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NIRA政策提言ハイライト

非正規雇用に関わる雇用リスクと老後生活リスク

NIRA政策提言ハイライト 2012/08発行

非正規雇用の急増
 就職氷河期(1993~2004年)以降、 若年非正規雇用が増大したことは、よく知られた事実である(図表1)。
 この若年非正規雇用の現状と政策対応の在り方について取り上げたものが、NIRA報告書『就職氷河期世代のきわどさ―高まる雇用リスクにどう対応すべきか』(2008年4月)、である。
 報告書では、この若年層における非正規雇用の増加を、今後の日本社会に大きな影響を与える問題であると位置づけ、 雇用のリスクをだれが負うべきか考えることを促し、また、雇用にかかわる新しい制度設計と大規模な就労支援を提案している。
 図表1 増加する非正規雇用
非正規雇用と雇用リスク
 上記の報告書およびNIRA対談シリーズ「非正規労働の現状と今後」 (2008年4月)において、阿部正浩獨協大学教授は、今後の雇用リスクの負担について次のように指摘している。
 雇用リスクの担い手は、従来の「企業」から、「個人」に代わりつつあり、特に、「非正規雇用」の人々にその負担がかかっている。
 個人にとっての雇用のリスクは、すなわち生計費リスクということになる。 従来の非正規雇用が縁辺労働力や補助的な所得稼得者(主婦のパートや学生のアルバイトなど)であったのに対し、現在では、 主たる生計維持者が増加している。非正規雇用は、「家計補助的」に所得を得ている限りは問題は少ない。しかし、家計の主たる所得稼得者、 つまり非正規雇用による所得で生活をやりくりしていく場合は、困難の多い働き方となる。

非正規雇用の老後生活リスク
 個人のライフサイクルで非正規雇用のリスクを考えてみると、 生計費リスクが顕在化しやすいのは、働くことができなくなる「老後」である。
 正規雇用の場合は、現役時代に老後の備えを企業と共に行うことが可能で、厚生年金に加入すると所得に応じた年金保険料を、 給与からの徴収により必ず納める仕組みとなり、老後には現役時代の所得に応じた生活資金(年金)を受給することになる。これに対して、 非正規雇用の場合は、厚生年金に加入する場合もあるが、国民年金に加入する場合は個人の責任で手続き・納付するため、 年金保険料の滞納という可能性が生じてしまう。
 そこで、こうしたリスクの高い働き方の人のうち、 年金加入状況等から老後生活困窮者となる可能性の高い人たち(潜在的老後生活困窮者)とその財政的コスト(老後生活保護費)を試算してみよう。 具体的には、就職氷河期以降の人々について、働き方の変化(非正規の増加と、家事・ 通学をしていない無業者の増加)によって生じる潜在的な老後生活保護受給者を計算することとする。
 ここで、報告書公表と同じ方法で、新しいデータ(2007年ベース)による同様の計算を行うと次の結果となる(図表2)。
 2007年10月時点で25-34歳の人々(1982年10月1日-1967年10月2日出生コーホート)を就職氷河期以降の世代とした。 彼らのうち、非正規と無業、特に女性についてはそのうち未婚学卒者のみをとり出すと、383万人存在する。このうち、 国民年金滞納割合と65歳までの生残率(生き残る確率)によって潜在的老後生活困窮者となるのは、111万人程度と考えられる。このうち、 15年前と比べて変化した非正規雇用等の増加分は62万人程度である。彼らが高齢期に生活保護を受給すると、追加的に必要な費用は累計で、 14兆円程度必要となる。
 なお、この額は、報告書の結果(2002年のデータ)よりも少ない規模である(報告書では、17兆円)。その大きな理由は、 かつては30代前半で未婚学卒女性非正規だった人が既婚となったことによる。つまり、5年間に、婚姻という形で、 リスクが減少した人が一定割合いたということである。

図表2 潜在的老後生活困窮者 
新たな雇用制度設計の必要性
 非正規雇用の雇用リスク、老後のリスクへ対応するために、 雇用も含む経済社会制度の総合的な見直しが求められる。
 そのためには、非正規雇用者にも対象範囲を広げた雇用に関するセーフティー・ネットの再設計、 実効性のある非正規雇用から正規雇用への転換支援政策、雇用支援策の科学的な政策評価などが求められており、ワーク・ライフ・ バランスの確保も含めて雇用制度全体の制度設計の方向性について国民的な合意の形成が必要とされている。

辻 明子 NIRA主任研究員


<リンク>
就職氷河期世代のきわどさ―高まる雇用リスクにどう対応すべきか』(NIRA研究報告書/2008年4月)

非正規労働の現状と今後」(NIRA対談シリーズ第31回/2008年4月)
ゲスト:阿部正浩獨協大学経済学部教授 聞き手:伊藤元重NIRA理事長

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