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NIRA政策提言ハイライト

電力自由化時代を占う

NIRA政策提言ハイライト 2014/06発行

電力小売全面自由化へ本格始動
 去る6月11日、参議院本会議において電気事業法の改正案(以下、「改正法」)が通過し、ついに、電力の小売の全面自由化が法制化された。この改正は、2013年2月に閣議決定された第5次電力システム改革で行う3段階からなる電気事業法改正の第2弾にあたる。
 この全面自由化で市場の拡大を期待し、多数の新電力が、参入準備を進めている。2013年4月末まで70社程度に過ぎなかった新電力の登録者数は、本年6月9日現在244社と、約1年間で3倍以上に急増した。これら新規参入者は、実に多様なバックグラウンドを有している。新電力が、どのように電力市場に活路を見いだし、今後どのようなサービスを展開していくのかは、注目すべきところであろう。

バリューチェーンから新電力の強みを読み解く
 企業活動の分析に役立つツールはいくつかあるが、ここではポーターのバリューチェーン(以下、「VC」)を用いて、他の市場参加者と比べたそれぞれの新電力の持つ強みを考えてみよう。対象は、代表的な4つの業界(ガス系、電気通信系、商社系、自家発電系(工場系))をバックグラウンドにもつ新電力とした。VCとは、事業活動の各プロセスで価値がどのように付加されていくかを示したものである。事業活動は大きくPrimary Activities(主活動)とSupport Active(支援活動)に分けられる。電力産業における主活動は、エネルギー源調達(Inbound Logistics)、発電(Operations)、送配電(Outbound Logistics)、小売(Market & Sales)、サービス(Service)からなると考えられる(図参照)。
 第一のライバルとして考えられるのは、ガス系新電力であろう。自由化で先行している欧米でも、ガス系と電力系は相互に競争関係にある。ガス系新電力の強みは電力VCのほぼ全般にわたるが、特にエネルギー調達と小売に強みがある。発電燃料の主力である天然ガスの調達ルートは既に確立されており、また、小売においても既に所有する顧客データを活用することが可能である。ただし、現状では、ガス産業も規制に守られた産業であり、そこからの脱却は課題となろう。その観点からは、現在、同時に進められているガス自由化の動きは電力産業の競争にも影響を与える重要なものとなる。
 電気通信系の新電力は、顧客と近い下流部分に特色があると考えられる。電気通信分野は電力よりも自由化が進んでいる。その競争の過程において、個々の顧客に対応できる料金プランの開発能力や全国規模の対人窓口網を培ってきており、新規サービスの提案力や顧客対応力に大きな強みを持つ。加えて、ITの活用能力に優れており、電力データのリアルタイム処理などで利便性の高いサービスを展開する可能性もある。この分野の新電力は、上流部分にどのような価値連鎖を構築するかが大きな鍵となる。
 商社系新電力は、小売自由化の初期の段階から比較的参入が多かった。母体となる商社は、その業態から、エネルギー源調達に強みを有し、これまでも電力会社の燃料調達などに関与してきた。近年では、海外の発電施設の運営などに自ら乗り出しており、豊富な経験を培っている。その中で、再生可能エネルギーにも多額の投資を行っている点も見逃せない動きである。
 従来からの市場参加者である自家発電系(工場系)新電力は、自社工場で用いる自家発電で余った電力を小売に活用できるため、価格競争力に優れると考えられる。下流部門に強い事業者と協力体制を築ければ、強力な参入者となるだろう。または、小売市場には参加せず、卸電力の供給に注力することも一つの選択肢となる。
 上記でみてきた代表的な4業種以外にも、規模は小さいながらも消費者の観点から注目すべき動きを見せるのが、生協系の新電力である。生活協同組合は、サービスの特性上、環境意識の高い利用者が多い。そういった消費者は、多少の追加費用(プレミアム)を払ってでも再生可能エネルギーのような環境に優しい電気を購入したいと考える可能性は高い。特定の顧客へ独自のサービスが展開できる。
 このように自由化された電力市場では、それぞれの新電力が、それぞれの強みを最大限に発揮しつつ競争力を磨き、多様なサービスを提供してくることが期待できる。多様なサービスの提供は、消費者にとっても大きなメリットとなる。



送配電部門は独立の規制機関で公平性・透明性の確保を
 では、このまま自由化を進めれば、このような競争が発生し、多様性のあるサービスが生まれるのであろうか。NIRA対談シリーズNo.65「電力共有システムは垂直統合型から構造分離型へ」において山田は、「市場の透明性と中立性がなければ市場活性化は無理で、新規参入者が入らない」と警告している。また、中立性および透明性を担保するために、送配電部門に対する独立規制当局を設立することについて議論すべきであると主張している。
 どういうことか。電力市場の中立性と透明性を担保するために肝となるのは、小売自由化と共に進められている発送電分離なのである。送配電部門(図参照)は、公共インフラとして、誰もが同条件で利用できるよう中立化され、公平性と透明性が担保されなければならない。この送配電部門において、特定の者が有利もしくは不利になるような制度、または、有する強みを生かせないような制度となれば、サービスの多様性は制限され、小売の全面自由化は、その意義が大きく損なわれることになる。ライバル不在で電力会社の地域独占が維持される可能性もあり得る。これでは、自由化から得られる消費者の利便性は大きく損なわれてしまうだろう。公平性・透明性が確保された制度が設計されるためには、審議会などの国民に開かれた場で議論される必要がある。それにより、サービスの多様性が確保され、電力市場の競争がさらに促進されることを期待したい。


参考文献
Grant, Robert M.「Contemporary Strategy Analysis」6th edition, Oxford: Blackwell Publishing, 2008.

西山裕也 NIRA主任研究員


<関連頁>
電力供給システムは垂直統合型から構造分離型へ」(NIRA対談シリーズ/2011年10月)

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