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NIRA政策提言ハイライト

TPP交渉と国際標準化

NIRA政策提言ハイライト 2014/05発行

国際標準化への影響を狙う二国間協議
 環太平洋連携協定(TPP)の交渉が最終合意の形成に向けて佳境に入り、参加国の二国間での交渉も大詰めを迎えている。日米並行協議では、重要農産品や自動車の関税が焦点となったが、その他にも知的財産権や労働規制など関税以外で自由貿易と各国の市場への参入を妨げる要因となる非関税障壁に関して議論が続けられている。
 そうした非関税障壁の1つ、自動車の安全・環境基準については日米の厳しい議論の応酬があった。この自動車の安全・環境基準は、日EU・EPA交渉でも焦点となったが、そうした動きが活発化しているのは、EPAやTPPの協議と別に進められている自動車分野の国際基準・標準化の交渉を自国に有利に進めるための布石づくりでもあるのだ。国際基準・標準は、国際会議・国際機関 (民間・政府間とも)で選択・決定され、1995年のWTO/TBT協定に従ってWTO加盟国が受け入れることになっている。この国際基準・標準は純粋に技術的な理由で採用・決定されるのではなく、実績などの情報を駆使した政治的駆引きの末の決定となることも多い。そこでNIRA報告書『アジアを内需に―規格・制度の標準化で―』 (2009年10月)で指摘したように、各国政府はEPAなど国際基準・標準の選択交渉の場の外で自国の産業に有利な基準や標準を政治的に採用するなどして既成事実を積み上げることで、国際基準・標準の選択やその交渉プロセスに間接的に大きな影響を与えようとしているのである。



自動車の安全・環境基準の国際的な調和と相互認証の進展

  自動車には、工業製品としての規格や標準(互換性や品質などを共通・統一的に定める取り決めで基本的に任意遵守)に加え、様々な安全基準、環境基準(自動車など交通・輸送機分野では法律等で規定され強制的に遵守すべき規格・標準を「基準」という)が設けられている。これまでは、国や地域により異なる生活・文化や環境などを背景に各国が独自に構築した安全・環境基準とその認証制度が存在し、また日・欧・米と有力な自動車メーカーを抱える3つの国・地域の力が拮抗していることなどから、国際的な基準・標準の統一や相互認証制度の構築がなかなか進まなかった。例えば、1958年に国連傘下の欧州経済委員会で、自動車の構造及び装置の安全・環境に関する統一基準の制定と相互承認を図る多国間協定(1958年協定)が設定され、さらには1987年に同委員会に「国連自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」が設置されたが、設置当初の参加国は欧州域内に限定される状況が続いた。日本が主導した1995年のWP29 の運営見直しにより、欧州域外の国・地域もWP29への参加が促進されたが、国際的な基準調和、相互承認の進展速度は緩かった。
 とはいうものの、WP29の運営見直しから20年近くが経過し、WP29の2大勢力である欧州と日本の間では、自動車の安全・環境分野基準の調和と相互認証の摺合せがある程度進んでいた。EUだけではなく、日本もWP29で自国の基準をもとにした提案をすることで、国際基準に自国発の基準を埋め込む戦略をとってきた。 2013年4月に始まった日EU・EPA交渉で自動車安全・環境基準と認証制度が争点になったときに、同年11月開催のWP29で提案する世界共通の安全・環境基準の相互認証制度において日EU・EPA交渉とWP29での問題を一挙に解決しようとの合意ができたのも、そうした背景があった。さらに日EU では2016年に共通の自動車安全・環境性能基準を採用することになっている。
 それに対し、自国の基準を基にした国際的な基準調和を主張し、欧州が中心のWP29には部分的にしか参加してこなかったのがアメリカである。しかし、新興国もWP29参加への関心を強めており、自動車分野の「国際基準・標準」機関としてのWP29の影響力は大きくなっている。とはいえ、まだ世界共通の自動車安全・環境基準や認証制度がWP29で決定、採択されたわけではない。そこで、アメリカはWP29の主要参加国である日本や韓国に、EPAやTPPなどの政治・外交的な協議の場で自国の安全・環境基準の受入れを迫ることによって、間接的に国際基準・標準を自国に有利な方向へと向かわせようとしているのである。

適切な対応が迫られる
 これまで、安全性や環境基準など国が強制的に適用させる規格に関しては、各国・地域の環境・事情に合わせた独自性が認められる部分があり、国際的な統一化の 歩みは緩かった。しかし、ISOで安全性基準体系が規定されるなど、例外扱いの余地は徐々に小さくなってきている。今後、この分野の国際標準は国の規制や法規に深く関係するものだけに、国際標準化が進む過程では政治的な介入が様々な形で行われることになると思われる。EPA/FTAや地域経済連携協定の協議が、そうした国際標準化の交渉プロセスへの間接的な布石打ちの場に使われることも増えるであろう。日本も、そうした状況を十分踏まえた上での対応を迫られている。

森 直子  NIRA研究コーディネーター


<関連頁>
NIRA報告書『アジアを内需に ―規格・制度の標準化で―』(NIRA研究報告書/2009年10月)

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