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NIRA政策提言ハイライト

小売全面自由化を前に電力システム改革の意義を再考する

NIRA政策提言ハイライト 2016/02発行

目前に迫る電力小売の全面自由化
 電力システム改革の最大の目玉である小売全面自由化が本年4月に迫り、電力商戦は熱を帯びている。足元の電力小売市場をみれば、様々な分野から新規参入者が増加している。報道等では、小売全面自由化と電気料金の低廉化を直接的に結びつける主旨の特集が散見される。しかし、電力システム改革の意義とは、電気料金の低廉化だけであろうか。小売全面自由化を目前に控えた今、再度、電力システム改革の意義を考え直したい。

行き過ぎた価格競争への期待が抱えるリスク
 まず、2013年4月の閣議決定「電力システムに関する改革方針」における電力システム改革(以下、「改革」とする)の目的の一つ「電気料金を最大限に抑制する」に着目しよう(注1)。自由化によって電力市場に競争が導入されれば、電力会社はこれまで以上にコスト削減努力を行うだろう。これは、電気料金を下げる方向に働く。一方で、電力には様々なコスト上昇要因があり、場合によっては一時的な電気料金の上昇は発生しうる。現に、欧米諸国では自由化後に電気料金が上昇している国もある(注2)。昨今の報道のように電力改革の効果を短期的な電気料金の増減のみの視点で一喜一憂しては、長期的な改革により得られるメリットを見失う可能性があり、真の効果を見誤りかねない。
 また、価格競争が新たな負担を生む可能性もある。例えば、現時点の日本において、石炭発電や原子力発電はコストが低いとされている。しかし、石炭発電は温室効果ガスを多く排出する電源でもあり、また、原子力発電には廃炉問題など未解決の問題が存在している。価格競争によりこれらの電源への依存が増加すれば、場合によっては自由化によるコスト削減効果を上回る負担が将来国民に発生する可能性も否定できない(注3)
 加えて、行き過ぎた価格競争は、電力産業を疲弊させ、新たな設備投資が停滞し、発展を阻害する可能性があることも忘れてはならない。安さだけを求めるのは危険である。

多様な選択肢が新たな消費者価値を生む
 電力システム改革で電気料金の変動以外に重要となるのは、選択肢の多様化による新たな価値の創造だろう。前述の閣議決定でも、選択肢や事業機会の拡大が電力システム改革の目的の一つに掲げられている。
 NIRAオピニオンペーパーNo.3「電力改革の方向性を考える」(2011年8月)において、伊藤(当時NIRA理事長)は、需要者が供給者を選べることの価値について言及している。例えば、東京の人が東北地方の風力発電を支援したいと考えれば、多少割高でもその電力を利用する契約を結ぶ可能性があると指摘している。
 足元の新規参入者の中にも、例えば、環境負荷の少ない電源を中心に構成している事業者や、売上の一部を社会貢献事業へ寄付することを新たな価値として訴求している事業者がある。社会的な付加価値で差別化を図る方向性もあるのだ。このようなサービスに価値を見いだす消費者にとっては、もはや電気料金は安ければ良いというものではない。
 これからの電力市場に求められるのは、価格低下だけではない多様な消費者の要望を満たす多様なサービスのイノベーションが生まれること、そして、消費者一人ひとりが自らの価値観に基づき、多様な選択肢の中から選択できることであろう。このような視点からも、電力システム改革の意義が見直されることが必要である。






(注1)「電力システムに関する改革方針」(平成25年4月2日閣議決定)は、以下のURLで入手可能。http://www.meti.go.jp/press/2013/04/20130402001/20130402001.html
(注2)電気料金の上昇には様々な要因が指摘されている。国によって事情は異なるが、例えば、物価の上昇、寡占による市場支配力の行使、託送料金の上昇、税金の上昇、再生可能エネルギーの導入コストなどが考えられる。
(注3)石炭火力については、環境大臣が新設計画に異議を唱えていたが、2016年2月7日に容認する姿勢を示した。容認するにあたっては、経済産業省や電力業界による温室効果ガスの排出削減状況を環境省が毎年チェックすることを条件としている。

西山裕也 NIRA主任研究員

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