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NIRA政策提言ハイライト

電力システム改革の先にあるもの

NIRA政策提言ハイライト 2013/2発行

戦後最大の電力システム改革
 2013年2月8日(金)は、戦後の日本の電気産業において、最も重要な1日となった。この日開催された総合資源エネルギー調査会総合部会第12回電力システム改革専門委員会(経済産業省資源エネルギー庁)において、これまで同委員会で検討が進められていた電力システム改革について、その政策メニューと工程表を含めた「電力システム改革専門委員会報告書(案)」がとりまとめられたのである(注1)。
 報告書案に提示されたメニューは、大きく、小売全面自由化、市場機能の活用、送配電の広域化・中立化、安定供給の確保の4本の柱(注2)からなり、それぞれが複数の政策メニューで構成されている(図表1参照)。この中で特に注目すべきなのが、小売全面自由化と、送配電の広域化・中立化で掲げられた送配電部門の法的分離である。小売全面自由化は、これまで特定規模(契約電力50kW以上)の大口需要家への小売に対してしか認められていなかった新規参入が一般家庭を含めた小口需要家への小売りにも全面的に解禁され、その料金設定も自由化される。これにより、従来の一般電気事業者は、規制により守られていた部門がなくなり、全ての小売部門において競争にさらされることとなる。そして、一般の消費者にとっては、他の一般の消費財と同じように、電力にも「選択の自由」が生まれることとなる。他方、法的分離というのは、今までの電力システムでは一般電気事業者が発電から送配電、小売までを一貫して担う「垂直統合型」であったのに対して、送配電部門を別会社に切り離すものである(注3)。これにより、これまで以上に、公共インフラである送配電部門の中立性が高まり、一般電気事業者と新規参入者が同等の条件で競争できるような環境が整うこととなる。
 これらの施策は、どちらも今までの電気事業環境を大きく変えるものであり、1990年代以降、4次にわたって行われてきた改革を大きく超える、戦後最大の電力システム改革と行っても過言では無い。その目的は、電気産業において、市場メカニズムを機能させることにある。

市場メカニズムを活用するための発送電分離・小売自由化
 NIRAオピニオンペーパーNo.7「電力システム改革の課題-「配給」から市場の活用」(2012年8月)において、伊藤元重(NIRA理事長)は、東日本大震災後に顕在化した日本の電力システムの問題点を指摘している。大規模集中型電源への過度の依存や広域的利用が進まない電線網、ユーザー側の選択肢の欠如などが問題点として取り上げられているが、これらは、今までの電力システムが地域独占的な垂直統合型であったことに起因する。伊藤は、このようなシステムを「配給的」な制度であると断じており、今後の電力システムは、より市場メカニズムを活用した制度にすることが望ましいと述べている。
同ペーパーでは、電力産業に市場メカニズムを取り入れる上で不可欠な施策として、発送電分離(アンバンドリング)と小売自由化を取り上げている。例えば、電気通信分野では、アンバンドリングによって通信ネットワークインフラが開放された結果、多様な事業者が参入しブロードバンドの普及につながった。電力においても同様のことが期待される。つまり、送配電ネットワークというインフラを解放することで、発電および小売に多様な事業者の参入が促される。加えて、小売が自由化されれば、多様な参加者が競い合うことで多様なサービスが生まれる。これにより、ユーザーにとって多様な選択肢が生まれることが期待できる。

電力システム改革の先にあるもの
 電力システム改革は、報告書に掲げられた政策メニューを実行すればそれで完了するのだろうか。最終的な目的は、日本の電力システムが、社会や消費者が求めるニーズに的確に対応し、新たなサービスを継続的に生み出していけるようになることであろう。そのためには、技術革新とビジネス革新が欠かせない。伊藤は、前述のペーパーにおいて、市場機能を強化し、多様な事業者の参入を促せば、イノベーションが促進されると主張している。市場に参加する事業者が競争の中で切磋琢磨することにより、デマンドレスポンスを含めた新たな料金体系や、再生可能エネルギーのさらなる有効活用が促進される。また、これらの新規サービスは、電力のみにとどまらず、様々なエネルギーとの競争と連携が行われることが理想であるとしている。
電力産業において市場原理が活性化すれば、電力の枠をも超えた多様なサービスが生まれてくるだろう。ユーザーはそのメリットを最大限に享受する。報告書に掲げられた政策メニューは、そのためのツールにすぎない。工程表における第三段階の後が、本当の意味での電力システム改革なのである。

(注1)報告書および工程表は、2月15日付けで経済産業省のホームページに掲載された。
(注2)報告書では、これら4本の柱の他、「その他の制度改革」として、新しい規制組織の創設、自己託送や自営線供給の制度化などについても言及している。
(注3)ただし、一般電気事業者の子会社となるため、資本関係は残る。資本関係を切り離した場合は、「所有権分離」となるが、報告書ではそこまで求めていない。


西山裕也 NIRA主任研究員 

<リンク>
電力システム改革の課題-「配給」から市場の活用」(NIRAオピニオンペーパーNo.7/2012年8月)

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