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NIRA政策提言ハイライト

欧州の危機は去ったのか

NIRA政策提言ハイライト 2013/2発行

小康状態は暫定的な姿
 2009年末から始まったユーロ危機は、 発生から約3年が経過した現在、小康状態にある。それは、昨秋から年明けにかけての、 欧州中央銀行(ECB)による国債の無制限購入表明と欧州安定メカニズム(ESM)の発足、さらにEUの新たな 「財政協定(経済通貨同盟(EMU)における安定、協調、統治に関する条約)」の発効が大きく影響している。今後は、 ECBの国債購入とともに、ESMが7,000億ユーロ(約84兆円)の資金枠を使い、問題がおきた国に対して迅速に融資したり、 国債を買い支えることによって、金融危機の広がりを抑え、さらに新「財政協定」で財政均衡への是正措置が迅速に実施されることになる。 これらの危機対応策が出そろったことで、金融市場が落ち着きを取り戻したのである。加えて、 2012年11月に懸案だったギリシャの議会で財政緊縮策が可決されたことも市場が好感した。しかし、 これで欧州における危機は終息したわけではない。

危機の再燃の可能性と未完成の対応策
 2013年1月に公表したNIRA対談シリーズNo.70 「ユーロ危機:何を学ぶのか?」(英語版は「The Euro Crisis: What We Should Learn」2012年12月公表)では、 ユーロ圏内の当面の危機対応策の効果は上がっているものの、現行制度は限界に近づいていることを指摘している。現状をみれば、 危機の発生源である南欧諸国では、財政緊縮策と金融規制強化の政策が同時に導入されたため、景気が上向かず厳しい経済状況が続いている。 IMFの2012年秋の経済予測では、現在は内需収縮による景気後退に悩む南欧諸国も、 2014年(ギリシャのみ2015年)には競争力と輸出シェアの回復によって経済が成長軌道に乗るとしているが、 それは構造改革と財政調整が成功するとの前提にたった予測であり、そのシナリオが外れて経済状況が悪化したままであれば、 金融不安が再燃する可能性はある。問題を抱えた南欧諸国が一斉に支援を求めた場合、現在のESMの資金枠では不足に陥るとの推計もある。 また、新「財政協定」は、 各国における財政規律の強化および財政均衡から外れてしまった場合の制裁と是正手続きの自動化などを規定しているが、 欧州レベルでの財政協調に踏み込んでいるわけではないため、 財政緊縮策の導入にも関わらず財政均衡の回復が進まない場合や財政緊縮策に対する各国国内での反対が高まったときの対応が明確ではない。 一旦は財政緊縮策を受け入れたギリシャやイタリアなどで、失業率が上昇を続けている(図参照)ことから社会的不満は増大しており、 財政緊縮策が本当に順調に進むのかについての不安がでてきている。設置済みの危機への「消火装置」「防火壁」は、未完成の要素が多い。

欧州全体での合意形成の難しさ
 より抜本的に危機を解決するには、 欧州レベルでの金融政策の一体化や、財政統合を進める必要があるとされる。しかし、それは容易ではない。 そもそも多様な利害をもつ国の集まりであるEUで、各国の国益に優先して欧州全体の利益を確保することに対して、 現時点では政治的コンセンサスが形成されていない。
 たとえば、上述の対談でも指摘されているように、ユーロ危機では、政府と銀行の間にある悪い依存関係、 悪循環による信用リスクの発生が問題となったため、銀行への監督、管理、救済メカニズムを欧州全体で整備する必要性が指摘され、欧州 「銀行同盟(banking union)」の設立が目指されている。しかし、2012年6月に基本的な合意がなされたものの、 銀行政策の連邦化を意味する銀行同盟に対しては域内で未だ見解の相違があり、設置時期や内容など詳細は明確になっていない。 当面はECBにユーロ圏の銀行に対する単一の監督権限を付与し(遅くとも2014年1月からフル稼働)、 政府と銀行の間の悪循環を断ち切るための第一歩を踏み出すということである。また、 ユーロ圏の特定の加盟国が被った経済ショックを吸収するための「連帯基金」 の設置や加盟国の政府債務の共通化と相互保証を可能とするユーロ共同債の導入などによって欧州の財政統合を進展させる提案がEU首脳会議に提出されているが、 いずれも反対を表明する国があるため、本格的な議論は今後に先送りされている。
 このように、急速に欧州統合を深化させることは難しいのである。当面、財政統合や金融・銀行政策の一体化をしないままでの、 欧州諸国の協調の積み重ねで、危機の再燃の防止をしていかねばならない。



森 直子 NIRA主任研究員


<リンク>
ユーロ危機:何を学ぶのか?」(NIRA対談シリーズNo.70/2013年1月)
 (英語版:「The Euro Crisis: What We Should LearnNIRA Interview Series No.70/December 21, 2012)

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