利用方法

日本を動かす知をつなぎ、政策課題を論じ、ビジョンを提示するシンクタンク

トップ > 研究の成果と課題の発信 > NIRA政策提言ハイライト > 「旧」新興国BRICS:魅力は成長力から消費力へ

NIRA政策提言ハイライト

「旧」新興国BRICS:魅力は成長力から消費力へ

NIRA政策提言ハイライト 2013/12発行

要約
 BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の高い成長は、天然資源の採掘や安価な労働力の投入を主体としたものであった。彼らは、高所得国になった後にも持続的な成長を遂げるのに必要な経済構造を実現できておらず、このままでは「中所得国の罠」に陥りかねない。それにもかかわらず、対処策を依然として講じていないことを考えると、今後、BRICSは、「高成長から普通の成長となった国」の代名詞となるかもしれない。それでも、巨大な人口と比較的高い経済水準という観点から、BRICSは今後も、魅力的な最終消費地として、世界の注目を集めるだろう。



高い成長を遂げた中・印と、もともと普通の成長であった伯・ロ・南ア
 BRICSという言葉が登場したのは2001年で、当時、金融投資の世界で、成長力が見込まれる人口大国の頭文字を並べたものであった。このため、それぞれの間の経済的な連携はなかったが、世界の注目が継続すると、相互間の連携を確認する場として「BRICSサミット」を2009年から開催するなど、BRICSは単なる用語から実体のある枠組みとなっている。
 このように、経済力や経済面での国際的な発言力を連携して高めていこうとしているBRICSであるが、少なくともBRICSという用語が誕生してから、ブラジルと南アフリカは、成長率の世界平均と比べ突出した成長率にはなっておらず(図1)、GDPシェアの拡大に貢献したのは中国、インド、ロシアの3か国のみであった。かつ、ロシアはリーマンショック後に、インドも2012年に、世界平均とほぼ同程度の成長率となった。

資源採掘・輸出国の躓き
 Åslund(2013)は、資金流入ブームや国際商品価格高騰の終焉、キャッチアップ型の経済成長の限界、経済構造改革の遅れ、経済政策の誤りなどの問題にBRICSが直面し、成長率を高められていないことを指摘している。また、IMFの2013年秋の見通しでは、ブラジル、ロシア、南アフリカの実質成長率は、2018年までにかけて、世界平均と同程度で、かつ、ブラジルと南アフリカは高所得国入りの境界線の水準に近づいていかない(図2)[1]
 つまり、ブラジルと南アフリカは、「中所得国の罠」と呼ばれる状況になると読み取れる。「中所得国の罠」とは、NIRA政策レビュー「アジアにおける中所得国の罠とは」で解説しているように、天然資源の輸出や、安い生産要素の投入を主体とした生産の急拡大により、低所得国から急速に中所得国になった国が、その経済構造から転換できないと、他国との競争力を失い、高所得国になれないというものである。資源輸出国であるこの両国とロシアは、この罠に陥ったことがあり(図2)、2004年頃にこの「罠」から抜け出したようにみえたが、これは国際商品価格の高騰に伴い、資源の輸出で稼げたためである。
 こうした「幸運」があったことにより、彼らは、中所得国の罠に陥った後にも経済構造を変えられていない。高所得国になるには、生産性向上を経済成長の基本とする経済構造を持つことが必要となる。しかし、図3①をみると、ロシアでは2000年代後半にはTFP(全要素生産性)の上昇が成長にほとんど寄与しなかったばかりか、ブラジルと南アフリカでは、TFPは長期的に低下を続けた(図3②)。
 生産性が上昇していない一因として、そのカギとなる技術革新や研究開発に向けた政府の取組が弱い可能性が挙げられる。BRICS各国のR&D関連予算をみると(図4:国名は一人当たりGNIが高い順に並べた)、一人当たりGNIが高い国ほどR&D予算が多い中で、中国の取組が高い。ただし、いずれの国も世界平均より低い支出しかしていない。R&D投資の成果は数年経って出てくるものと考えられるが、R&D予算の小さいブラジルと南アフリカでは、高所得国入りを目前にして、努力不足が自らの足を引っ張ってしまう可能性がある。

中印は高成長を続けるか
 では、中国とインドは順調に高所得国入りをするだろうか。先述のIMFの見通しでは、中国は比較的高い成長を続け、インドも今後、中国の高い成長率に徐々に近づいていく姿が描かれている。しかし、両国の成長の源泉をみると、2000年代を通じて、非ICT関連の資本投入であった。この点で、他の3か国と大きな差はない。TFPの高い伸びが見られるが、これは、2000年代の中国とインドでは、農村部で生産性がゼロないし微小であった者が都市に行って生産効率の高い工業部門で働くこと(すなわち地域間・産業間の労働移動)によって、賃金が上がることなく、TFPが嵩上げされていたと考えられる。一方、この労働移動が中国とインドで一段落すれば、賃金が上昇し、これまでの「安い労働力」という資源を投入して成長するというモデルも成り立たなくなる。
 中国には残された時間は限られているが、同時に、図4で見たように、生産性上昇を成長の原動力とする経済に転換していこうとする努力は見られる。インドは、一人当たりGNIの水準から考えれば、まだ時間はあるため、経済発展のシナリオを適切に描きながら、中所得国の罠に陥らないようにしていくことが重要である[2]

BRICSの魅力がなくなるわけではない~結びに代えて
 BRICSがひとたび、グループとして経済外交に立てば、単なる金融投資先にとどまらず、大量の資金移動が世界経済のリスクとならないよう、頑強で透明な経済を実現していく必要性が生じる。また、普通程度の成長では、BRICSそのものの世界経済に対する影響力が弱まりかねないため、経済構造をタイムリーに変革し、今後の持続的な高い成長を実現していくことが重要となる。
 その際、合計で世界人口の42.8%を占める非常に大きな人口を持つ5か国が高所得国の手前まで来た(インドはもう少し時間がかかるが)という、成長のスピードとは別の魅力を活かしていくことができる。「中間所得層」と呼ばれる、消費を大幅に伸ばす所得層が、この5か国のみで16.4億人存在する[3]。この意味で、今は、かつてのBRICSに対する金融面での熱狂から、冷静な目でBRICSの実体経済面での魅力により着目していくべき時期になっている。生産性の高い経済への転換に向けた努力に加え、中間所得層の拡大という魅力を十分に発揮するには、外国人事業規制を含め、諸々の規制緩和なども重要となる。

江川暁夫 NIRA主任研究員


[1] 図2では、ロシアは2012年に高所得国入りした後、境界線を上側に離れていく形になっているが、
  実質成長率は世界平均程度であるので、物価要因がその背景にあると考えられる。
[2] これに関し、Rodrik(2013)は、まだ十分に分析されていないとしながらも、所得水準のあまりに低い
  段階でいたずらに脱工業化・サービス産業化を進めれば、製造業部門の有する所得の急上昇効果が
  十分に発揮されず、高所得国に追いつくことができなくなると述べる。
[3] Euromonitor International社のデータに基づく。2011年時点。なお、中間所得層の定義としては、
  他の研究等と同様、世帯年間可処分所得が5,000~35,000ドルの世帯に属する者とした。

参考文献
● 総合研究開発機構(2012)「アジアにおける中所得国の罠とは」NIRA政策レビューvol.58、
  2012年10月。
● Åslund, Anders, 2013 “Why Growth in Emerging Economies Is Likely to Fall” Peterson
  Institute for International Economics Working Paper Series WP13-10, November 2013.
● Rodrik, Dani, 2013 "The Perils of Premature Deindustrialization” Project Syndicate Website.
  (http://www.project-syndicate.org/commentary/dani-rodrikdeveloping-economies--
   missing-manufacturing)

このページのトップへ


 


 

 


<NIRA関連頁>
アジアにおける中所得国の罠とは」(NIRA政策レビュー/2012年10月)

<英文版>
Decoded: BRICS the ‘old’ emerging economies and their ‘new’ attractiveness as the centre of consumption power」(ブリューゲル研究所のブログ(2014年1月)に掲載)

このページのトップへ