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NIRA政策提言ハイライト

非営利ホールデング・カンパニーへの期待

NIRA政策提言ハイライト 2014/11発行

 冨山和彦著作による『なぜローカル経済から日本は甦るのか-GとLの経済成長戦略』(PHP新書、2014年)が、巷間で話題となっている。その理由は、長期間の低迷から抜け出せずにいる日本経済の現状を、グローバルとローカルというわかりやすい2分法で提示したためだと思う。冨山氏は、著書のなかで、経済活動をグローバル経済圏である「G」の世界と、ローカル経済圏である「L」の世界の2つに大別している。Gの世界は、グローバル競争のなかで勝ち残らなければならない大企業製造業やIT企業を中心とする経済圏であり、また、Lの世界は、非製造業、中堅・中小企業を中心とする企業からなる、グローバル競争とは関係のない経済圏である。日本経済は、Lの世界が全体の6~7割を占めるとしているのであるから、その部分の生産性が上がらなければ日本の再生はあり得ないという指摘はもっともだと思う。

 では、どうすれば、Lの生産性を向上させることができるのか。同氏は、ローカル経済圏では、穏やかな退出による集約化を進めることが鍵になると主張している。具体的な方法として、株式会社と公益法人の中間のような「非営利ホールデング・カンパニー」的なアイデアが議論されていることを紹介している(同書205頁)。非営利のホールデング・カンパニー制については、最近、政府内でも積極的に取り上げられており、「株主主権型ではなく、社会的規律に主眼を置いたステークホールダー主権型」による新しい資本の形態であるといえる。収入を同一の組織内で上手く配分することによって、非営利事業であっても、より広い事業展開が生まれる可能性は高い。

 こうした新しい組織形態の在り方は、NIRAの研究プロジェクトで地域を持続的に発展させるための一方策として、議論を積み重ねてきたものだ。NIRA研究報告書『老いる都市と医療を再生する-まちなか集積医療の実現策の提示-』では、医療法人によるホールデング・カンパニー制を設置し、出資持ち分を容認する構想を提示した。また、まちづくり会社が出資することで、地域住民に高質の街づくりも一体となったサービスを提供することができるとした。下図にあるように、まちづくりのデベロッパーと医療法人が出資による新しい経営組織を形成することで、高齢者が最期まで生活の質を落とさずに、可能なかぎり健康を維持しながら地域で快適に暮らす社会をつくることができると考えている。

 さて、GとLの議論に戻るが、冨山氏は、かつては、グローバル経済圏からローカル経済圏へのトリクルダウン(富裕層の富が、自然と貧困層にも浸透すること)が生じたが、今は、日本企業の整理統合が進まないために多くの企業が過当競争に陥り、海外勢に撃破されてしまい、GとLの世界が分断されている状況だという。だが、この点については、異論もあろう。

 近年、モノ・人・資金・情報のグローバル化を考えれば、Lの世界におけるグローバル性が高まっていかざるを得ない。日経新聞(11月27日付け、朝刊15面)によると、三井物産はアジア最大の病院持ち株会社IHHヘルスケアに2011年に出資し、病院を中核に、健診センター、検査ラボ、専門クリニック、シニアリビングなどの事業を連携させた幅広いサービスを提供しているという。非営利ホールデング・カンパニー型の日本の医療機関が、蓄積されたノウハウを生かして海外に進出することは大いにあり得る。また、医療に限らず、鉄道・バス・タクシーといったLの産業分野で、新しい事業形態を基礎に海外で事業展開する可能性は高い。グローバル化の流れを受け止めれば、これまでLだと思われてきた分野で、Gの側面が強まっている態様に焦点を当てることこそが、今、求められているのではないだろうか。




神田玲子 NIRA理事 兼 研究調査部長

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老いる都市と医療を再生する-まちなか集積医療の実現策の提示-」(NIRA研究報告書/2012年1月)

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