで、EUが目にみえる形で具体的な成果を加盟国そしてEU市民に示していくことが、EUに対する信任回復と安定した地域圏形成のカギになると主張している。
 こうした状況で国民に判断を仰ぐのであれば、嘉治佐保子慶応大学教授がいうように、国民が政策の「コスト」と「ベネフィット」を理解し、自らの選択の結末を考えて選ぶようにすることが重要になる。そのためには、例えばスポーツクラブ程度に行きやすいタウンミーティングの場が各所にあって、普通の人が政策リテラシーを磨くことができる機会を増やすことが急務であると主張している。
 これらの識者の意見からは、市民の政治への意識を高め、民主主義をうまく機能させていくためには、民主主義が育つためのインフラのようなものを手間をかけて作り上げていくことが重要であるということがみえてくる。民主主義は「近代」が長い時間をかけてつくりあげてきた人類の発明ともいえるものである。しかし、グローバル化の影響を受けた国民国家がその姿を大きく変えていくなかで、民主主義という人類の発明をどう新しい時代に合うように作り直していくかが問われている。今こそ、国民が国家の道を選択する上で知っておくべきことは何か、国民に信を問うとは何かを民主主義の基本に立ち返って考えるべきである。そして、今回のイギリスの国民投票の結果は、財政再建という大きな課題を抱える日本にとってひとごとではないはずだ。谷口将紀教授(NIRA総研理事)は、国民の財政に対する知識は不十分で、社会保障と税の一体改革のコンセプトは驚くほど人々に浸透していないと指摘している。日本も、大きな岐路に立っていることに変わりはない。



参考文献
NIRAわたしの構想No.16「EUは強靭たりうるか
谷口将紀 「参院選でとわれるもの(下)政治の課題解決能力示せ
                        (6月17日付け日経経済新聞「経済教室」)

神田玲子 (NIRA総研 理事・研究調査部長)

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