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NIRA政策提言ハイライト

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)と国際政治協議による技術・制度選択

NIRA政策提言ハイライト 2016/01発行

 2015年12月12日、フランス・パリでCOP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)の「パリ協定」が採択された。この協定により、途上国も含めた196の参加国・地域が温室効果ガス排出抑制への行動を約束したことになる。そして、世界各国の技術開発の方向性や、制度・規制のあり方も規定されていくことになった。このように国際的な政治協議や交渉によって、技術や制度が選択され、方向づけられるというのは、まさに、NIRA報告書『アジアを「内需」に』(2009年)で論じられた国際標準化活動への政府による介入のパターンと同じものである。こうした国際会議での各国の行動の裏には、グローバルな政治・経済秩序の「ルール・セッター」になることで、自国の発展に有利な制度・枠組みを構築していくという目的が潜んでいる。そのためには、次の争点を早めに見出し、国内産業との緊密な連携を取りながら、政府が国際交渉の場で議論を主導することが重要である。しかし、残念ながら、COP21で日本の影は非常に薄かった。
 COPは、気候変動の抑制という中立的な大目標を掲げながら、その裏側で、自国経済の国際競争力を最大に発揮する道を探りつつ、環境規制に関する国際政治の主導権をどのように掌握するかの熾烈な駆け引きが行われる会議である*。他方、日本は、東日本大震災以降、原子力発電をどうするかという根本問題を抱え、自分の温室効果ガスの排出量削減目標の達成すら危うい。そのため、国際的な議論の主導を握るどころではないといわれる。しかし、気候変動に関する焦点は、排出量削減だけではない。
 例えば、今回の会議で取り上げられるようになった気候変動と海洋の問題がある。海洋には、熱エネルギーや二酸化炭素を吸収・回収する機能がある。このメカニズムによって、これまでは気候変動が緩和されてきたといわれる。近年、そのメカニズムも限界が近づきつつあり、どのように海洋を「正常」な状態に維持し、気候変動の緩和装置として活用していくのかが、喫緊の課題となってきている。海洋に囲まれた国である日本は、そこで官民挙げた技術開発を積極的に行うと同時に、産業界を海洋環境の保護・維持に向けてまとめ、それをもとに気候変動問題の次の議論で主導を取ることで、自国に有利なポジションを取ることも考えられた。しかも、日本はCOP21の「気候変動と海洋問題」パネルで進行役という主導権を握りえる立場を得ていた。しかし、日本は単に進行役としての役割を担っただけで終わってしまった。
 それは、重要な国際会議の議長国や開催国になること自体が目的化してしまっている国際標準化をめぐる状況と非常によく似ている。例えば、2014年11月に日本がホスト国となり、国際標準化における最重要会議の一つであるIEC(国際電気標準会議)の総会・専門部会を東京で開催したが、それによって日本全体で国際標準化を基盤に日本経済や技術開発についての将来設計をしていこうなどの気運の変化はなかった。他者が設定したルールに従うのみでは、常に不利なポジションに押し込められてしまう。日本も、このような国際的政治協議を上手く利用した技術・制度選択の主導権掌握法を早く学ばねばならないだろう。

*NIRA対談シリーズNo.50『温暖化問題と日本の対応』(2009/09)に詳しい。

森直子 NIRA研究コーディネーター

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